2020年10月24日(土)

 10月も早下旬だから当然だが、このところ急激に日が短くなり、気温も下がって来た。毎夕の散歩もこれまでのように下着に半袖シャツという訳には行かなくなり、途中でとっぷり日が暮れていく川べりを歩いていると足元が不如意になることもあり、散歩に出る時間を少し早めなくてはならないかと思っているところである。

 

 それほど高い関心を抱いている訳ではないのだが、ブログを書くのがますます億劫になって来ているので、今回もザ・ビートルズ関連の記事でお茶を濁すことにする(ついでにすっかり放置してあった本や映画の備忘記録も最後に付け足しておく)。

 ポール・マッカートニーの最新アルバム「McCartney III」の発売が正式に発表され、12月11日に発売になるとのこと(上の写真)。→その後、発売予定日が12月18日に変更になった。

 公式サイト→https://www.universal-music.co.jp/paul-mccartney/news/2020-10-22/

 関連動画→https://www.youtube.com/watch?v=tMtFqPRdj7o

 

 

 アルバム・タイトルからも伺えるように、ポール・マッカートニーがザ・ビートルズからの脱退を宣言した1週間後の1970年4月17日(「法的」な解散は翌年3月)に発売されたソロ活動第1弾の「McCartney」(1970年4月17日発売。上の写真はカヴァーの表裏)や、その10年後の1980年5月16日に発表された「McCartney II」(下の写真)に続く第3弾で(前々作から50年、前作から約40年後という訳である)、これらの作品のタイトルに自らの苗字を冠しているのは、作詞作曲はもとより、歌や演奏も自宅のスタジオで一人で録音・完成させたことに因んでいる。

 

 

 近いうちにザ・ビートルズのメンバーのソロ・アルバムについて簡単な感想でも書くつもりでいたのだが、先日ジョン・レノンの80回目の誕生日の記事でも書いた通り、私は彼らのソロ活動に大して関心を持って来たとは言えず、最初の「McCartney」はCDという媒体が普及し始めた頃に輸入盤を買って何度も聴きはしたものの、とりたてて好きなアルバムというのでもなかった。

 そもそもこの作品を買った最大の理由は、ザ・ビートルズ時代に作曲して録音作業も始まっていた「Junk」や「Hot As Sun」、「Teddy Boy」などの曲の「完成形」を聴いてみたかったからで、ポール・マッカートニーのソロ活動自体に興味を抱いたからではなかった。

 それでも上の「Junk」や「Teddy Boy」、「Every Night」など「ザ・ビートルズらしい」曲はまあまあ好きだし(★)、後のライヴ活動で定番となった「Maybe I'm Amazed」もソロ活動第1作のこのアルバムに収められている(ただし私はウイングス時代のライヴ版の方が断然好きで、特に間奏のギターの音には毎回痺れる→https://www.youtube.com/watch?v=yxTdz3hw9Xo

   「McCartney」ヴァージョンはこちら→https://www.youtube.com/watch?v=cdDPR8GzXy8)。

★「Junk」 https://www.youtube.com/watch?v=3svS8Nk6-Jk

  「Junk」のザ・ビートルズ時代のデモ1 https://www.youtube.com/watch?v=EwNaTFlRKY0

  同デモ2 https://www.youtube.com/watch?v=-hffhz6_HdA

  「Teddy Boy」 https://www.youtube.com/watch?v=pxd5UG1_NTc

  「Teddy Boy」のザ・ビートルズ時代のデモ https://www.youtube.com/watch?v=RVfiOojW1tc

 

 「McCartney II」は端から買ったことがなかっただけでなく、ベスト盤に収められた曲以外は聴いたことすらなく、昨年愛犬が死んだ後で毎夕散歩に出るようになってから、ようやくYoutubeからダウンロードしたものをまとめて聴いてみたくらいである(しかしその時の印象ももはやすっかり薄れてしまったため、これを書きながら改めて聴き返しているところなのだが、「Coming Up」★★などの曲は嫌いではないものの、お世辞にも優れたアルバムとは言えないだろう←むろん私の偏見に満ちみちた個人的感想に過ぎないが)。

★★ https://www.youtube.com/watch?v=E1-G4zyIAs8

 

 

 今回の「McCartney III」製作の背景に関しては、例えば以下の記事に詳しく書かれているが、新型コロナウイルスの流行による「Rockdown」(記事にも書いてある通り、lockdownにかけた言葉遊び)のもとで自宅に蟄居している間に突然思いついたものらしく、過去の2作同様、作詞作曲に演奏、そしてプロデュースまで一人で手掛けているそうである。

 https://www.udiscovermusic.jp/news/paul-mccartney-announces-mccartney-iii-album

 

 ポール・マッカートニーのソロ・アルバムは、2018年に発表された前作「Egypt Station」のCDを久々に買ってみてそこそこ気に入っており、歳のせいかヴォーカルは全盛期と比較にならない程弱々しくなってしまったものの、シングル・カットされた「I don't know」などは特に気に入っていてよく聴き返す。

