2024年6月28日(金)

 相変わらずブログを書く気力がないので、この半年余りの間に見た映画の個人的な備忘メモを(今回は外国映画。日本映画はさらに数が多いのでいずれ改めて)。

 数が多いので出来るだけ感想部分は省略して映画名と個人的評価(5点満点。参考として映画サイトIMDbの評点=10点満点も付記)を記載することにする。

 

・「スター・ウォーズ 帝国の逆襲(1980年)」(アーヴィン・カーシュナー監督) 3.5点(IMDb 8.7) 英国版DVDで再見

 どういう訳か(視聴したきっかけを忘れてしまった)シリーズのうち今作だけを再視聴(既に10回くらいは見ているだろう)。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」などのスピンオフ作品を除いた映画シリーズ9作のうちではやはり今作が最高作だろう(そしてスピンオフの「ローグ・ワン」はさらに優れているかも知れない)。

 

 

・「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル(2023年)」(ジェームズ・マンゴールド監督) 3.0点(IMDb 6.8) インターネットで視聴

 予想していた程ひどくはなかったものの、過去作(特に1作目)の使いまわしが多く、前作「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」での宇宙人の登場に続き、今回は主人公が過去にタイムスリップして実物のアルキメデスと邂逅する場面もあり、ここまで「何でもあり」の大盤振る舞いを目の当たりにすると、1作目(「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」)の牧歌的な冒険活劇が一番良かったと思わずにいられない。

 さらにはCGでハリソン・フォードを若返らせたりもしていて(これが意外にも全く不自然ではない)、確かに映像技術の進歩は凄いと思わされたものの、それが映画のリアリティや面白さに必ずしも結びついていないのも事実である。

 

 

・「ミッション(1986年)」(ローランド・ジョフィ監督) 3.5点(IMDb 7.4) テレビ放映を録画したもので再見

 映像(や色彩)、音楽、シナリオのいずれも悪くないし、ジェレミー・アイアンズやロバート・デ・ニーロの演技も巧みで見ごたえのある作品なのだが、イエズス会の(かなり好意的な)描き方や、ポルトガルやスペイン、法王庁などの欺瞞を描きつつも西欧的視点があからさまに見られ、原住民=犠牲者、国家や教会=簒奪者という単純な図式にも疑念を覚えるしかない。
 

 

・「ダウントン・アビー(2019年)」(マイケル・エングラー監督) 2.5点(IMDb 7.5) 日本版DVDで視聴

 王室や王室に仕える従業員に対する批判こそ描かれてはいるものの、テレビ・ドラマ版の毒気がすっかり抜かれ、最近はやりのPC(政治的正しさ)も加わって、すっかり保守的な内容に成り下がってしまった。細かいエピソードの全てがめでたしめでたしのハッピー・エンディングに収束してしまうのも陳腐極まりなく、最後のバルコニーでのダンス・シーンには失笑を禁じ得なかった。

 

 

・「ダウントン・アビー/新たなる時代へ(2022年)」(サイモン・カーティス監督) 2.0点(IMDb 7.4) 日本版DVDで視聴

 前作以上にご都合主義に満ちみちた作品で、結局シリーズものはこうした当たり障りのない結末になるのが常だということを改めて痛感させられる凡庸極まりない出来。さすがにこれで今作も打ち切りだろうと思っていたら、最近になって第3弾の制作が決定したという報道に接し、結局昨今の観客たちは映画にもこうした陳腐な凡庸さを求めているのかと嘆息するしかない。

 

 

・「狼は天使の匂い(1972年) 原題:La Course du lièvre à travers les champs」(ルネ・クレマン監督) 3.0点(IMDb 6.7) インターネットで視聴

 ハードボイルド作家・原尞お気に入りの一作とのことで見てみたのだが、個人的には全く乗れなかった。最後のクライマックス以降は悪くないのだが、そこに至るまでが単調かつ退屈、しかもご都合主義な展開だらけで、主人公たちが劇場で偶然白衣の女に遭遇するのも余りに都合が良すぎる。またそれまでのスタティックな雰囲気とはそぐわない大胆な強奪方法も違和感ありあり。そもそも誰がどうやって巨大な消防車をあのビルに運び込んだのかも疑問でしかない。

 

 

・「ハメット(1982年)」(ヴィム・ヴェンダース監督) 3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで視聴

