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 2016年7月17日(日)
 先日、配偶者の友人から、ソウルの中心街にある「ソウル・アート・シネマ」という映画館で現在行われている「ジャック・リヴェット回顧展」(★)のパンフレットが送られてきた(上の写真はウェブサイトより拝借)。前回触れた「フランソワ・トリュフォー回顧展」と同様、「韓仏交流の年」を記念して企画された回顧上映のようで、この映画館を運営する「韓国シネマテック協議会」が主催、映画振興委員会やソウル市、ソウル映像委員会、在韓フランス大使館、アンスティチュ・フランセなどが後援している。

《★前回も書いた通り、此処でもやはり、展示会でも展覧会でもないにもかかわらず、「展」という言葉が使われており、韓国ではこうした使い方が一般的なのかも知れない。ただし国立国語院の標準韓国大辞典には、「-展」という表現の定義として、「(一部の名詞の後ろについて)「展示会」の意味を加える接尾辞」とちゃんと明記してある。》

 そもそもこの「韓国シネマテック協議会」なる組織と、この前「原節子特集」を見に訪れた「シネマテックKOFA」を運営する「韓国映像資料院」とがどういう関係にあるのか(あるいは何の関係もないのか)すら私は全く知らないのだが(そもそも「ソウル・アート・シネマ」という映画館があることすら知らなかった)、後者が韓国映画を中心とする映像資料の収集や保存、紹介を行っているのに対し、前者はより広く古今東西の映画作品を紹介し、韓国の映画文化を育てていくことを主要な目的としているようである。


 今回のジャック・リヴェットの回顧上映は、以下に挙げる上映内容からも分かる通り、全作品を網羅するものではないものの、上映時間が12時間半以上に及ぶ大作「アウトワン」が韓国語と英語の字幕付きで上映されることが最も注目される点だろう。

 2008年に東京で開催された回顧上映の際にも、この「アウトワン」は字幕なしで上映されたことがあるだけで、ちょうど今、この作品に日本語字幕をつけて上映しようクラウド・ファンディングで資金を集める動きが展開されていると状況である(https://motion-gallery.net/projects/rivette
既に目標額の100万円に達しているようなので、来年には日本でも日本語字幕付きの「アウトワン」を鑑賞できるようになるかも知れない)。
 もっとも昨年から今年にかけて、本国フランスやアメリカ、英国などでは、この作品がブルーレイおよびDVDのデュアル・フォーマット形式で発売されており(英国版の「ジャック・リヴェット・コレクション」には、この作品に加えて「デュエル」や「ノロワ」、「メリー・ゴー・ラウンド」も収録されている)、1万円も出しさえすれば、長い間、伝説の作品として語られるのみで実際に目にすることの難しかったこの作品を、今では自宅で気軽に見ることも出来るようになった。
 おそらく今回の回顧上映が可能になったことの背景には、こうしたブルーレイ・DVD化の動きが影響しているだろうと思うのだが、ともあれ一映画ファンとしては、韓国でこのような企画が実現されたことを単純に嬉しく思っているところである(ちなみにジャック・リヴェットは今年の1月、満87歳で大往生を遂げている)。

 今回上映されているのは、以下の15作品である。

 「パリはわれらのもの」(E)
 「アウトワン」(E)
 「セリーヌとジュリーは舟で行く」(E)
 「ノロワ」(韓国語題「北西風」)(E)
 「デュエル」(同「対決」)(E)
 「メリー・ゴー・ラウンド」
 「地に堕ちた愛」(同「地上の愛」)(E)
 「美しき諍い女」(同「ヌード・モデル」)
 「ジャンヌ・ダルク 愛と自由の天使」(原題及び韓国語題「ジャンヌ・ダルク 戦闘」)
 「ジャンヌ・ダルク 薔薇の十字架」(原題及び韓国語題「ジャンヌ・ダルク 監禁」)
 「パリでかくれんぼ」(原題「Haut bas fragile」、韓国語題「パリのかくれんぼ」)
 「シークレット・ディフェンス」(同「隠密な防御」←あえて漢字語をそのまま残して訳した)
 「恋ごころ」(原題「Va Sovoir」、韓国語題「分かるようになるだろう」
 「Mの物語」(原題および韓国語「マリーとジュリアンの物語」)(E)
 「ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー」(原題:サン・ルー山頂からの36の眺め」、韓国語題「小山の周辺で」(E)

 このうち最後に(E)と付した作品には、韓国語字幕に加えて英語字幕も表示されるそうで、韓国語が出来なかったり、韓国語字幕を追うのがしんどいという私のような人間にはありがたいことである。