 アルバム「Egypt Station」 https://www.youtube.com/playlist?list=PLoDV1tSqTU2yDObJcfLTK3-nDyTKiZo-U

 そのうち「I don't know」 https://www.youtube.com/watch?v=aef2eV7GmQw

 

 

 それだけに今回の「McCartney III」にも私なりに期待しないではないのだが、内容は12月に実際に発売になってからのお楽しみとして、「アメリカの著名なアーティストのエド・ルシェ」という人の手になるらしいアルバム・カヴァー(下の写真)だけは、見た瞬間、「ああ、これはいただけないな」と思ってしまったものである(サイコロではなく豚の鼻を思い浮かべてしまったのは私だけだろうか?)。

 

  

 

 これまでと同じく、私はもし買うのであればこのアルバムも英国Amazonから買おうと思っていたところ、郵送料の安さが最大の魅力だったこのサイトも、しばらく使わなかった間に商品価格以上の郵送料を請求するようになってしまったようで、今回の「McCartney III」もCD自体は £12.99(=約1,800円。海外からの購入だと付加価値税がなくなり £10.82=約1,500円)のところ、郵送料は £19.98=約2,700円で、結局「本体+郵送料」では £30.80=約4,200円にもなる始末で、日本のAmazonで買えば、日本語訳がついたりするだけで輸入盤より割高な日本盤ですら2,500円なのだから(輸入盤は今のところ2,203円→その後1,618円に、MP3形式のダウンロードは1,900円)、英国Amazonで買う意味は全くなくなってしまったと言うしかない(まだ買うかどうか決めていないものの、買うとしても日本のAmazonで輸入盤CDを買うつもりである)。

 

 

 

    それにしてもポール・マッカートニーも御年78歳となり、上記の通り声にしても往年とは比べべくもないものの、創作意欲の方は一向に衰えていないようで、50台半ばにしてすっかり「終活」モードに入ってしまったかのように、やる気も何もすっかり失せてしまっている私は、この人の爪の垢か髪の毛でも煎じて飲んでみなければならないようである。いやはや。

 

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 この間に読んだ本と視聴した映画は以下の通り(数が多いので感想などは極力割愛)。

 

 

・エーリッヒ・ケストナー「エミールと探偵たち」(岩波少年文庫旧版、小松太郎訳)

   確か北杜夫がどこかに書いていたはずだが、ケストナーの作品はとにかく前書きが素晴らしく、下手をしたら本文よりも面白いくらいで、今作もやはり前書きから大いに期待させてくれる。

   ワルター・トリヤーという人のイラスト(特に黄色い背景の人物紹介。以下インターネットから拝借した画像参照)もほのぼのとした味わいがあって実に良い。主要な舞台であるベルリンの細かい記述も多く、ベルリンに行ったことがあって地理に詳しい人であればさらに楽しめる作品に違いない(残念ながら私は行ったことがないのでこの点では楽しめなかったが・・・・・・)。

 個人的に気になったのは「賞金」の1,000マルクをエミールが独り占めしてしまうのかという点で、最後の最後で「やっぱり皆で分けるべきだ」となり、その資金をもとにボランティアの少年少女自警団が作られ「めでたしめでたし」となるといった結末を密かに期待していたのだが・・・・・・。

 

  

 

・山本周五郎「町奉行日記」(閉鎖されてもう存在しない「曇天文庫」というサイトで公開されていたもの)

 下記の映画「どら平太」の原作だが、数十人の敵を相手に主人公が大立ち回りするなど非現実的な場面は原作にはなく、結末の描き方も映画と比べると実にあっさりしている。しかしこれだけ奔放で変わり者(かつ遊び人)の奉行を描き出した作品は、当時では(今でも?)珍しく斬新だったに違いなく、山本周五郎という人が単に古臭い人情モノや時代小説を得意とする「過去の作家」だというイメージが良い意味で変わった。

 

 映画は以下の通り。

 

・「めぐりあう日(1973年) 原題:Je vous souhaite d'être follement aimée(あなたが狂おしいほどに愛されることを私は願っている)」(ウニー・ルコント監督) 3.0点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴

 実の親に捨てられて養護施設に預けられた後、フランス人の養父母に引き取られてフランスで暮らすことになるという自身の体験に基づいた「冬の小鳥」(原題:Une vie toute neuve)を撮った韓国系フランス人監督ウニー・ルコントの最新作。

 今作も養子として育った女性主人公エリザが実の親を探そうとする内容で、特徴的なのは主人公も夫も白人なのに、生まれて来た子が明らかにアラブ系と思われる容貌をしている点である。理学療法士としてキャリアを積んで来た彼女は、親探しのため夫と別居して「出生地」ダンケルクにひとり息子を連れて移り住むのだが、そこで患者として偶然知り合うことになったのが・・・・・・(この偶然が余りに出来すぎで、それだけで私は白けてしまったんだが)。