 舞台が1920年代のサン・フランシスコということもあってかヴェンダースらしさが感じられないものの(低予算のせいかセットも実に安っぽい)、雰囲気自体は決して悪くない。如何せん物語が余りにこじんまりとしていて面白みに欠け、結末も予想範囲内で意外性のかけらもないのが難点。

 昨2023年に亡くなったフレデリック・フォレストはハメット役を好演。欧米の映画ではよくあることだが、主演(?)の中国人女性が(西欧人の好みなのか)私の目には全然魅力的に映らない(ハメットと同じアパートに住む白人女性役の方が遙かに魅力的である)。

 

 

・「ナチュラル(1984年)」(バリー・レヴィンソン監督) 3.0点(IMDb 7.4) 日本版DVDで再見

 とにかく撮影と美術が見事。内容もそれなりによく出来た野球映画で、観客席のエキストラなどまでしっかり金をかけているのはさすがハリウッド作品で見ごたえあり。

 しかし同時にリアリティを毀損するような非現実的な場面やご都合主義の展開も多く、最悪なのは終盤でボールが野球場の照明に当たり、次々と仕掛け花火のように弾けてグラウンドまで無数の火花が落ちていく幻想的(?)なシーンで、その幼稚さに一気に脱力させられた(対称的に映画の終わり方は見事)。

 

 

・「ノーマ・レイ(1979年)」(マーティン・リット監督) 3.0点(IMDb 7.3) 日本版DVDで再見(?)

 黒人などへの差別が根強く残るアメリカ南部を舞台にした、製紙工場での組合設立を巡る一種の英雄譚である。実在の女性Crystal Lee Suttonをモデルとする主人公は、父親の違う3人の子供を育てながら製紙工場で働く無学の女性で、サリー・フィールドがこの活動的で頑固な女性像を見事に造型している。

 この種の作品を素直に感動して肯定的に受け止めるか、それとも一定の感動は覚えながら「英雄」が祀り上げられていくことにある種の恐ろしさを感じるかどうかは、観客自らが経験した年代や政治思想などによって異なって来るだろう。

 今作はいわば1970年代終盤という時代背景を濃厚に反映したプロパガンダ映画であり、労働者と資本家、権力と民衆といった二項対立を極めて図式的に描いており、「UNION(組合)」と書いた紙を高く掲げながら労働者の団結や権力への抵抗を声高に叫ぶサリー・フィールドが最後はイエス・キリストにまで重ね合わせられていく様を、バブル世代でノンポリの私は素直に受け止められなかった。

 


・「恐怖の報酬 オリジナル完全版(1977年)原題:Sorcerer」(ウィリアム・フリードキン監督) 3.5点(IMDb 7.7) 日本版DVDで視聴

 (同じウィリアム・フリードキン監督の)「エクソシスト」同様、映像は美しく重厚で、画面を目で追っていくだけでも堪能できる映画らしい映画である。

 傑作のほまれ高いアンリ・ジョルジュ・クルーゾーのオリジナル版と比較せずに見ればそれなりに楽しめるサスペンス作品になっている。冒頭のテロ爆破シーンからして本物の映像なのではないかと思うような迫力で、豪雨の中で老朽化した木橋をニトログリセリンを積んだトラックが渡っていくシーンにしても、俳優たちが命がけで撮影しただろうと思わせる迫真の出来である。苦い結末が待ち受けている最後のダンス・シーンも印象的である。

 

 

・「ポール・ボウルズの告白~シェタリング・スカイを書いた男~(2000年)原題:Let It Come Down: The Life of Paul Bowles」(ジェニファー・バイチウォル監督) 2.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 ポール・ボウルズの他にウィリアム・バロウズやアレン・ギンズバーグら、モロッコのタンジールで交流を持ったアメリカ文学者たちが出演するドキュメンタリー作品。

 バロウズによればボウルズは典型的なニュー・イングランド人であらゆる宗教を拒み、シニカルで人を寄せ付けない人物だそうなのだが、今作中での発言からもボウルズの極めて厭世的な世界観は如実に感じられる。自身も出演したベルトルッチの「シェルタリング・スカイ」に対してもボウルズは極めて辛辣で、特にそのエンディングはひどいものだったと酷評している。

