2024年5月6日(月)

 前回の記事で、未だヴィクトリア朝時代に留まっているような英国人とのやり取りに苦しめられていることを書いたが、念の為に付け加えておくなら、当然ながら私はすべての英国人がそうだと言っているのではない。

 むしろ今回ほど何を言っても話が通じず、しかも時間観念が欠落しているとしか思えない人々を相手にしたことはこれまでに一度もなく、彼らが所属している企業(あるいは部門)がそうさせるのか(これは大いにありうる)、それとも彼らが居住している場所がそうさせるのか(これはかなり疑わしいものの、彼らの事務所所在地は英国本土ではなく、タックス・ヘイブンとして知られる英国王室属領の島である)、何を言っても何を訊いてもまともな対応や返答が戻って来たことがなく、ほとんど進展のないまま2ヶ月以上の歳月が無駄に流れてしまった。

 その間私は、英国の営業時間帯になると彼らから何らかの対応や返事が来ないか深夜まで待ち続け、やがて待ちきれなくなると進捗状況を尋ねるメールを送り、すると彼らからは決まって「蕎麦屋の出前」のような曖昧で何の意味もない返事が戻って来るばかりで、しかもこちらの質問に対する一貫した対応は「無視」(言及なし)なのである。

 

 などと今回の件に関してこれ以上細かく言及することはやめるが、とにかく私には英国人一般を貶めるつもりは微塵もなく、ロンドンを離れて既に12年以上の歳月が過ぎ去ってしまった今も、私はロンドンの街並みや英国の自然風土、そこで出会った人々(むろん全員ではない)、巷間で散々な言われようをしている英国料理などを心から懐かしく思っている。

 如何なる国や国民(民族)であろうと、安易に一般化して語ることを私は好まないが、それでも当ブログの初期の記事に顕著に感じられるように、私は英国や英国人というものにむしろ極めて好意的な気持ちを持っていることを改めて強調しておきたい。

 

 

 上記のカフカ的で不条理なやり取りに激しいストレスとプレッシャーを覚え続けている私は、とりわけここ数日、激しい胃痛や吐き気に見舞われて一切食事を摂る気になれず、最低限の水分や消化に良さそうな柔らかい麺類を少しだけ口にすることしか出来ずにいる。

 また精神的にも落ち着かず集中力が甚だ散漫になっているため、唯一(唯三?)の趣味である映画鑑賞や読書、音楽鑑賞もまったく手につかず、絶えずイライラした気分を抱えながら時が過ぎ行くのに耐え続けている。

 

 そんな中、私がなんとか見ることが出来ているのは、上の「二子山部屋 sumo food」というYouTubeサイトの動画である。

 「二子山部屋」というのは言うまでもなく大相撲の相撲部屋のひとつで、詳細については以下の公式ウェブサイトをご覧いただきたいと思うが、このサイトはその相撲部屋に所属している若き力士たちの日々(とりわけ食生活)を紹介しているものである。

 

 

 とは言え、私は大相撲というものに特に関心がある訳ではなく、時折メールでやり取りする会社員時代の上司や先輩たちがよく言及する話題に大相撲の話があることから、購読している日本の新聞(電子版)や動画サイトで取組内容や番付などをたまにチェックするくらいで、最近どんな力士が活躍しているかも分かっていないまったくの門外漢でしかない。

 そんな私が上の動画に興味を抱いたのは単なる偶然で、全く食欲がなくキリキリと胃が痛む中、たまたま目にした若き力士たちの豪快な食べっぷりや屈託のない表情のお陰で、久々にリラックスした気分で時間を過ごせたからである。
 

 

 この動画に登場するのは二子山部屋を取り仕切る親方(とそのご家族)と、上の「力士紹介」で紹介されている若き力士たちで(四股名がまったく異なるため本名を見ないと分からないが、この中には実の兄弟もいる)、動画は主に彼らの食生活に焦点を当てている(当然ながら、相撲の稽古の様子や親方が若き力士たちを指導する姿も折々に採り上げられてはいる)。

 

 これらの動画を見ていて思うのは、彼ら相撲取りにとっては食べることも極めて重要な仕事であって、日々の激しい稽古で消費したエネルギーを回復し、より強い力士となるための筋力や膂力を蓄えるための源泉である「ちゃんこ」を準備し、同じ部屋の仲間たちに振る舞い、自らも一心不乱に体内に取り込む真剣な姿に、ただただ圧倒させられるだけである。

 むろん仕事の一環ではあっても、そこにはより美味しいものを食べたいという純粋な喜びや好奇心もあって、彼らはより美味で滋養に富んだ「ちゃんこ」を手際良く器用に作り、またそれを実に美味しそうに平らげていくのである。

 

 上の「力士紹介」を見てもらえば分かる通り、彼らはまだ10代から20代前半の若者たちであり、その限界を知らぬ勇ましい食べっぷりは誠に見事というしかないもので(しかも食べ方が少しも下品ではない。唯ひとり食べ方が汚らしいのは残念ながら親方の元雅山である)、胃痛や胃弱でろくに食事を摂れない私でさえも思わず何か食べてみたいと思わされるような、食べることの愉悦やありがたみに満ちあふれている。
 私も彼らと同じ20代始め頃は、それこそいくらでも食べ続けられると思っていたものだが、年齢を重ねるにつれて食事量は自ずと減っていき、特に韓国に来てからは慢性的な胃弱や胃痛を抱えるようになり、今では日々の食事すらもが時に苦行に思えるようになってしまった。

 しかしこの動画を見ていると、まるで自分が彼らと同じように食べることを心から愉しんでいるような気になり、実際、視聴後には何かを猛然と食べてみたい気になっているのである(そしてついつい胃の状態を無視して食べてしまって、大いに後悔するのである)。

 

 基本的にどの動画も見ていて非常に楽しめるのだが(ただし相撲のこともほとんど知らないようなカメラマンの不躾でピントの外れた質問には時に見ているだけでイライラさせられる)、彼らにとっては「労働」の一貫に他ならない「ちゃんこ番」から解放され、他人様が作ってくれる上、普段の食事とは一味も二味も違う様々な料理に舌鼓を打つ「外食編」が特に面白い。
 また、ユーモラスな見た目や振る舞いにもかかわらず、現在「二子山部屋」で、ロシア出身の「狼雅」(ろうが)に続いて2番手につけている「生田目」(なばため。下の写真。ただし眼鏡をかけた方がよりチャーミングである)が個人的には一番のお気に入りである(会社員時代にお世話になった上司にどことなく風貌が似ていることも理由のひとつ)。

 

 

 まだこの動画を見始めてから何日も経っていないので他にも面白いものがあるかも知れないが、これまで見たものの中でお勧めの動画を以下にいくつか紹介しておく。