 原題はアンドレ・ブルトンの「狂気の愛」(未読)の一節だそうだが、映画で使われているGrand Corps Malade(フランスで最も人気のある歌手の一人)による弾き語りにはこの一節は含まれていなかった(https://www.youtube.com/watch?v=vPTQudm3AI4)。

 

・「愛の嵐(1973年)」(リリアーナ・カバーニ監督) 4.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴(私は大して気にしないが、映像は余り良くない)

 長年見よう見ようと思い続けて来ながら後回しにし続けてきた作品だが、世評にたがわぬ傑作である。

 

  「男はつらいよ」を何作か。

・「男はつらいよ お帰り 寅さん(2019年)」(山田洋次監督) 3.0(IMDb 6.8) インターネットで視聴

 「公称」シリーズ第50作。

 これまで「男はつらいよ」をある程度見続けて来た観客、そして昭和・平成という時代を生きて来た人間にとっては懐かしく、涙なくしては見られない作品と言えるだろう。しかしそうでない人にとって果たして興味を抱ける内容かどうかは疑問で、主人公の満男(吉岡秀隆)と泉(後藤久美子)のベタで稚拙なロマンス描写などを筆頭に(これは「旧世代」たる私にとっても余りに古臭く凡庸だとしか思えなかった)、時代錯誤で後ろ向きな作品としか映らないかも知れない。

 「男はつらいよ」シリーズは全作DVDを持ってはいるものの網羅的に見たことはなく、中学高校の頃に年始(1月3日)の恒例行事となっていた祖父との映画鑑賞会(とその後の食事会)でも、いっぱしの映画通を気取っていた当時の私は、他にこれと言った映画がなくやむなく「寅さん」を見ることになった時には大いに失望してブツブツ文句を呟いていたものである。

 もっともそんな私でも(歳をとったせいか)今作をそこそこ楽しめたのは事実で、最後に渥美清の歌声が流れて来た時には、これで昭和という時代が完全に過去のものとなり、「男はつらいよ」というシリーズと共に、(実質的にはとうの昔に終わっていた)「われらの時代」が完全に息の根を止められたのという実感を改めて抱いたと言っていい。

  山田洋次は90歳近い年齢になり、自身の映画人生にとって(良くも悪くも)最も大きな位置を占めることになったこのシリーズに、「手遅れ」となる前、自らの手できっちり始末をつけたのだと言っていいだろう。

 

 さらに今日本の某テレビ局では「土曜は寅さん!4Kでらっくす」と称して、毎週土曜日に最新の4K技術で修復した「男はつらいよ」シリーズを放送しているようで、その一部がインターネットにアップされていて、見る機会があった(これを機に、シリーズ第1作目から手持ちのDVDで全作見てみようかという気もするのだが、他にも見たい映画が山積しているため、実行するかどうかは分からない。この日本のテレビ放送が毎週が見られれば一番良いのだが・・・・・・)。

・「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!(1977年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.0) インターネットで視聴(再見?)

 シリーズ第20作。傑出した内容ではないものの、渥美清もまだまだ元気で演技にも脂が乗っていて安心して見ていられる。

 

・「男はつらいよ 寅次郎紙風船(1981年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.7) インターネットで視聴(再見?)

 シリーズ第28作。一般にはさほど評価が高くないようだが、「おもしろうてやがてかなしき」をまさに具現したと言って良く、個人的には大好きな作品である。映画の最後で、自分宛てに届いた速達便の中味を知り、「とんだ三枚目だ」と苦笑いする寅次郎が印象的である。

 やはり最後の方で、ヒロインの音無美紀子が寅次郎にある「確認」をするのだが、もしその時寅次郎が「ひと押し」していたら、二人の恋が成就したのではないかと思わせる内容である。彼女の亡夫は寅次郎と同じ稼業で理解もあり、自分も若い頃に辛い経験をして来たこともあり、この二人なら「うまく行った」のではないか・・・・・・などと妄想してしまった。(ちょうど同じようなことを考えている人の記事が載っていた→『男はつらいよ 寅次郎紙風船』秋月の「婚約」恋が実る最大の好機  https://www.nishinippon.co.jp/item/n/651520/)

 

 山本周五郎原作で黒澤明が脚本などに関わっていた作品を何本かまとめて。

・「どら平太(2000年)」(市川崑監督) 1.5点(IMDb 6.7) インターネットで視聴

 上記の「町奉行日記」が原作。黒澤明/木下惠介/市川崑/小林正樹の共同脚本。

 役所広司演ずる主人公がまるで全知全能のようなスーパーマンで、数十人のやくざ者に襲われてもひとりで全員を「バッタバッタ」と切り倒し、八面六臂の大活躍で藩の不正を暴いて万事落着という都合の良すぎるファンタジーのような作品で、今ひとつ乗れない。

 

・「雨あがる(1999年)」(小泉堯史監督) 3.0点(IMDb 7.7) テレビ放送を録画したもので視聴

 黒澤明脚本。晩年の黒澤作品にも見られる優等生的で浮ついた台詞や人物造型が満載でゲンナリさせられる。黒澤ほどの天才でも老いると凡才になってしまうという人間の悲しい運命を思い知らされるようで切ない。

