2024年4月1日(月)

 早くも1年の約4分の1が過ぎてしまった。

 私事ではここ1ヶ月程の間に立て続けに2人の近親者が亡くなり、異国の地で思いがけず「遺族」の役割を連続して演ずることになった。

 極めて個人的な事柄なので詳細については触れずにおくが、今回改めて思ったことは、儀式や行事なるものが高度に(?)様式化されて独自の定型を獲得すればするだけ、第三者の目にはひどく滑稽にも愚かにも見えてしまうということである。

 特に私の生まれ育った日本に比べキリスト教や仏教の熱心な信者の多い韓国では、故人や遺族の間にも幾つもの宗教や宗派が入り乱れ、弔問客たちもそれぞれの信仰や信条に基づいて(しかも様式化/定型化された手慣れた儀式や動作によって)故人を悼もうとするので、私のように無宗教でひねくれた人間の目には、実に奇妙な(そして言ってしまえば独善的で醜悪、かつ滑稽な)光景が幾度となく眼前に繰り広げられることになるのである。

 それより何より、改めて一個の「物体」となり果てた人間の最期の姿を続けて目の当たりにすると、「死ねば魂も何もありはしない、ただ生まれる前の無へと立ち返るだけだ」という私の死生観がますます強固なものになるしかないのでもある。

 2度あることは3度あると言うし、今年はどうやら私の周辺(及び私自身?)は厄年らしいから、自分自身がその「3度目」にならないとも限らない。とうに人間50年を過ぎ、亡き母親の没年をも越えてしまった身としては、たとえ今すぐ死んだとしても文句を言う筋合いではないのだが、物言わぬ「物体」に立ち返ったおのれの虚ろで醜悪な姿を(たとえ親戚であろうと)他人にじろじろ見られたりいじくり回されたりしないように、一切の儀式(宗教)を伴わない事務的かつ簡潔な最期を迎えられるべく、入念な遺書を準備しておかなくてはならないと思い始めているところである。

 

 

 もともと今回は、去る3月23日に満82歳で亡くなったピアニストのマウリツィオ・ポリーニについて書くつもりだったのだが、今日の夕方になって神戸市立王子動物園のジャイアント・パンダ旦々(タンタン。上の写真)が亡くなったというニュースに接したため、急遽その件について書くことにする。

 

 私は基本的に動物全般(ただし人間は除く)が好きなものの、その中でパンダがとりたてて好きという訳でもない。しかし何年か前にたまたまこのタンタンというパンダを(多分NHKの「ごろごろパンダ日記」という番組で→https://www.nhk.jp/p/ts/NYJRM2PXKJ/list/)知ってから、何故ともなくその存在が気になりだし(言ってしまえば一種の一目惚れのようなものだったのかも知れない)、爾来、王子動物園のウェブサイト(https://www.kobe-ojizoo.jp/info/)やX(Twitter→https://twitter.com/kobeojizoo)でその動向を追い続けて来た。

 2021年に心疾患が見つかり、療養のため来園者による観覧が中止されるようになると、飼育員の方がX(Twitter)で「#きょうのタンタン」として写真や動画と共に日々の動静を頻繁にアップしてくれるようになり、私も毎日それをチェックしながら、海を隔てた遠い異国からタンタンの体調や病状を気遣うようになった(コロナ禍もあって結局一度も神戸に足を運ぶことなく終わり、そもそもどうしても実物を見てみたいとまでは思わなかったのも事実である)。

 

 

 しかしここ1、2年は、(腹水が溜まって抜けないのか)腹部の異様な膨らみが目立つようになり、大きなおなかが地面にくっ付きそうになりながらヨロヨロ歩く姿が日常化していた。さらに昨年の秋頃からは写真や動画からもかなり衰弱して来ていることが目に見えて分かるようになって来てもいた(その頃アップされたのが以下の「ジャイアントパンダ「タンタン」の現在の体調について」というお知らせである。★1←記事の最後に内容を掲載。以下同様)。

 

 

