2024年2月10日(土)

 今日は旧暦の1月1日で、ここ韓国では昨日の金曜から週明け月曜まで旧正月の4連休である。

 韓国では昨年、年齢の数え方を「数え年」(の併存)から「満年齢」に統一する法改正を行ったが、全国民的な祝祭日である正月や中秋については今も旧暦基準のままで、依然として新暦と旧暦とが併存する状態になっている。

 何もかも「世界」や「欧米」基準にあわせれば良いとは全く思わないものの、韓国の親戚や知人などに新年のお祝いを新暦と旧暦双方で言ったり書いたりしないといけないのは正直面倒臭いだけで、個人的には祝祭日もすべて新暦基準に統一して欲しいと思っている。

 

 ついでながら明日11日は約4年半前に死んだ愛犬(ヨークシャー・テリア)の誕生日である(らしい)。

 今も生きていれば20歳になっていたはずなのだが、(超?)小型犬は一般的に大型犬よりは長生きするとは言え、20歳まで生きる犬はごく僅かだろう。それでも愛犬がもし生きていたならなどと、いつまで経ってもあれこれ想像したりクヨクヨしてしまうのも確かで、つい昨日も近所の川べりを散歩していたら同じ場所を愛犬と一緒にそぞろ歩いた日々のことが不意に思い出されて、ひどく淋しい思いに駆られたものである。RIP.

 

 

 

 今回は訃報を2件(敬称略)。

 まずは去る2月6日に亡くなった指揮者の小澤征爾(享年満88歳)。

 

 クラシック音楽界で最も知名度の高い日本人音楽家であるにもかかわらず、ゴリゴリの(特に日本の)クラシック音楽マニアからは決して芳しい評価を受けて来なかった人で、私自身もこれまで必ずしも良い聴き手であったとは言えないのだが、それでも武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」や「弦楽のためのレクイエム」(トロント交響楽団およびサイトウ・キネン・オーケストラ)をはじめ、オルフの「カルミナ・ブラーナ」(ベルリン・フィル)やブラームスの交響曲全集(サイトウ・キネン・オーケストラ)、チャイコフスキーの「弦楽セレナード ハ長調」(同上)などは愛聴して来たものである(特に好きな演奏ではないものの、他にも晩年に水戸室内管弦楽団を指揮したベートーヴェンの交響曲集やカーネギー・ホールでブラームスの交響曲第1番を振ったライブCDなども一応持ってはいる)。

 

 以下は私の持っているCDとは別の演奏だが、オルフの「カルミナ・ブラーナ」

 

 また、25年程前に仕事でニューヨークに滞在していた時、当時音楽監督を務めていたボストン交響楽団を指揮した演奏会には幾度か足を運んだもので、カーネギー・ホールでのバッハ「マタイ受難曲」の演奏は特に思い出深い(インターネットに過去の演奏記録を検索出来るサイトがあり、1998年の4月15日か16日の演奏会だったことが分かる。詳細は下記アドレスを参照)。

 https://archives.bso.org/Detail.aspx?UniqueKey=4148

 https://archives.bso.org/Detail.aspx?UniqueKey=17731

 

 


 
 

 さらに、若き日のヨーロッパ一人旅を皮切りに海外で指揮者として確固たる地位を築いていく過程を回想した自伝「ボクの音楽武者修行」をはじめ、盟友・武満徹との音楽談義を収めた「音楽」や、同年生まれの作家・大江健三郎との対談「同じ年に生まれて―音楽、文学が僕らをつくった」、クラシック音楽マニアでもある村上春樹が小澤との対談の模様を記した「小澤征爾さんと、音楽について話をする」なども愛読してきた。これらの著作を読めば、演奏を聴くのとはまた別の観点から、クラシック音楽に対するこの人の深く熱い愛情や情熱の一端を垣間見ることが出来るだろう。

 

 

 日本人によるクラシック音楽の発展や(世界的な)地位向上のために日夜奔走して来た小澤征爾も10年程前からは病気がちになり、時折メディアでその近影を目にする度に、かつての若く精力的な姿との余りに大きな乖離に痛々しい思いに駆られたものだが、肉体的な衰えや度重なる病と懸命に格闘しながら最期の最期までクラシック音楽への情熱を失わなかったその生き様には、(うるさ型のクラシック音楽マニアたち程ではないとしても)ひねくれ者の私とて心を打たれずにはいられなかった。

 

 YouTubeには小澤征爾指揮の演奏やドキュメンタリー番組の動画が数多くアップされているが、これまで個人的に何度も繰り返し視聴して来たのは例えば以下の演奏である。

 

 ブラームス 交響曲第1番(サイトウ・キネン・オーケストラ)

 

 ベートーヴェン 交響曲第5番(NHK交響楽団)

 上と同じ演奏だが、(特に子供の)聴衆向けの説明部分が収録されている以下の動画の方が、その人懐こく飾りっ気のない人柄がよく分かるだろう。

 上と同じ演奏を含むNHKの番組

 チャイコフスキー 弦楽セレナーデ(サイトウ・キネン・オーケストラ)

 

 以下はレナード・バーンスタインの「Young People's Concert」で新進の指揮者として紹介され、モーツァルトの「フィガロの結婚」序曲を演奏しているもの。

 

 

 

 もうひとつの訃報は、ピアニストでクラシック音楽の振興・教育活動にも力を注いだ江戸京子(1月23日死去。享年満86歳)。

 米国を中心に活動したというピアニストとしての経歴は正直全く知らないのだが、実はこの人は小澤征爾の最初の夫人で、奇しくもこの2人は紆余曲折を経てほぼ同時期に亡くなったことになる。

 今回の訃報に接して改めて読み直してみた「私の履歴書」(日本経済新聞電子版)で、小澤征爾は音楽家同士の結婚は当初からうまく行かず、結局破綻してはしまったものの、「京子ちゃん」とは後に良き友人に戻れたと書いているのだが、果たして小澤征爾は自らが亡くなるわずか数週間前の「京子ちゃん」の死を知ってからあの世へと旅立ったのだろうか。

 

 ともあれ、この2人の音楽家の死を悼み、心から冥福を祈りたい。