 三船敏郎の長男である三船史郎が余りの大根演技で見るに耐えず、この役をもっとまともな俳優にしていれば多少はマシな作品になっていたかも知れない。もっとも主演の寺尾聰や宮崎美子を始め、黒澤明の晩年作品に出ていた松村達雄、井川比佐志、吉岡秀隆、隆大介などにしても決して巧いとは言えず、安心して見ていられるのは仲代達矢と原田美枝子くらいだろうか。

 

・「海は見ていた(2002年)」(熊井啓監督) 3.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴

 短編「なんの花か薫る」と「つゆのひぬま」が原作(いずれも未読)、黒澤明脚本。

 世評は散々のようだが、全く期待していなかった分、意外と見られた。2つの話をつなげた連作短編で、もともとの脚本が不完全だったらしいこともあり、もともと傑出した監督とは言いがたい熊井啓にしてはかなり善戦したと言って良く、そもそもこの脚本では黒澤自身が撮っていても傑作にはなりえなかっただろう。

 

・「古都(1963年)」(中村登監督) 4.0点(IMDb 7.2) 日本版DVDで視聴

 川端康成原作(未読)。以前見た市川崑&山口百恵版もなかなか良かったのだが、今作を見てしまうと、あれが単なるリメーク(しかも劣化版)でしかないことを痛感するしかない程素晴らしい出来である(ナレーションの多用はやや鼻白むが)。画面の構図や映像の美しさ(撮影監督は成島東一郎)、俳優たちの演技の奥ゆかしさ、作風に合致しているかどうか意見が分かれるだろうものの武満徹の幽玄な音楽の素晴らしさなど、終始惚れ惚れしながら見終えた(ただし余りに映像的に完成し過ぎているため、そこに過度な「作為」を感ずる人もいるかも知れない)。

 

 先日亡くなった斉藤洋介の追悼の意味をこめて以下の作品を。

・「ヒポクラテスたち(1980年)」(大森一樹監督) 3.5点(IMDb 6.2) 日本版DVDで再見

 監督自身の経験を元にしたエピソードの積み重ねでありながらユーモラスな場面も多く、全く退屈しない内容なのだが、如何せん尺が長過ぎるか(まだ存命ではあるものの、大森一樹はこの出世作を超える作品をその後とうとう作り得なかった)。

 伊藤蘭がアイドル出身にもかかわらず、本業の俳優たちに勝るとも劣らない演技や表情を駆使しているのは良い意味で意外な収穫だった。カメオで手塚治虫や鈴木清順(しかも「けんかえれじい」の主人公・南部麒六という役名)、北山修や作家の軒上泊、集合写真の場面では映画評論家の田山力哉と松田政男が出ている。また「仮面の忍者 赤影」の青影役・金子吉延が出ていたのはちょっと懐かしかった(今もたまに俳優業をやっているらしい)。

 制作後40年を経ているとは言え、上記の斉藤洋介や自殺してしまった古尾谷雅人、角替和枝、阿藤海(斉藤と同じく69歳没)、田山力哉、原田芳雄など(60歳で亡くなった手塚治虫もそうである)、さほど高齢でもないのに亡くなってしまった出演者が多いなと感じたものである。

 本筋には関係ないが、元ザ・フォーク・クルセダーズの北山修がCTスキャンとビートルズ(EMI)との関係について話す内容はなかなか興味深かった(CTスキャンを開発したEMIはザ・ビートルズのおかげで莫大な利益を得、それが結果的にCTスキャン開発につながったというもの。ただしこの話は事実とは言えないらしい)。

 今作を見ていて、学生寮の室内に貼られている絵画や映画のポスターについつい目が行ってしまった(以下はそのひとつ)。

 

 

・「台北ストーリー(1985年) 原題:青梅竹馬」(エドワード・ヤン監督) 3.5点(IMDb 7.7) 日本版DVDで視聴
 監督の友人で、今作では資金集めや脚本作りのみならず、自ら演技まで買って出たホウ・シャオシエンが実に若い(童顔)のに驚くが、その役柄が短気で暴力的なのも意外だった(特典のインタビューなどを見ると実際かなり短気だったようである)。

 子供の頃は野球少年でヒーロー的存在だったが、しかしそれが「頂点」で後は下降していくだけの主人公の人生はまるで我々自身の自画像のようである(もっとも私はヒーローになったことなど一度もないまま下降して行っただけだが・・・・・・)。主人公の末路は「太陽にほえろ!」のジーパン刑事の最期を彷彿とさせる。
 台北市内のフジフイルムの大きな看板やカラオケの文字、原宿や渋谷に憧れる少女、日本のプロ野球中継やその合間のCMに見入る登場人物たちなど、日本がバブル経済で活気があった(?)時代だったことが随所から伺い知れるが、今であればさしずめ中国や韓国の企業や文化がその代わりに描かれていたところだろうか。

