映画「銀座カンカン娘」(1949年)の笠置シヅ子(左)と高峰秀子(右)

 

 2021年9月23日(木)

 今月初めに歿後20年を迎えたからという訳でもないのだが、このところ相米慎二の監督作品をまとめて見ている。

 これまでも「お引越し」(1993年)や「台風クラブ」(1985年)、「セーラー服と機関銃」(1981年)などは見て来たのだが、今回は初監督作の「翔んだカップル」(1980年)や「ションベン・ライダー」(1983年)、「魚影の群れ」(1983年)だけでなく、にっかつロマンポルノの「ラブホテル」(1985年)や、先頃初Blu-ray化された「東京上空いらっしゃいませ」(1990年)などまで見ることにしている(もちろん私が見たのはBlu-ray版ではなく、インターネットにアップされていた映像の全く綺麗ではないものである。残念ながら「光る女」(1987年)だけは今のところ入手出来ていない)。

 

 

 それらの映画についてはまた改めて書くことにするとして、斉藤由貴主演の「雪の断章―情熱―」(1985年)を見ていたら、おかしな歌が聞こえて来た。画面上に北海道の川の上を飛ぶ鳥の姿が映し出されていたかと思いきや、その歌が流れ始めてしばらくして、斉藤由貴演ずる主人公が突然その川に入ってゆっくり泳ぎ始めた。すると互いに全く関連のないその映像と歌とが奇妙な化学反応を起こして私を強く惹きつけたのだ。

 おかしな歌というのは笠置シヅ子の「買物ブギー」で(作詞作曲:服部良一)、とにかく百聞は一聴に如かずで、以下のアドレスでまず曲を聴いていただきたい(いつ削除されてしまうか分からないので、アドレスを幾つか貼っておく)。

 https://www.youtube.com/watch?v=Q_tHACJ12kw 蓄音機再生版

 https://www.youtube.com/watch?v=i14-OkwXDjE 短いヴァージョン

 https://www.youtube.com/watch?v=ZWVivEg9dfY 現行公式版

                 

 この曲の歌詞は以下の通り。

 

 今日は朝から私のお家は てんやわんやの大さわぎ
 盆と正月一緒に来たよな てんてこ舞いの忙しさ
 何が何だかさっぱりわからず
 どれがどれやらさっぱりわからず
 何もきかずにとんでは来たけど
 何を買うやら何処で買うやら
 それがゴッチャになりまして
 わてほんまによう云わんわ
 わてほんまによう云わんわ


 たまの日曜サンデーと云うのに
 何が因果と云うものか
 こんなに沢山買い物頼まれ
 ひとのめいわく考えず
 あるもの無いもの手当り次第に
 ひとの気持も知らないで
 わてほんまによう云わんわ
 わてほんまによう云わんわ


 何はともあれ買い物はじめに 魚屋さんへととびこんだ
 鯛に平目にかつおにまぐろにブリにサバ
 魚は取り立て とび切り上等買いなはれ
 オッサン 買うのと違います
 刺身にしたならおいしかろうと思うだけ
 わてほんまによう云わんわ
 わてほんまによう云わんわ


 鳥貝 赤貝 たこにいか
 海老に穴子にキスにシャコ
 ワサビをきかせてお寿司にしたなら
 なんぼ~かおいしかろ
 なんぼ~かおいしかろ


 お客さん あんたは一体何買いまんねん
 そうそうわたしの買物は
 魚は魚でも オッサン 鮭の缶詰おまへんか
 わてほんまによう云わんわ アホカイナ


 丁度隣は八百屋さん
 人参 大根にごぼうに蓮根
 ポパイのお好きなほうれん草
 トマトにキャベツに白菜に
 胡瓜に白瓜ぼけなす南瓜に
 東京ネギネギ ブギウギ


 ボタンとリボンとポンカンと
 マッチにサイダーにタバコに仁丹
 ヤヤコシ ヤヤコシ ヤヤコシ ヤヤコシ
 アアヤヤコシ


 チョットオッサン 今日は
 チョットオッサン これなんぼ
 オッサンいますか これなんぼ
 オッサン オッサン これなんぼ
 オッサン なんぼでなんぼが オッサン
 オッサン オッサン オッサン オッサン
 オッサン オッサン オッサン オッサン
 オッサン オッサン オッサン オッサン
 わしゃ ツンボで聞こえまへん ←この歌詞の一部は現行音源では削除されている
 わてほんまによう云わんわ
 わてほんまによう云わんわ
 ああしんど

 

 

 とある日曜に何か特別な祝い事でもあるのか、大量の買い物をおおせつかった「わて」が、あちこちの店を渡り歩いて数々の商品を眺めているうちにすっかりウンザリしてしまい、「わてほんまによう云わんわ」と愚痴を言う全編コテコテ大阪弁の歌である。

 この通り歌詞の内容も変わっていれば曲風も変テコで、しかしなんとも名状しがたい魅力(むしろ昔のオッサン風に「ミリキ」と言うべきか?)に満ちた歌なのである。

 同じような風変わりな曲に、以前このブログで採り上げた左卜全の「老人と子供のポルカ」などもあるにはあるが……(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502041841.html 歌はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=LZZk0tP49H8)。