 (茹でた?)羊の頭部をナイフで切り刻んでいく冒頭シーンは必要性が分からないものの極めてショッキングな映像である。

 

 

・「未知との遭遇(1977年)オリジナル劇場版」(スティーヴン・スピルバーグ監督) 3.5点(IMDb 7.6) 日本版DVDで視聴

 これまで「特別編」や「ファイナル・カット版」しか見たことがなく、この劇場公開版は初鑑賞。劇場公開から程なくして監督自身が修正せずにいられなかっただけあって、シーン選択やつなぎにまだまだ未熟な部分が見られる。また、ユーモアを狙いながら外している挿話もあり、反対に後のヴァージョンではカットしたせいで流れが分かりづらくなってしまったシーンが残ってもいて(最初の発電所での挿話など)、今ヴァージョンを見て初めて納得が行く箇所も少なくなかった。

 細かいことだが、劇中に登場する新聞記事の見出しの「誘拐」が「kidnaping」と「p」がひとつ抜けているのは単純ミスか。

 

 

・「裸のランチ(1991年)」(デイヴィッド・クローネンバーグ監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 ウィリアム・S・バロウズ原作(未読)。

 ドラッグ中毒者の妄想を描いていて意味不明な箇所も多いが、映像的な面白みで見せる。オーネット・コールマン演奏の音楽も良い。バロウズが妻を誤って(?)射殺したという事実が余りに衝撃的なためか、結末はいささかありきたりで尻すぼみの感も。

 

 

・「Perfect Days(2023年)」(ヴィム・ヴェンダース監督) 3.5点(IMDb 7.9) インターネットで視聴

 ヴェンダースが偏愛する古い日本映画に出て来るような、もはや現実にはどこにも存在しないノスタルジックな風景に満ち溢れた懐古的な日本が舞台。劇中に登場するスカイツリーは、「ベルリン・天使の詩」における戦勝記念塔やブランデンブルク門に相当か。

 非現実的でありながらも欧米映画によく見られるような「奇妙奇天烈な日本」の描写はほとんど見られず、主人公が姪や妹とハグするシーンにかろうじて外国人監督の存在を感じさせられる。

 作中で主人公が読んでいる文庫本はフォークナーの「野生の棕櫚」(復刊された新潮文庫版)や幸田文の「木」、パトリシア・ハイスミスの「11の物語」など個性的な選択で、音楽の選曲もいつもながらに悪くない。

 

 

・「丘(1965年)」(シドニー・ルメット監督) 3.5点(IMDb 7.9) 日本版DVDで視聴

 英国版「真空地帯」? 軍事刑務所を舞台に、軍隊の理不尽で異常なシステムと、その体制を結果的に維持してしまっている兵士や医師らの姿がシニカルに描かれている。前半はやや退屈だが、後半になって閉ざされた軍隊内部における指揮命令系統の異常さが一気に露呈し、結末までは一気呵成である。独裁的な特務曹長役のハリー・アンドリュースが熱演。クレーン撮影が効果的に用いられている。

 

 

・「楽園の瑕 終極版(1994年/2008年)原題:東邪西毒」(ウォン・カーウァイ監督) 3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 オリジナル版は未見。

 世評の悪さ通り、ナレーションを多用してアクション・シーンをコマ飛ばしして誤魔化すなど映画的に物足りない部分が少なくなく、また私のように中国の武侠小説に馴染みのない人間には登場人物たちの関係性も分かりづらいのだが、映像の美しさとヨーヨー・マが朗々とかなでるチェロの音色に幻惑され、ついつい最後まで見入ってしまう。

 レスリー・チャンやトニー・レオン、ブリジット・リン、マギー・チャン、レオン・カーフェイなど、香港映画&ウォン・カーウァイ作品の常連が集い、まだ若く魅力に溢れていた彼らの姿を見られるだけでも楽しめる。

 

 

・「サンダーバード55/GoGo(2015年)Thunderbirds: The Anniversary Episodes / Introducing Thunderbirds, The Abominable Snowman, The Stately Homes Robberies」(監督ジャスティン・T・リー、スティーブン・ラリビエー、デイヴィッド・エリオット) 2.5点(IMDb 8.1) 日本版DVDで視聴