 どうでも良いことだが、ヨーヨー・マが演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲の表記が「巴哈舞伴奏大提琴組曲第二號第一樂章」と、「無」ではなく「舞」になっているのが気になった。また、この映画の最後にはどういう訳か日本の「湯の町エレジー(溫泉鄉的吉他)」が使われている(https://www.youtube.com/watch?v=hPWN8lIHmZQ)。

 

・「黒い牡牛(1956年)原題:The Brave One」(アーヴィング・ラパー監督) 2.0点(IMDb 6.6) 日本版DVDで視聴

 以前見た映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」で今作のことを知り、見てみたくなった(原案の「ロバート・リッチ」は赤狩りで映画界から事実上追放されていたダルトン・トランボの別名)。

 赤狩りされたトランボらしく(?)、今作は地主の存在やモノの所有を批判・否定する内容とも取れるが、映画としてはご都合主義な点の多いお涙頂戴モノとしか思えない。

 

・「イルカの日(1973年)」(マイク・ニコルズ監督) 4.0点(IMDb 6.1) 日本版DVDで視聴

 ロベール・メルル原作(未読)。

 動物好きであれば見ていて滂沱の涙必至の作品で、これまで見ないで来たことを大いに後悔した(原作も積ん読のまま読んでいないのだが、やはりこれまで読まないで来たことが悔やまれる)。語り過ぎることなく絶妙なところで映画を終えている点も好感が持てる。イルカたちの「演技」も脱帽モノのリアルさで、彼らの「パー」、「ファー」という悲しげな声が余りに切なくいつまでも心に残る。ジョルジュ・ドルリューの音楽も「ツボ」を心得た名曲で、とにかく見ていてやるせない気持ちにさせられる作品である。大好きなドラマ「Law&Order」第1シリーズに出ていたポール・ソルヴィノの若き姿が見られるのも嬉しい。

 

・「ラッキー(2017年)」(ジョン・キャロル・リンチ監督) 3.0点(IMDb 7.3) 日本版DVDで視聴

 本作公開後に91歳で亡くなったハリー・ディーン・スタントンの遺作で、「敵」のいない西部劇とも言える作品。作中で語られる「戦場」沖縄での一少女のエピソードが、最後の笑いにつながっていくのが絶妙である。毎朝ラジオでスペイン語の歌を聴きながらヨガをしている主人公が、行きつけの雑貨屋のおかみの息子の誕生祝いに呼ばれ、不意にスペイン語で唄を歌い出す場面にはグッと来る(歌自体も素晴らしい)。

 

 竹内結子追悼で以下の2本を再見。

・「サイドカーに犬(2007年)」(根岸吉太郎監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見

 長嶋有原作(既読)。成瀬巳喜男の「秋立ちぬ」や大林宣彦の「転校生」などと共に「夏休み映画」の名作・佳作のひとつと言っていいだろう。

 初見時程ではないものの、主人公ヨーコを演ずる竹内結子が実に魅力的で、薫という少女が実の母親よりも彼女に惹かれるのがよく分かる。このヨーコという役柄は私が記憶していたより陰影のある人物造型で、それを竹内結子が説得力ある演技で巧みに肉付けしており、こうした役を過不足なく演じられる女優が若くして亡くなったことが改めて悔やまれる。作中で彼女が思わず涙を流す場面を見ていると、役と現実の姿がダブってやりきれない思いになった。

 

・「ゴールデンスランバー(2010年)」(中村義洋監督) 3.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで再見

 伊坂幸太郎原作(既読。ただし内容はすっかり忘れてしまった)。

 おそらく今回が3回目の視聴。1度見ただけではどこに伏線や示唆があって回収・参照されていくのかが十全には分からなかったが、3度目になるとさすがにその大半が分かって来てより楽しめた。

 一点だけひっかかるのは、冒頭と最後の「現在」パートのエレベータの中で、大森南朋が「キルオ」の話をするところで、「事件」が終わってそれなりに時間が経過したはずの現在でも、「キルオ」のニセモノ(あるいはこちらが「本物」か?)が依然として事件を起こし続けているということなのだろうか。

 私にとってこの映画の最大の瑕疵は、題名にもなっている「ゴールデン・スランバー」(原題は複数の「Golden Slumbers」)がザ・ビートルズのオリジナルではなく、斉藤和義という日本の歌手によるカヴァーが使われていることで、そもそもザ・ビートルズの曲をカヴァーしたもので聴くに値するものは極めて少ないのだが、このカヴァー・ヴァージョンは本当にひどい出来だと言うしかない。

 

 理由もなく、チャールズ・チャップリンの短篇を何本かまとめて。

・「犬の生活(1918年)」(チャールズ・チャップリン監督) 3.0点(IMDb 7.8) インターネットで再見

・「偽牧師(1923年) 原題:The Pilgrim」(チャールズ・チャップリン監督) 3.5点(IMDb 7.4) インターネットで再見
・「ヴェニスにおける子供自動車競争(1914年)」(チャールズ・チャップリン監督) 1.5点(IMDb 5.8) インターネットで視聴