 そして先月19日には最新の(おそらく深刻だろう)病状に関して以下の「獣医チームからのお知らせ(タンタンの体調について)」がウェブサイトに掲載された上(★2)、X(Twitter)における「#きょうのタンタン」も休止となったことから、私も「嗚呼、とうとう最期の時が迫りつつあるのだな」と覚悟するようになった。

 

 

 そして懸念していた通り今日になってタンタンの訃報に接することになってしまった訳なのだが、しかしこれ以上私のつまらぬ贅言は慎むことにして、今日発表された動物園による「ジャイアントパンダ「タンタン」病死のご報告」(https://www.kobe-ojizoo.jp/info/detail/?id=662 ★3)中の「タンタンの生涯」なる項目を以下に貼付しておくことにする。

 

①1995(平成7)年9月16日:中国四川省で誕生
②1999(平成11)年8月11日:日中共同飼育繁殖研究協議書締結
③2000(平成12)年7月16日:「タンタン」来神
④2010(平成22)年6月9日:5年間の延長を定めた「日中共同研究補充協議書」締結
⑤2015(平成27)年7月13日:5年間の再延長を定めた「日中共同研究延長協議書」締結(返還期限:2020(令和2)年7月15日まで)
⑥2020(令和2)年7月1日~2024(令和6)年12月:新型コロナウイルスの感染拡大状況及びタンタンの病状の影響により、双方は経過的覚書を締結する形式で協議期限を2024(令和6)年)年12月まで延長
⑦2024(令和6)年3月31日:「タンタン」心臓疾患に起因する衰弱死
※28歳(中国の数え年29歳)のジャイアントパンダは、中国の専門家によると、人間の100歳近くの高齢者に相当する。

 

 

 以下の動画は、神戸にやって来てから最近までのタンタンの様子を短くまとめて紹介してくれているもので、今はただこうした動画や写真を見てタンタンの生涯を静かに偲びたいと思う(その後、動画を追加)。

 

 

 

 おしまいにタンタンの死を悼み、心から冥福を祈ると共に、家族や友人以上の愛情をこめてタンタンのお世話をされて来た飼育員の方々に感謝とお悔やみの言葉を送りたい。RIP.

 それにしても、一度も実際の姿を目にしたことがなく、もとより縁もゆかりもない一匹のパンダの死が、どうしてより近しいはずの人間の死以上に悲しく切実なものに思えるのだろう。やはり私は根っからの人間嫌いで、この世で本当に純粋な愛情を向けられるのは動物だけなのかも知れないと、つくづく痛感させられるのである。嗚呼・・・・・・。

 


 

 最後にタンタンの死を報じたニュース動画のアドレスを幾つか貼付しておく。

 3番目のものは動物園による記者会見の模様だが(その後削除されてしまったので、別の会見動画を念の為2つ貼付しておいた)、自分で事前に調べておくべきような馬鹿げた質問をしつこく繰り返したり、亡くなったタンタンだけでなく飼育員の方々に対する礼儀や敬意が微塵も感じられない無礼な記者たちの様子に終始イライラさせられる内容で、視聴すれば気分を害すること間違いなしのひどい代物なので事前に注意と覚悟が必要である。

 こんな低レヴェルで失礼千万な記者たちを前にしたら、加齢と共にますます短気になる一方の私ならば即座に冷静さを失って記者たちを激しく罵倒し、そのまま席を蹴っているに違いないのだが、動物園の方々は辛抱強く彼らの愚かな質問にも丁寧に答えられていて、誠に頭が下がる思いである。

 

 

 



★1 ジャイアントパンダ「タンタン」の現在の体調について

 現在、タンタンの心臓疾患の療養に専念するため、令和4年3月14日から観覧を中止し、タンタンの体調に合わせたタイミングで検査や治療に取り組んでいます。
 最近のタンタンの体調については、以前と比べて食欲や運動量が低く、睡眠時間が長い状態が続き、体液も貯留し体重も増加傾向にあります。
また、健康管理の体勢をとるための指示に集中力を欠いたり、薬を飲まないこともあります。
 今後も専門家らとともに病状把握に努め、タンタンにストレスのない範囲での検査・措置を行うとともに、タンタンの体調の推移について、必要に応じてお知らせしたいと思います。
 なお、検査等への専念のため飼育担当者からのSNS投稿頻度は現状より低下いたします。ご理解頂きますようお願いします。
 