 映像の再現性は見事だし、日本語の吹き替えも健闘していると思うが、如何せん話が全く面白くなく、プロットの杜撰さが目につく。特に32作目で雪の中に閉じ込められたはずの3人がすぐに逃げられたのはどうしてなのか(また強制労働させられていた人たちはどうなったのか)、3作目でペネロープ邸に仕掛けられたはずの爆弾はどうなってしまったのか、自分の家から持ち出された盗品が惜しくて犯人たちの乗る飛行機を狙撃しなかった人間が、王室の財宝を積んだ飛行機の爆発と墜落を防がなかったのはどういう訳なのか(所詮他人のものだからどうでも良いということか)などなど疑問点が多い。



・「かくも長き不在(1961年)」(アンリ・コルピ監督) 4.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
 マルグリット・デュラス原作(既読)。
 初見時ほどの衝撃はないものの、戦争を挟んでの中年男女2人の過去を巡る真相の探り合いが、やがて男の頭部に刻まれた大きな傷によって永遠に解けない謎の中に漂うことになるという展開には相変わらず胸を打たれる。

 どっしりとした中年女の時として押し付けがましい態度にも、戦争前の記憶を失った男はただ淡々と女の言葉を反復し、茫漠とした記憶をあてどなく探るしかない。そこには両方向のコミュニケーションはなく、ただ一方的に熱い想いがあるだけで、両者は最後まですれ違い続けるしかない。

 アリダ・ヴァリの強いイタリア語訛りのフランス語は私には煩わしく感じられるだけで今作の評価を貶める一因なのだが、フランス語ネイティヴにはどういう印象をもたらすのだろうか。彼女がイタリア語のオペラの歌詞を口にする時の、なんの気負いもない自然さとは大きくかけ離れた不自然さや違和感だけが残る。

 モノクロの美しい映像とコラ・ヴォケールの歌う主題歌がとにかく素晴らしい。

 イタリア人のアリダ・ヴァリがChaulieu(ショーリュー)という地名を「ショーリエ」のように発音するのは理解できなくもないものの、恋人役のフランス男ピエールを演ずるJacques Hardenもやはり「ショーリエ」と発音するのが解せない。

 

 

・「グロリア(1980年)」(ジョン・カサヴェテス監督) 3.5点(IMDb 7.1) テレビ放映を録画したもので再見

 初見時には、インディペンデント映画の旗手ジョン・カサヴェテスがこんなコテコテなメロ・ドラマを撮るのかと驚いたものである。結末を筆頭に情緒過多で、音楽も余りに饒舌過ぎて白けるものの、マンハッタンやブルックリンなどのロケーション撮影がは見事で、やや望遠のカメラで登場人物を遠くから捉えるショットも素晴らしく、画面に深く惹き込まれる。

 ジーナ・ローランズの絶えず不安そうな表情と、それでいて要所要所では微塵も躊躇することなく銃をぶっ放す豪胆な行動との対称性が却って魅力となり(と同時にいつ何が起きるか分からず、最後までハラハラさせられ通しだった)、子供は嫌いだと言いながら、如何にも憎たらしい子供に徐々に情が移っていく過程も実にリアルで微笑ましい。少年を演じた子役も最初は見た目も言動も全く可愛げがないのだが、グロリアとの距離が縮まっていくにつれて可愛く思えて来るのが不思議である。

 リュック・ベッソンの「レオン」は今作のリメイクと言って良い内容で、改めて今作を見直すとカサヴェテスとベッソンの才能の差が余りに歴然としていて、「レオン」への評価が一気に低下してしまう。

 

 

・「山河ノスタルジア(2015年)原題:山河故人」(ジャ・ジャンクー監督) 3.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 ある意味、現代(近未来)中国版「東京物語」とも言える作品だが、プロットが往々にして行き当たりばったりで意味不明な場面も少なくなく、それが必然性を伴ったものなのか単に奇をてらっているに過ぎないのか最後まで判断に苦しんだ。映像として惹きつけられるものはあるものの、描かれているものは実はかなり単純で皮相的なのではないかと勘ぐってしまいもする。

 やたらと長いアヴァン・タイトルは印象に残るものの、どこまで必然性があるものなのか・・・・・・。

 

 