・「担え銃(1918年) 原題:Shoulder Arms」(チャールズ・チャップリン監督) 3.5点(IMDb 7.3) インターネットで再見

 昔から最も好きなチャップリンの短編。かつて見た時ほど面白いとは思わなかったものの、今回見た短編の中でもやはり一番面白かった。

・「チャップリンの勇敢(1917年) 原題:Easy Street」(チャールズ・チャップリン監督) 3.0点(IMDb 7.5) インターネットで再見

・「チャップリンの放浪者(1916年) 原題:The Vagabond」(チャールズ・チャップリン監督) 2.5点(IMDb 6.9) インターネットで視聴

・「チャップリンの拳闘(1915年) 原題:The Champion」(チャールズ・チャップリン監督) 2.5点(IMDb 6.8) インターネットで視聴

 ブルドッグが大活躍する作品で、「犬の生活」もそうだが、一体どうやって撮影したのか気になってハラハラしてしまう(今の基準で見れば動物虐待だったのではないかと勘繰ってしまう)。

 

・「喜劇 女は男のふるさとヨ (1971年)」(森崎東監督) 2.5点(IMDb 6.7) インターネットで視聴

 藤原審爾原作(未読)、森崎東・山田洋次脚本。

 森崎東の最高傑作と評する人が少なくないので、Youtubeにアップされているのを見つけて(ただし著作権の問題で既に削除されてしまった)早速見てみたのだが、正直、他の森崎東作品同様、大して面白いとは思えなかった。細部は異なるものの女版「男はつらいよ」と言ってもいい一種のロード・ムーヴィーなのだが、「男はつらいよ」も嫌いではなく、ロード・ムーヴィーは大好きなのにもかかわらず、その両要素を併せ持っているはずの今作は全く笑えず面白さも感じられなかった。

 

 セルジオ・レオーネ監督作品を何本かまとめて。

・「ウエスタン(1969年) 英語原題:Once Upon a Time in the West」(セルジオ・レオーネ監督) 4.0点(IMDb 8.5) 日本版DVDで視聴

 レオーネにダリオ・アルジェントとベルナルド・ベルトルッチが加わって練り上げたはずのプロットはシンプルで他愛ないと言って良く、冒頭の1時間近くは台詞が少ない上、話もほとんど進行しないため、人によっては退屈だと感ずるかも知れないのだが、今作は単にプロットだけを楽しむ類の作品ではなく、映像の一コマ一コマを舐めるように味わいつつ、観客自らがアメリカ西部開拓史の真っ只中に身を置き、広大無辺な自然や悠々たる時の流れを体感するような作品だと言えるだろう。プルーストの長編小説がまさにあの長さによって時の変遷やその経過の非情さを表現し得たように、今作もその長さでしか表現できないものを描き出していると言っていい。

 終始無表情で冷徹なチャールズ・ブロンソンや、(珍しく)悪役を演じているヘンリー・フォンダも悪くないのだが、悪役のはずが、いつの間にか清濁あわせ呑む鷹揚で懐の大きい人物に変貌しているジェイソン・ロバーズがとりわけ素晴らしい。

 

・「夕陽のギャングたち(1971年)原題:Duck, You Sucker」(セルジオ・レオーネ監督) 1.5点(IMDb 7.6) テレビ放送を録画したもので視聴

 (過去における)アイルランドでの友人による裏切りと現在とが重なりあう結末の15分程の展開は悪くないものの、前作「ウエスタン」の素晴らしさとは打って変わっておそろしく退屈かつ冗長な作品で、途中で何度も眠りそうになった。せっかくロッド・スタイガーとジェームズ・コバーンという個性派俳優を揃えたにもかかわらず、この内容では勿体なさ過ぎると言っていい。「ションション、ションション」という、間抜けで軽快な歌声をしつこく繰り返すエンニオ・モリコーネの音楽(https://www.youtube.com/watch?v=cwASlX1HAco)も作風に合っておらず、演出にも撮影にも特筆すべきところのない凡作である(もっとも「バディ」映画が好きな人たちを筆頭に世評はなかなか高いようだから、私に見る目がないだけかも知れない・・・・・・)。

 

・「荒野の用心棒(1964年) 英語原題:For a Fistfull of Dollars」(セルジオ・レオーネ監督) 3.5点(IMDb 8.0) 英国版DVDで視聴

 西部劇を意識して作られた黒澤明の「用心棒」が、許可なく勝手に作られたリメイク作品であるにもかかわらず、マカロニ・ウエスタン(これは日本だけの呼称で、もともとは「スパゲティ・ウエスタン」)という新たなジャンルとして生まれ変わったという、色々な意味で興味深い作品である。

 黒澤版には演出も面白さも敵わないものの、そこはさすがのセルジオ・レオーネで、全体的なプロットはほぼオリジナルに沿いつつ、独自色も取り入れながら別作品として観賞に耐える内容に仕上げている。「ローハイド」俳優に過ぎなかったクリント・イーストウッドを「ブレイクスルー」させた功績も大である。