★2 獣医チームからのお知らせ(タンタンの体調について
 本日は、タンタンの現在の体調についてお伝えしたいと思います。
 以前お伝えしましたが、タンタンは、昨年10月頃よりトレーニングに集中力を欠いたり、散発的に薬を飲まず投薬が不安定になる状態になっていました。
 また、液体栄養剤のみで栄養を摂取し、竹などを食べない状態も続いていました。
 その後、投薬の不安定さはやや改善しました。
 しかし、数日前から行動量が増加したり、液体栄養剤を飲まないなどの食欲低下傾向が認められ、投薬も不安定になっています。
 今は栄養分が摂取できるよう、日中双方の専門家で検討し実施している状況です。
 いつも皆さんがタンタンを気にかけていることに大変感謝申しあげます。
 今後も必要に応じてタンタンの体調をお知らせしますので、タンタンの応援をよろしくお願いいたします。

 王子動物園 獣医チーム

 

★3 ジャイアントパンダ「タンタン」病死のご報告

 当園のジャイアントパンダ「タンタン」(メス・28歳)が、2024(令和6)年3月31日(日曜)午後11時56分に死亡しましたので、ここに謹んでお知らせいたします。
 2021(令和3)年3月、「タンタン」は定期検査の中で加齢等による心臓疾患が判明しました。以後、日中双方は迅速に専門家チームを立ち上げ、連携して診断や治療を行うとともに、全力を上げてその看護にあたり「タンタン」の病状は一定の改善を見ました。
 「タンタン」の病状の安定及び体調の回復のため、日中双方は適切な治療や検査方法を策定し、さらに中国への返還期限を延長することを決定しました。2022(令和4)年5月以降、中国側からジャイアントパンダの専門家が複数回派遣され、意見交換しながら診察、治療に努めてきました。
 しかしながら、「タンタン」の病状が2024年(令和6)3月15日より更に進行し、双方の専門が救急治療を継続してきました。3月31日、心肺停止となり蘇生措置を行いましたが、午後11時56分に死亡が確認されました。
 「タンタン」は、日中共同飼育繁殖研究の目的で2000(平成12)年7月16日、中国の四川省にある中国ジャイアントパンダ保護センター臥龍基地から来園して以来、約24年もの間、阪神淡路大震災で傷ついた多くの神戸市民に勇気や希望を与え続けてくれました。更に、ジャイアントパンダの飼育繁殖研究、技術交流、教育及び日中友好交流事業にも多大な貢献を果たしました。此処に最大限の感謝と敬意を表します。
 また、これまで多大なる配慮、ご協力をいただきました中国関係者の皆様、並びに長期にわたりジャイアントパンダ「タンタン」に関心を寄せ、愛してくださったすべての方に心からの感謝を申し上げます。

 

「タンタン」の生涯
①1995(平成7)年9月16日:中国四川省で誕生
②1999(平成11)年8月11日:日中共同飼育繁殖研究協議書締結
③2000(平成12)年7月16日:「タンタン」来神
④2010(平成22)年6月9日:5年間の延長を定めた「日中共同研究補充協議書」締結
⑤2015(平成27)年7月13日:5年間の再延長を定めた「日中共同研究延長協議書」締結(返還期限:2020(令和2)年7月15日まで)
⑥2020(令和2)年7月1日~2024(令和6)年12月:新型コロナウイルスの感染拡大状況及びタンタンの病状の影響により、双方は経過的覚書を締結する形式で協議期限を2024(令和6)年)年12月まで延長
⑦2024(令和6)年3月31日:「タンタン」心臓疾患に起因する衰弱死
※28歳(中国の数え年29歳)のジャイアントパンダは、中国の専門家によると、人間の100歳近くの高齢者に相当する。