・「帰れない二人(2018年)原題:江湖儿女」(ジャ・ジャンクー監督) 3.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 これまた何とも分かりづらい作品で、表層的には2人の男と女のグダグダした腐れ縁を描いているのだが、果たしてそれだけなのか。今作でも相変わらずセンスの悪い音楽や踊りが唐突に出て来るが、それが中国独特のセンスなのか監督独自のセンスなのか分からず、いずれにしても私の趣味には合わずウンザリさせられる。

 話の内容も同様で、ところどころに挟まれる素晴らしい映像(ショット)には惹き込まれるものの、結局最後まで入り込めないままだった。

 

 

・「ガープの世界(1982年)原題:The World According to Garp」(ジョージ・ロイ・ヒル監督) 4.0点(IMDb 7.1) インターネットで再見

 ジョン・アーヴィング原作(既読)。

 原作の方が遙かに優れているものの、映画版も見る度にしみじみさせられる魅力的な人物造型やエピソードに満ちている(ガープの母ジェニーを演ずるグレン・クローズに元フットボーラーの性転換者役のジョン・リスゴー、そしてガープの妻役ヘレンを演ずるメアリー・ベス・ハートなどなど)。

 暴力と死に満ちみちた作品であるにもかかわらず不思議と暗さや悲惨さは余り感じることがないのだが、冒頭と最後に流れるザ・ビートルズの「When I'm Sixty-Four」ののんびりした曲風も寄与しているのだろう。

 日本版DVDも持ってはいるものの、今回はインターネットにアップされていた動画を英語字幕を参照しつつ見てみたのだが、日本語字幕で見ていた時には気づかなかった英語の言葉遊びや台詞の何気ないニュアンスが感じられて興味深かった。

 

 

・「The Beatles And India(2021年)」(Ajoy Bose, Peter Compton監督) 2.5点(IMDb 6.5) インターネットで視聴

 日本で劇場公開された「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド(2020年)」と混同して視聴。可もなく不可もない出来。

 

 

・「天国の日々(1978年)」(テレンス・マリック監督) 3.5点(IMDb 7.7) テレビ放映を録画したもので視聴

 映画の内容よりも映像美を堪能する作品。名匠ネストール・アルメンドロスの魔法のような映像。自然の光を生かした滑らかでやさしい陰影のある風景は絶品である。ただし内容はいささか陳腐で、結末も予定調和ならぬ予定不調和へと自然に向かう。語り手である妹が余り詳しく描かれておらず物足りなさが残る。

 

 

・「コット、はじまりの夏(2021年)原題:The Quiet Girl」(コルム・バレード監督) 4.0点(IMDb 7.7) インターネットで視聴

 主要登場人物の多くが寡黙で感情表現が抑制されているのが、この映画に深みを与えている(台詞にも沈黙の尊さについて語られている)。抑えられた音楽、少ない台詞(ゲール語?の響きが新鮮である)、陰影の繊細な映像、美しい自然や光の描写等々、映像と音楽のもたらす快楽を満喫することが出来る。昨今のかまびすしく大仰な映画の氾濫の中にあって、今作は上記の「Perfect Days」などと共に、静謐や沈黙、特別なことの起きない日常の貴重さを再認識させてくれる優れた映画的達成のひとつと言える。

 

 

・「宇宙人ポール(2011年)」(グレッグ・モットーラ監督) 3.0点(IMDb 6.9) インターネットで視聴

 サイモン・ペッグとニック・フロストのコンビ作品としては「ホット・ファズ」や「ショーン・オブ・ザ・デッド」には劣るし、SFパロディものとしては傑作「ギャラクシー・クエスト」などと比べてしまってやはり一段も二段も落ちる。それでもそれなりに楽しめるコメディで、ちょっとしたアメリカと英国との文化&宗教観の差を巡るネタなどもおかしい。英語字幕付きで見たためニュアンスがよく分からない部分も少なくなかったものの、女主人公ルースの台詞などは日本語字幕であればかなり下品に訳されているのかも知れない。

 「あの」大女優が最後の方で突如登場するのには驚かされた(ただし上記の「ギャラクシー・クエスト」つながりだと考えると意外でもない)。スティーヴン・スピルバーグ本人が声で出演しているのもおかしかった。

 

 

・「刑事マディガン(1968年)」(ドン・シーゲル監督) 3.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴

 刑事たちの私生活をかなり詳しく描いた異色刑事ドラマ。

 ちょっとした行き違いで拳銃を奪われてしまった刑事2人が、自分たちの失態を挽回するために奔走する一方、堅物で知られるお偉いさん(ヘンリー・フォンダ)が不倫をしていたり、薄給で出世にも縁がない刑事の夫(リチャード・ウィドマーク)に不満を持つ妻や、その刑事に恋慕しながらも一線を超えられない女歌手など、本筋には関係のない刑事たちの私生活の細かい描写が興味深い。

 結末は意外にもバッド・エンドで、妻を思いやって女歌手との情事に踏み出せない誠実な刑事が(犯人逮捕に焦る余り、防弾チョッキもつけずに犯人の立てこもるホテルの部屋に突入するという致命的ミスをおかして)あっさり死んでしまうというもので、アメリカン・ニューシネマを彷彿させる。

 作中に出て来る映画館の場面で、劇場と売店(および廊下)の間に何の仕切りもない作りが面白い。当時は本当にあんな映画館もあったのだろうか。

 

 

・「死霊伝説 セーラムズ・ロット(2004年)」(ミカエル・サロモン監督) 3.5点(IMDb 6.1) 日本版DVDで視聴

 スティーヴン・キング原作(邦題は「呪われた町」。未読)。テレビ映画だが、全体的によく出来たホラー作品になっている。

 昨年亡くなったアンドレ・ブラウアーの他、やはり先ごろ亡くなったドナルド・サザーランド、ルトガー・ハウアー、ジェームズ・クロムウェルらのベテラン勢が好演。主演のロブ・ロウも往年の美青年から打って変わってくたびれた中年小説家を演じていて悪くない。

 

 

・「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊(2023年)」(ケネス・ブラナー監督) 2.0点(IMDb 6.5) インターネットで視聴

 アガサ・クリスティ原作(「ハロウィーン・パーティー」。未読)。

 ケネス・ブラナーによるクリスティ原作シリーズ3作目だが、今作が一番の凡作。しかも原作をかなり改変しているらしく、犯人はすぐに見当がついてしまうし謎解きも全く面白くない。

 唯一の救いは舞台となるヴェネツィアの風景くらいで、コロナ禍で観光客が少ない時に撮影したのか、実際のロケ撮影は少ないものの雰囲気はよく出ている。

 作品の雰囲気を醸し出す美術や装飾も悪くないが、如何せん話が余りにつまらなさ過ぎで、原作の選定を誤ったとしか思えない。クリスティには他にももっと面白い作品があるだろうに、なぜよりによってこの作品を選んだ上、改変までしてしまったのだろうか。

 

 

・「ブロークン・フラワーズ(2005年)」(ジム・ジャームッシュ監督) 3.5点(IMDb 7.1) 英国版DVDで視聴

 初期のジム・ジャームッシュを思い出させるようなほのかなユーモア(ビル・マーレイとジェフリー・ライトの掛け合いが絶妙でおかしい)と、間の空いた他者との気まずそうなコミュニケーションがもたらす面白みを感じさせる作品。核となる子供探し(あるいは父親探し)はあくまで付け足しのようなもので、最後に唐突に出現する若い男(車に乗っている方)にも大した意味はないのだろう(あれが実の息子だという意見も少なくないようだが、そもそも隣人のウィンストンが聴いているエチオピア音楽を全く関係のない若い男が聴いているというのも、単なる偶然なのか特別な意味があるのか不明)。ただし演じているのはビル・マーレイの実の息子らしい。

 

 

・「リミッツ・オブ・コントロール(2009年)」(ジム・ジャームッシュ監督) 2.5点(IMDb 6.2) 日本版DVDで視聴

 クリストファー・ドイルによる映像は悪くないものの、同工異曲の展開を延々と繰り返すプロットには退屈させられるだけで、ジャームッシュのことだから安直なサスペンス映画などにはならないと思ってはいたものの、終始同じ調子の非サスペンス的なサスペンス映画という自己矛盾はそのままで、終盤も特にひねりがないまま終わってしまった(しかもそれまでの落ち着いた雰囲気とは一転して陳腐なサスペンス映画のようなアジトやヘリコプターの登場には白け、その後の非カタルシス的結末にはさらに白けてしまうしかなかった)。

 

 