 ただし、町を支配する有力者に妻を奪われてしまう夫と幼い子供を巡るエピソードは、オリジナルの「用心棒」ではひとつの「見せ場」とさえ言えるのだが、今作は余りにあっさりしていて「グッと来る」ような要素が全くなかった。

 エンニオ・モリコーネの音楽もマカロニ・ウエスタンの音楽の規範を作ったと言って良い傑出した出来で、この後も「夕陽のガンマン」、「続・夕陽のガンマン」と、同じレオーネ作品で立て続けに傑作をものしていった。

 

 ついでに「オリジナル」も改めて鑑賞してみた。

・「用心棒(1961年)」(黒澤明監督) 4.0点(IMDb 8.2) 英国版DVDで再見(ただし画質も音声もひどく状態が悪い)

 前半は多少もたつく箇所もあり、女郎たちが三船を接待する場面など、笑いを狙ってやり過ぎの感もあるが、後半は最後の「あばよ」まで一気呵成の完璧な流れである。佐藤勝の音楽はユーモラスな部分もあって今作の雰囲気作りに大きく貢献しているが、上記の女郎たちが踊る場面などは羽目を外し過ぎの感もないではない。俳優では三船敏郎もむろん良いものの、居酒屋(?)のオヤジ役を演ずる東野英治郎がとりわけ素晴らしい。

 全体に台詞が聞き取りづらく、状況設定も意外と複雑なので(台詞が聞き取れないため余計そう思えてしまう)、今作は(日本語であれ外国語であれ)字幕付きで見ないと、台詞を聴き逃して話の流れを逸してしまうことになりかねない。

 

・「アリスの恋(1974年) 原題:Alice Doesn't Live Here Anymore」(マーティン・スコセッシ監督) 3.5点(IMDb 7.3) 日本版DVDで視聴

 男なしでは生きていけない弱さを引きずりながらも、しかし最終的には自分の意思を貫いて生きていこうとするひとりの女性が主人公で、マッチョな作品の多いスコセッシとしては異色作と言っていいだろうが、前半のロード・ムーヴィー的展開もなかなかだし、後半のダイナーにおける「働く女」パートはさらに素晴らしく、小品でありながら「地に足がついた」印象を与える意外な佳作である。この前後に「ミーン・ストリート」と「タクシー・ドライバー」という、男臭くぶっ飛んだ映画を撮っていたスコセッシからは想像できない手堅く生真面目な作風でもある。

 エレン・バースティンは以前見た「エクソシスト」とは打って変わって庶民的な女性を演じているのだが相変わらず巧みで説得力がある。若くマッチョなハーヴェイ・カイテル演ずるDV男はとても演技とは思えない迫力で(笑)、少年かと見間違えそうになる程ボーイッシュな少女を演じているジョディ・フォスターも既に後の活躍を十分予感させる貫禄に満ちみちている。

 

・「ブローニュの森の貴婦人たち(1945年)」(ロベール・ブレッソン監督) 3.5点(IMDb 7.3) 英国版DVDで再見

 ドゥニ・ディドロの「運命論者ジャックとその主人」中のエピソードが原作(未読)。脚本/台本はブレッソンとジャン・コクトー。
 最初のうち内容がうまくつかめなかったのは、当時の「踊り子」という職業がどういうものかよく分かっていなかったからで、最後の方でマリア・カザレスが元踊り子のアニエスを「grue(娼婦)」(英語字幕ではwhore)とはっきり貶める場面でようやく納得が行った。

 戦後まもなく(45年9月末)の公開で(ただし国外では20年近くも後になってから公開されたようである)、戦時下の劣悪な環境で撮影を敢行したブレッソンの演出手法は極めて激烈だったようで、マリア・カザレスは後に、「私はこの撮影現場でのロベール・ブレッソンくらい、人というものを憎んだことはない」と述懐している程である(仏語版Wikipedia参照)。

 

・「蔵の中(1981年)」(高林陽一監督) 3.0点(IMDb 5.0) 日本版DVDで視聴(再見?)

 横溝正史の短篇が原作(既読だが、内容はすっかり忘れていた)。脚本は先に亡くなった桂千穂。

 世評が極めて低いので余り期待していなかったのだが、主演俳優2人の驚くほどの大根演技を除けば、撮影や音楽、美術なども悪くなく、意外と楽しむことが出来た。もし主役にもっとまともな俳優を使い、演出にも気を使っていたら、遙かに優れた作品になっていただろうと思われる。

 大林宣彦の「転校生」などでも端役を演じていた山中康二はなかなかの美少年ではあるのだが、如何せん表情も台詞回しも素人以下と言うしかなく、相手役の松原留美子も、幼時にかかった小児麻痺で唖になったという設定で台詞が一切なく、身振り手振りだけの演技なのだが、何よりも谷崎潤一郎ばりの耽美的な作風に全く合っていない(小説家の故・栗本薫や歌手の谷山浩子を思わせる)平凡な容貌で(そもそもこの人は女性ではなく、いわゆる「ニューハーフ」だそうである)、違和感しか覚えなかった。

