合コン狂想詩 | ちえ☆ライブラリー

合コン狂想詩

100円ショップにカレシ君と出かけた。
店内を一通り歩いてみて、あるモノを見つけ、私は吸い寄せられるように手が伸びた。

「合コン必勝本・女性編」

誰が買うんじゃっ!こんなモン!(爆)さすが100円ショップさながらの品揃えだ。
普通の本屋で売ってそうにないものがある。
でも、仮にだ。
この本が欲しいと思ってもコレをレジに持っていって会計をする、
勇気ある女性がどれほど居るのだろうか?(苦笑)

こんなもの、幾られっきとしたひとつの商品とは言え、実際に買うお客に対して
「この人、こんなもの買うほど切羽詰ってるのねぇ・・・男漁りに必死なんだね」
とレジのオネーチャンは必ず買い手を疑うだろうし、実際そう思われても仕方がないだろう。

それにこの本、「女性編」と大きく明記してあるぞ。
ってことは、「男性編」も置いてあるってことか?
とにかく、どうしても中身が見てみたい。

パラパラと開いてみる。
何々・・・?
「お金持ち攻略編・馬鹿ボン(金持ちの息子)攻略編・安定型公務員攻略編・オジサンコンパ攻略編」

あははははは! 凄い丁寧じゃん。パターン別に詳しく解説が載ってるよ。
これ、100円にしては中々面白そうじゃん!

クスクス笑いながら立ち読みしていると、別の場所を見に行っていたカレシ君が帰って来た。
「ちえさん、何読んでるの?」
「ああ、コレ。面白いんだよー!つい、読みふけっちゃう。」
私はカレシ君に本の表紙を見せた。
カレシ君、ほんの少し顔をゆがめた。もしかして私がコンパに興味があるとでも思ったのか?

「そんなに面白かったら、その本買いなよ」
「いらないよ!私、コンパに興味ないもん。でも、女性側がコンパの際注意すべき、男の心理なんかが色々書かれてて、なるほどなって納得する事が多いもんで面白くってついつい読んじゃった。案外100円にしては使える本かもね~」

そういいながら、私は本を所定の場所にしまった。

男の心理。本に書いてあったことはこうだ。
「男はブランド女が苦手。いくら素敵な女性でも、ブランド品ばかり身につけていると”金の掛かる女だ”と思い、手に負えない女と判断して逃げていく。コンパの際はブランド品は身につけていかないほうが無難」
「幾らお腹がすいていても、出された食事をバクバク食べていたり、ガバガバお酒を飲んでいるのはタブー。控えめなほうがウケが良い」
「相手のグラスのお酒が減っていたら、すぐに、しかもさりげなく注ぎ足してあげる女性は一目置かれる。世話上手なのをやんわりアピールすること。」

うんうん、いいツボついてるじゃない。コレは全ての男性に共通する心理だろう。
でしゃばりすぎても、引っ込みすぎてもいけないさじ加減。これを男は要求してくるんだよ。

ちなみに、読んでいて一番面白かったのが、「オジサンコンパ編」だ。

オジサンと一緒の場合は、大概既婚者なので遠慮がいらないらしい。
若い女性と一緒に飲むのが楽しいので、ガバガバ食べようとグビグビお酒を飲もうと、
「ドンドンいきなさい。おじさんのおごりだから!」と大らかに受け止めてくれるし
気を遣う必要がないらしい。服装だって、適当でオッケーだと書いてあった。
が、いやらしい話ばかりしてくるオジサンに甘い顔をしているとつけあがるので、
「そういうどうしようもないおじさんには、ここぞと言う時には一発蹴りをいれてやりなさい!」
と明記してあったよ(爆)。

その後カレシ君のウチへ。買ってきたお寿司を二人で食べながらテレビを見ていた。
私はあの「合コン必勝本」をふっと思い出した。
それに連鎖して、ある思い出が脳裏によみがえった。嫌な思い出だ。

「おじさん、かぁ・・・」
ふと、思ったことが口に出た。カレシ君は聞き逃さなかった。
「ちえさん、さっき”おじさん”って言ったな?何だ?オレのことか?」
「いや、違う。ごめん、何でもないんだって」
「何やねん?気になるやろ~。いきなりそんなこと言って」

私は黙っていようと思ったのだが、カレシ君を混乱させてはいけないと思い話しをすることにした。
「実は、ちょっと思い出したんだ。前勤めていた会社でね、違う部署の上司にご飯食べに行こうって誘われたの。私その頃まだ21歳くらいで、うまい断り方が出来なかった。しかもその上司、私と2人で行くつもりだったらしいのね。私、困っちゃった。どう断ればいいのか解らないまま”はぁ・・・まぁ・・”と返事しちゃったお陰でOKと取られて、当日になっちゃった。」

カレシ君は真剣に私の目を見ていた。

「それで、どうしようもなくなって、やっと同じ課の先輩に相談したの。先輩、”どうして他の女の子も一緒でいいですかって言わなかったの?確かに一緒に行けば美味しいもの食べさせてくれるだろうけど、その後は保障できないよ、2人だけだったら!ちえちゃん、今日がその約束の日?行かないほうがいい。私が上司が来るか見張っていてあげるから、定時を回ったら上司に見つからないようにすぐ帰るんだよ。”」

優しい先輩はそうやって私を帰らせて、後で私を探しににやってきた上司に、
「今日帰ったみたいですよ~?彼女に何か用なんですか?」と、とぼけてくれた。

「・・・こんなことがあったんだ。あの頃、私はまだまだ子供で、うまくかわせない事が多かったの。あの時の先輩の機転は嬉しかったなぁ。・・・100円ショップの本からこんな事を思い出すなんて、記憶の引き出しはどこから飛び出るか、本当にわかんないね」
カレシ君にそう話す。
ようやく、カレシ君の顔が安堵の色に変わった。

ああ、思わず出た一言で、余分な心配をさせちまったな。すまない、カレシ君。(反省)

ところで、一度だけだが、今の職場の先輩に「合コン」の頭数揃え要員として
借り出された事があった。
先輩の要望なので断れなかった。
先輩も、「ちえちゃんはただ座ってくれればいいからね」と言ってるし。

行った先で3人の男性と合流。
私は全く興味がないし、どうだっていい。時が流れてくれるのを待つだけだ。
適当に食事して適当に会話して、適当にカラオケしてサヨナラだ。
どうせ今日一日だけだしな。

そう思っているのは私の方で、男性側はそうでもないみたいだった。
名前を聞かれたのでフルネームで応えると、その直後から頻繁に「ちえちゃん」よわ張りだ。
ハッキリ言って、うざい。

”お前、誰だよ?初対面だろ?急に気安く下の名前で呼ぶんじゃねぇよ!”

心の中が煮えくり返る。私は馴れ馴れしい男が大嫌いだ。
一応先輩の手前、笑顔で普通にかわしたが、早く帰りたくてしょうがなかった。
もう2度と、付き合いでも行きたくない。仮にどうしてもと誘われても絶対行かない。
そう心に誓った一瞬だった。