・「羊たちの沈黙(1991年)」(ジョナサン・デミ監督) 3.5点(IMDb 8.6) 日本版DVDで再見

 トマス・ハリス原作(未読?)。

 ジョナサン・デミにしては演出も上出来だし、アンソニー・ホプキンスの怪演やジョディ・フォスターの熱演もあって佳作だとは思うものの、ドジ過ぎる警察やクラリスをあそこまで追い詰めながらあっさりやられてしまう間抜けな犯人などの設定の甘さが気になり、またレクター博士が後半一気に後景に埋没してしまうのも惜しまれる。

 

 

・「8 1/2(1963年)」(フェデリコ・フェリーニ監督) 4.0点(IMDb 8.0) 英国版DVDで再見

 精神的スランプに陥った映画監督がおのれの意識及び潜在意識と虚心坦懐に向き合うという(いささかご都合主義だと思えなくもない)一種の精神療法によってありのままの自己を受容し、精神的苦境を脱するという内容(だと私には思える)。

 Wikipediaによれば当初今作の結末では主人公グイドの自殺が仄めかされるはずだったというのだが、現在の完成形を見る限りむしろそれとは正反対の、生きることの決意表明のように見える。

 作中で描かれるグイドの妄想におけるハーレム描写など、昨今のようなポリコレ重視の時代においては、今作を含むフェリーニ作品が支持され続けるかどうか不明だが、皆が手をつないで輪になって踊り続ける結末をはじめ、フェリーニにしか作り出し得ない独自の映像世界が構築されていることは間違いなく、稀有な傑作たりえていると言えるだろう。ジャンニ・ディ・ヴェナンツォによる白と黒の陰影の深い映像も見事であり、ニーノ・ロータの音楽も相変わらずフェリーニの映像世界に見事に融合している。

 グイドと愛人が時々口にする奇妙で意味不明な間投詞が面白い(ヤック、スマック、スグルプなど)。

 英国版DVDは画質も悪く、字幕もハード(打ち込み)で消せないため非常に見づらかったのが残念。

 

 

・「ストリート・オブ・ファイヤー(1984年)」(ウォルター・ヒル監督) 3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見

 高校生の時に試写会に当たって見に行った懐かしい作品。数十年ぶりに見返したが、西部劇をベースに作られた極めて漫画的な(どの時代か分からないSF的な雰囲気もある)世界はさすがに古びて来てはいるものの、能天気なまでにシンプルな物語と魅力的な音楽に支えられた良作である。

 プロモーション・ヴィデオのような音楽シーンや劇画的(?)なシーン転換、思わず苦笑してしまうような主人公の気障な台詞や陳腐なラヴシーンなどなど欠点を挙げていったらキリがないが、良くも悪くも80年代のアメリカ映画の一典型としてそれなりに楽しめる作品である。

 今更ながら音楽担当がライ・クーダーだということを初めて知った。

 

 

・「マーラー(1974年)」(ケン・ラッセル監督) 2.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴(再見?)

 曲もふんだんに使われていてマーラー好きには堪らない映画だろうが、いつもながら真面目なのかふざけているのか分からないケン・ラッセルの演出には疑問を覚えるばかりで、マーラーの生涯を描くのであればもう少し丹念に要所要所のエピソードを描きこんで欲しかった。

 特にマーラーの音楽を背景にしたダンスや夢の場面は冗長で退屈。ロバート・パウエルも決して悪くないのだが、個人的にはダーク・ボガート主演で撮って欲しかった作品である(ご丁寧に今作にはヴィスコンティの「ヴェニスに死す」のパロディ場面もある)。 

 

 

・「マーズ・アタック!(1996年)」(ティム・バートン監督) 3.5点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
 おバカSFの佳作だと思うのだが、なぜか一般的な評価はかなり低めである。知的で善良な宇宙人が登場する過去作品を1950年代あたりのSF映画っぽい映像や造形で強烈に皮肉ってみせる痛快パロディ。

 火星人がとにかく訳もなく地球人を殺しまくる様は、文化や習慣、言語などあらゆる面で異なる完全な「他者」とのコミュニケーションの不可能性を露骨に見せつける痛烈さである(そもそも同じ言語を持つ人間同士でさえもボタンの掛け違いで日常的に殺人や暴力が起きている)。

 無駄に豪華なキャストやチープな音楽、不気味な火星人の造形(ただしこれはオリジナルではない)や結末のくだらなさなど、いずれもケレン味に満ちていて素晴らしい。