 

 マルセル・パニョルの「マルセイユ3部作」(https://fr.wikipedia.org/wiki/Trilogie_marseillaise)をまとめて視聴。

・「マリウス(1931年)」(アレクサンダー・コルダ監督) 3.5点(IMDb 7.9) 日本版DVDで視聴

・「ファニー(1932年)」(マルク・アレグレ監督) 4.0点(IMDb 7.9) 日本版DVDで視聴

・「セザール(1932年)」(マルク・アレグレ監督) 2.0点(IMDb 7.6) 日本版DVDで視聴

 マルセイユの港近くでバーを営むセザールとその息子マリウス、その周辺で商売を営んでいるセザールの友人たち(特にパニスという老商人)、魚介売りをしている若き女ファニーとその母や叔母などを登場人物とする人情喜劇である。

 とにかく善良でユーモアに満ちた登場人物たちの中で、ただひとりマリウスの性格が余りに歪んでいて全く共感を覚えられず(嫌悪感しか感じられず)、ハッピー・エンディングの結末もどこか予定調和過ぎて、やはり映画にしろ小説にしろ結末の付け方が最も難しいことを改めて実感させられた作品である。


 ついでにこの3部作を原作とする山田洋次の作品も再見。

・「愛の讃歌(1967年)」(山田洋次監督) 4.0点(IMDb なし。CinemaScape 3.0) 日本版DVDで再見

 マルセル・パニョル原作、脚本が山田洋次と森崎東。

 上記の「マルセイユ3部作」を日本に舞台を置き換え、3部作ではなく1本で一気に完結させている。設定の違いは色々あるが、個人的にはオリジナルより今作の方がより優れていると思う(ただし上記の点数はやや甘め)。何よりもオリジナルでは(上記の通り)主人公マリウスがただの利己的でねじくれた人間にしか思えなかった点が今作ではかなり緩和されており、その分、結末にも説得力がある。

 ただしオリジナルでは人間としての器量もユーモア精神も持ち合わせていた老商人「パニス」(に相当する人物)が医師に変えられ、この役を演ずる有島一郎も余りに生真面目過ぎて魅力に乏しいのが惜しまれる(父のセザールに相当する役を演ずる伴淳三郎はなかなか良かった)。

 さらに「愛の讃歌」という題名は甘ったるく漠然とし過ぎていて全くいただけない。

 ともあれ「マルセイユ3部作」を見るのであれば、私は断然今作の方を勧める(何より時間の節約にもなる)。 

 

・「ええじゃないか(1981年)」(今村昌平監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 傑作とまでは言わないが、世評の低さほど悪い出来ではなく、個人的には結構好きな作品ですらある。むろん全盛期の今村作品とは比べ物にならないとしても、少なくとも後期の「うなぎ」や「赤い橋の下のぬるい水」よりは遙かに出来が良くエネルギッシュで、傑作「豚と軍艦」を彷彿とさせる部分もある。

 「ええじゃないか」という一連の運動に至る歴史的経緯が十全に描かれていない点が惜しまれるが、この後邦画界が辿っていくことになる惨状を思えば今作はまだまだ十分「見られる」作品で、2時間半の間、全く退屈することなく見られた(もっとも今作を退屈極まりないという人も結構いるようなのだが)。

 池辺晋一郎の音楽は、晩年の黒澤明作品などをはじめ、個人的には全く評価していないのだが、今作は印象的なテーマ曲を含め、まあまあと言ったところか。

 主演の泉谷しげるはなかなか健闘しており、桃井かおりも(今村昌平は不満だったようだが)悪くないし、なによりも「今村組」の露口茂が存在感があって良い。

 

・「ジョン・レノンの僕の戦争(1967年) 原題:How I Won the War」(リチャード・レスター監督) 1.5点(IMDb 5.7) 英国版DVDで視聴

 ジョン・レノンが出演しているので最後まで我慢して見たものの、そうでなければ端から見ることもなかったに違いない作品である(しばらく前に、この映画を撮影中だったジョン・レノンを巡るスペイン映画「『僕の戦争』を探して」(2013年)を見たこともある)。

 台詞がやたら多く&早口でよく理解できず(一応英語字幕付きで見たのだが・・・・・・)、途中からは意味の理解を半ば諦め、とにかく最後まで見ることだけに努めた。反戦の意味合いをこめた英国らしいブラック・コメディだが、ドイツ軍が駐屯している場所にクリケット場を作れという馬鹿げた上層部からの命令を受けた部隊の悲劇的末路を描いた内容で、その設定からして笑いのツボがつかめず笑うに笑えぬ退屈な時間だった。

 作品冒頭で、先日亡くなったVera Lynnの「Auf Wiederseh'n Sweetheart」が使われている場面だけは印象的だった(改めてこの歌手の歌唱力の高さに深く感じ入った→https://www.youtube.com/watch?v=36prRdWCqu0)。