 

 これを見ていて思い出したのは、黒澤明の1948年監督作「醉いどれ天使」の中で、同じ笠置シヅ子が歌い踊っている、服部良一作曲、黒澤明作詞の「ジャングル・ブギー」である(上の写真。また以下の動画参照)。

 https://www.youtube.com/watch?v=31LgTBuSIlc

 あるいは

 https://www.facebook.com/watch/?v=772623853582737

 https://www.youtube.com/watch?v=mtxcKCB5FUI 音源のみ

 

 

 そもそも私にとって笠置シヅ子と言えば、テレビ・ドラマやCMにたまに出てくるやや太り肉のオバちゃんというのが子供の頃からのイメージで(CM動画→https://www.youtube.com/watch?v=x1loqq6vKfU#t=14s)、彼女が若い日にこんな変テコな曲を流麗な(?)声で歌っていたなどとは全く知らなかった。

 そんな私が、この人が「ブギの女王」という異名すら持つ有名な歌手でもあったことを知ったきっかけは、ご多分に漏れず「東京ブギウギ」というかつての流行歌を聴いた時のことで、この曲は私の偏愛する市川崑監督の「犬神家の一族」(1976年)の中でも、原作者の横溝正史夫妻が経営(?)する、坂口良子が働いている「那須ホテル」という旅館に、われらが金田一耕助が到着した時にかかっていた曲でもあった(以下の動画の6分50秒頃から。ただし日本では視聴できないかも知れない)。

 https://www.dailymotion.com/video/xqixhf

 

 

 ちなみに「東京ブギウギ」はもともと映画「春の饗宴」(1947年)の劇中歌として最初に用いられた曲らしく、以下の動画は同作で笠置シヅ子が「東京ブギウギ」を歌っているものである。

 https://www.youtube.com/watch?v=6SfpSymF0MI

 

 以下の生演奏も迫力があって素晴らしい。力強い歌声と軽快な踊りはもちろん、最後の「イヤー!」という雄叫び(?)もユーモラスで実に良い。

 

 笠置シヅ子には他にも「買い物ブギー」と同系統でやはりコテコテ大阪弁で歌われている「たのんまっせ」(作詞:藤浦洸、作曲:服部良一)なる曲もある。

 https://www.nicovideo.jp/watch/sm4514495

 

 さらに「ブギ」や「ブギウギ」という言葉の入った笠置シヅ子の曲をYoutube等で色々と聴くことも出来る(その多くは上記の曲同様、服部良一が作曲を担当している)。

 

 アロハ・ブギ

 https://www.youtube.com/watch?v=jvPGJN-5iNs

 ホームラン・ブギ 

 https://www.youtube.com/watch?v=qKZIHm9Ifmo

 大阪ブギウギ

 https://www.youtube.com/watch?v=2YDOzDWalWw

 あるいは

 https://www.youtube.com/watch?v=nFKCTDL2AGo

 ヘイヘイブギ

 https://www.youtube.com/watch?v=Ddn7NhWeEqQ

 名古屋ブギウギ

 https://www.youtube.com/watch?v=ezTcsy5pHxA

 以下は題名に「ブギ」も「ブギウギ」も入ってはいないが、笠置シヅ子の代表曲の一部である(らしい)。

 セコハン娘

 https://www.nicovideo.jp/watch/sm4294758

 

 また、笠置シヅ子とは直接関係がないが(曲や歌唱も笠置シヅ子とは到底比べようがない)、女優で歌手の(だった?)中原理恵に「横浜ブギウギ娘」という曲があるそうである(作詞:ちあき哲也、作曲:鈴木キサブロー)。

 https://www.youtube.com/watch?v=k3RyzAKIb2w

 

 

 笠置シヅ子という人に関しては、砂古口早苗の「ブギの女王・笠置シヅ子―心ズキズキワクワクああしんど」という評伝も出ているらしく(上の写真)、今回思いがけずに関心を覚えることになった笠置シヅ子(そして作曲を担当している服部良一)という人について、しばらく自分なりに掘り下げてみたいと思っているところである。

 

(後日追加)

 その後YouTubeに《決定盤 笠置シヅ子「ブギの女王」》という全55曲から成るPlaylistがアップされた。「買物ブギー」や「東京ブギウギ」には1955年ヴァージョンという別ヴァージョンもあり、笠置シヅ子という歌手の全貌を伺い知るには格好のPlaylistである。

 https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lZC8V74GMuEplsGqCLqNdwbRtM6L5E8Wc

 

 さらにNHKの朝ドラでも2023年秋に笠置シヅ子がモデルとなる「ブギウギ」というドラマが放送される予定である。私が当ブログで言及した昔懐かしい女優がモデルになってドラマが作られるのは、浪花千栄子がモデルの「おちょやん」に次ぐ2作目で、単なる偶然だとは言え、これもまた一種の「シンクロニシティ」(by C.G.ユング)だろうかと思ったものである。