右から2人目が山中貞雄、左端は4代目河原崎長十郎(写真は全てインターネットから勝手に拝借。多謝)

 

 2021年12月22日(水)

 映画鑑賞の備忘メモ第5弾は、山中貞雄の現存する監督作品3作をまとめて。

 

 

・「丹下左膳餘話 百萬両の壷(1935年)」(山中貞雄監督) 4.5点(IMDb 7.8) インターネットで再見(上の写真)

 今のところ以下で視聴可能(いつ削除されるか分からないので、アドレスを複数貼付しておく)

 https://www.youtube.com/watch?v=DB_M5bNLi7s

 https://www.youtube.com/watch?v=Ymu1w0d4WsQ

 https://archive.org/details/SazenTangeAndThePotWorthAMillionRyo1935

 

 山中貞雄らしい「省略の妙」が生かされたコメディ映画の傑作。

 検閲によって削除されてしまった部分が今も欠落したままであることだけがつくづく残念でならない(しかし今後も欠落部分が見つかって修復される可能性はおそらく皆無だろう)。

 

 

・「河内山宗俊(1936年)」(山中貞雄監督) 4.0点(IMDb 7.1) インターネットで視聴(初見。上の写真は左から4代目河原崎長十郎、原節子、3代目中村翫右衛門)

 映画本編は以下で。

 https://www.youtube.com/watch?v=tf8xa0L0drE

 

 これまた傑作だが台詞が聞き取りにくいのが最大の難点で、他の2作品共々、4Kデジタルで修復されたヴァージョンで見直してみたいものである(早期のソフト化を期待したい)。

 結末の水路における殺陣の迫力たるや、後のパク・チャヌク「オールド・ボーイ」などの戦闘シーンをとうに先取りした、見事というしかないものである。

 今作での原節子の演技はまだ大根芝居だが、打擲シーンとそれに続く雪の場面は凄絶なまでの美しさである。

 

 

・「人情紙風船(1937年)」(山中貞雄監督) 4.5点(IMDb 7.7) 英国版DVDで再見(上と下の写真)

 映画本編は以下で。

 https://www.youtube.com/watch?v=BR0hy0N2FBg

 https://archive.org/details/humanity.-and.-paper.-balloons.-1937

 

 

 内容は悲惨極まりない悲劇だが、これまた他の2作同様、見事なまでの傑作である。今作においても、敢えて描写しない「省略の美学」が徹底されて効果をあげている。「河内山宗俊」に続き、3代目中村翫右衛門(上の写真右)が卓越した存在感を示している。

 

 

 現存するこれら3作品を見ただけでも、山中貞雄という人が若くして既に傑出した映画監督だったことが容易に見て取れる。そのような稀代の才能がわずか28歳で戦没せざるをえなかったこともそうだが、全部で26作あるとされる監督作のほとんどが失われてしまっていることは、作品保存という意識の低かったかつての日本映画界共通の問題だったとは言え(溝口健二や小津安二郎、伊藤大輔らの名匠たちの少なからぬ監督作がもはや永遠に見られないのも同様である)、つくづく惜しまれてならない。

 


 

 「従軍記」と題するノート(上の写真左下)に書き遺された有名な遺言の一節、「『人情紙風船』が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ。負け惜しみに非ず」という言葉を思い返す度に、もし彼があの戦争を生き延びられていれば、どれほどの傑作が産み出されていたかと思うと、この若き天才の死がその後の日本映画界にとって極めて大きな損失だったと痛感するしかない。合掌。