 ただし、韓国映像資料院の「シネマテックKOFA」とは異なり、この「ソウル・アート・シネマ」は鑑賞料が8,000ウォン(約740円)と有料である。往復の交通費を合わせれば1作品あたり1,000円近くになる訳で、今回の企画が入場無料のシネマテックKOFA主催であれば躊躇なく見に行くところなのだが、上記「アウトワン」は4回(2日)に分けて上映されることになるため、都合3,500円程度はかかることになる。私のように無職でブラブラしているドケチ人間が一本の映画に費やすにはかなり大きな出費である。
 しかも上記作品のうち、私がDVD(英国版を含む)を持っていないものは、「アウトワン」、「ノロワ」、「デュエル」、「メリー・ゴー・ラウンド」、「パリでかくれんぼ」、「ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー」(この馬鹿げた日本語題はなんとかならないのだろうか)の6作品のみで(他にも「北の橋」や「修道女」のDVDを所有している)、このうち「ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー」は日本でDVDレンタルが可能であり(おそらく次回日本に帰省したら必ず借りることになるだろう)、「メリー・ゴー・ラウンド」は仏語のみだがYoutubeで視聴可能である(https://www.youtube.com/watch?v=61w8O_aSrN8)。

 残りの作品も、上記の通り米英仏のアマゾンなどを利用すれば、今回の回顧上映よりは多少高くつくものの、DVDやブルーレイで入手することが出来、(もしそうしたければ、ではあるが)何度も見返すことが出来る。


 しかし何よりも、私はこれまでジャック・リヴェット作品を見て、本当に面白いと思ったことが一度もない(もっとも所有しているDVDにも未見のものが多く、これまで見たことがあるのは、「パリはわれらのもの」と「北の橋」、「彼女たちの舞台」、「美しき諍い女」、「シークレット・ディフェンス」の5本のみである→後日訂正。「パリはわれらのもの」は別の作品と勘違いしていて、この時点では見ていなかった。後に鑑賞したが、これはなかなか面白かった)。

 今回の最大の目玉である「アウトワン」にしても、その破格な長さと、滅多に上映される機会がなかったことから、映画マニアの間で「神格化」されては来たものの、実際に見たら余りの退屈さに居眠りしてしまう可能性もないとは言えない(実際、ジャン・リュック・ゴダールやマルグリット・デュラス、アラン・ロブ・グリエなど、映画マニアが絶賛している映画作品を見て大いに後悔した例はこれまで数えきれないほどある)。


 また、根っからの貧乏性ゆえの比較だが、日本でDVDレンタルサイトを利用すれば、旧作1本あたりわずか100円で借りることが出来、今回の「アウトワン」1本分のお金で35本もの映画を見られることになる。35本もの映画と、長く退屈な(可能性の大きい)1本の映画とを比べてみるならば、そのいずれを取るべきかは自ずと明らかである。そしてなによりも、今自分が持っているDVDの未見作品をまず見てみることの方が先だろう。
 という訳で、何時間もかけてインターネットで情報を収集した上、この通りブログの記事にまでしてはみたものの、結局今回のジャック・リヴェットの回顧上映には行かないことに決めたというのが結論である。もっとも一旦決心したとは言え、後ろ髪を引かれる思いがないとは言えないのではあるが・・・・・・(そもそもすっかり薄毛が進行して、引かれるような後ろ髪も大して残ってはいないのだが)。
 
 今回のジャック・リヴェット回顧上映は7月24日(日)まで開催されている。

 話はがらりと変わるが、先日(7月12日)の「朝鮮日報」に以下のような社説が掲載されていたので、簡単に紹介しておく。
 ちなみに日本語版のタイトルは「不正重ねたVW、韓国消費者は不買運動を起こせ」というものだが、原文タイトルである「フォルクスワーゲンのマッカ派式(★★)やり方 消費者が思い知らせてやる番」とは多少ニュアンスが異なっている(「본때 보이다=目に物見せる、思い知らせる」という部分は、以下の日本語版の記事では「お灸を据える」となっている)。
《★★「マッカ派 막가파」という言葉は辞書にも載っていない表現で、インターネットで調べてみると、1996年に韓国ソウルで起きた、日本車で帰宅途中だった女性が複数の人間に拉致されて金品を強奪された上、生き埋めにされて死亡した「マッカ派事件」という殺人事件に由来するようである。「マッカ派」というのはこの事件の犯人たちが属していた犯罪組織の名称で、もともと「막가는 인생(マッカヌン インセン=向こう見ずな人生)」という言葉を縮めたものらしく、つまり「マッカ派式」とは「ならず者式」とでも言った意味合いになるようである(自動翻訳ソフトで翻訳してみると「傍若無人」という訳語が出てくる)。》

 日本語版の記事全文を以下に写しておく。
 
《韓国検察は先ごろ、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が韓国で販売したVWや傘下・アウディのディーゼル車・ガソリン車のうち、32車種、79モデルが偽造または捏造(ねつぞう)された騒音・排ガス試験成績書で認証を受けていたことを環境部(省に相当)に通知した。環境部は該当する約8万台について、認証取り消し、販売停止、課徴金納付などの処分を科す方針だ。
 環境部は昨年11月にも、VWのディーゼル車約12万5000台について排ガス低減装置の不正操作を突き止め、リコール(回収・無償修理)命令を出した。また、検察は先月、VWがガソリン車でも排出ガスが少なく出るようソフトウエアに手を加え、認証試験をパスした事実を突き止めた。
 VWは先月、排ガス不正があったディーゼル車の買い戻し費用や補償金、罰金などとして計17兆ウォン(約1兆5000億円)ほどを米国で支払うことを明らかにした。にもかかわらず、韓国の消費者に対しては100億ウォン(約9億円)程度の「社会貢献基金」を支払うとしただけだった。両国の消費者を差別している格好だ。VWは「韓国は2012年にようやく排ガス関連ソフトウエアの不正禁止を定めた法条項ができた」としており、米国とは事情が異なるとのスタンスだ。
 だが、韓国の大気環境保全法にも車の排ガス基準違反を処罰する条項が盛り込まれている。VWの論理は、「刃物を使った犯罪を処罰する」と具体的に記した条項がない限り、刃物を手に強盗した犯人を処罰できないと言っているのと同じだ。
 政府はVWの違法・詐欺行為を突き止め、韓国の消費者が納得できるレベルの個別賠償を引き出す必要がある。また、消費者はVW車に対する不買運動を行い、排ガス不正行為を続けてきたVWにお灸を据えるべきだろう。》

 排ガス装置の不正操作に関して、米国と韓国の消費者に対するフォルクスワーゲンの補償や賠償に差があることを批判した記事であり、その批判自体について云々するつもりはないのだが、韓国最多の発行部数を誇る「一流メディア」(日本語版の会社案内には「韓国最高の新聞」とある)が、「社説」という新聞社を代表する主張を掲げる重要な欄において、特定の一私企業を「ならず者」呼ばわりした上で(上記★★参照)、消費者に向かって不買運動を煽るなどという姿勢には、大いに違和感を覚えるしかない。テレビや新聞という公的なメディアにおいて、ほとんど一個人のものと言ってもいい、後先を考えない一時的な感情に基づいた主張が、まともなチェック機能もないまま(あるいはこれでもチェック機能が働いているなどと言えるのだろうか)こうして堂々と載ってしまう(放送されてしまう)ところは極めて韓国らしいとも言えるのだが、このような記事に接するたびに、日韓の彼我の差は大きいとつくづく感ずると共に、韓国メディアに対する不信感がますます募っていくだけである。
 
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 この間に読み終えた本は、夏目漱石の「坊っちゃん」のみ。
 たまたま昔子供に買ってやった新書版(講談社「ポケット日本文学館」)をパラパラめくっていたら面白くなってやめられなくなり、結局そのまま最後まで通読してしまった。これまで何度も折に触れて読み返してきたつもりなのだが、大して深く意味も考えずに読み飛ばしてきた言葉や場面などにも細かい注釈や挿絵が付けられていて、様々な(再)発見のある楽しい読書だった。中には映画版やテレビ・ドラマ版の内容と記憶がごちゃまぜになっているものもあったりして、特に原作では「マドンナ」という女性についての具体的な描写がほとんどないことが意外な発見だった。

 またこの間は、映画を鑑賞する代わりに、先ごろ入手した英国版DVDで「ダウントン・アビー」のシーズン4以降を視聴中。
 相変わらず変人・悪人のオン・パレードと言っていい内容であり、奇を衒いすぎている観もあるものの、ついつい続きを見たくなる中毒性あるドラマである。俳優陣のなかでは、なんと言っても超ベテランのマギー・スミスの存在感が絶大であり、彼女の演ずるクローリー伯爵夫人が放つ毒舌や警句の数々、そして妖怪のような独特な笑い声を聴くためだけでも、このドラマを見る価値があると言っていい。映画「ミス・ブロディの青春」などにおける若々しかった彼女の姿を思い返すと、歳月の重さ(?)に深い感慨を覚えざるをえない。