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 2016年3月9日(水)
 寒い季節になると、有名無名を問わず訃報が相次ぐ(ように私には思われる)。今冬もまた例外ではない。天候と死とが科学的・医学的にどれほど密接に関連しているのか(あるいはいないのか)私には全く分からないが、そうした訃報に接するたびに一日も天候が温暖になって春が訪れてくれればと願うしかないでいる。

 昨日、「5人目のビートル」(★)と呼ばれた音楽プロデューサーのジョージ・マーティンが亡くなった。享年満90歳(上の写真)。

《★日本語の記事では「5人目のビートルズ」という書き方が多いのだが、4人の「ビートル」(あえて書くまでもないが、かぶと虫のbeetleの綴りを一文字だけ変えたbeatle)が揃って初めて「ザ・ビートルズ(The Beatles)」なのであるから、やはりここは「ビートル」と書くべきところだろう。》


 マーティンはおそらくロック音楽史上最も有名なプロデューサーであり、彼の存在なくしては、ザ・ビートルズの世界的な成功はありえなかったに違いない。この唯一無二のバンドが今日我々が知っているような姿になる上での影響力という点から見れば、メンバーであったリンゴ・スターやジョージ・ハリソンよりも重要な存在だったとさえ言っていいかも知れない。
 1962年当時、ザ・ビートルズは地元リヴァプールやドイツのハンブルクなど、一部の地域でこそよく知られた存在だったが、本格的なメジャー・デビューを目指して受けた大手レコード会社のオーディションには次々落ちてしまい、もしEMI傘下パーロフォンのプロデューサーだったジョージ・マーティンが、その鋭い直感によって彼らを掬い(救い)上げていなかったならば、ザ・ビートルズは英国内ではそれなりに名を成しえたかも知れないが、おそらくその名声が海を渡ってアメリカやヨーロッパ、アジアにまで到達することはなかったに違いない。
 面白いのは、マーティンがザ・ビートルズに興味を持ったのが、音楽そのものよりも、彼ら生意気な若者が示した独特なユーモア感覚だったということである。それはピンク・パンサーのクルーゾー警部役で知られるピーター・セラーズや俳優ダドリー・ムーアなどのコメディ・レコードも手がけていたマーティンならではの視点のおかげだったと言っていいだろう(そして奇しくも、ルイス・キャロルやエドワード・リアなどによるナンセンス詩や言葉遊びを愛好し、自らも「A Spaniard in the Works」や「In His Own Write」といった言葉遊びに満ちたナンセンス詩集を出版したジョン・レノンは、マーティンと出会う前からこれらのコメディ・レコードのファンだったらしい)。
 少しも物怖じすることなく、機知に富みユーモア感覚あふれる言葉を繰り出すジョン・レノンやジョージ・ハリソンに人間的に魅了されたマーティンは、やがて彼らの作り出す力強くユニークな音楽にも大きく惹かれるようになり、その魅力を最大限に活かすために音楽的なアイディアやアドヴァイスを与え、「ザ・ビートルズ」というバンドの成長と発展に積極的に関与していったのである。
 クラシック音楽やバーナード・ハーマンなどによる映画音楽(「Eleanor Rigby」における弦楽奏には「サイコ」の音楽が影響しているらしい→http://www.rollingstone.com/music/news/beatles-producer-george-martin-dead-at-90-20160309)にも精通していたマーティンは、ロック音楽に弦楽奏やバロック風のピアノを加えたり、録音テープの速度を変えたり逆回転させたりして新しい音を作り出す実験的な方法をも持ち込み、「ザ・ビートルズ」というひとつの音楽ジャンル(と言ってもいいだろう)の創造に大きく貢献したのである。

 

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 個人的には、ザ・ビートルズ以外にも、マーティンがプロデューサーとして参加した「アメリカ」(バンドの名前である)も思い出深い。以下のアドレスにあるベスト盤(上の写真)もマーティンの手に成るものだが、日本ではCMソングにもなった「Daisy Jane(たそがれのジェーン)」や大ヒット曲「Sister Golden Hair(金色の髪の少女)」などは特に愛聴したものである。

 Daisy Jane https://www.youtube.com/watch?v=aUtcbkQBOyc

 Sister Golden Hair https://www.youtube.com/watch?v=exiyXAV-aVQ

 

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 マーティンの他にも、俳優のジョージ・ケネディ(上の写真)や指揮者のニコラウス・アーノンクール(★★ 下の写真)の訃報が相次いだ。

《★★もっとも私はずっと「アルノンクール」という表記で覚えていた。最初の「H」を発音しないことから、てっきりフランス人かスイス人だから仏語式に「アルノンクール」と読むのだと思っていたのだが、元の名前の由来はよく分からないものの、本人はドイツ生まれのオーストリア人らしい。》


 ジョージ・ケネディ(享年満91歳)と言えば、名作「暴力脱獄」やアガサ・クリスティー原作の「ナイル殺人事件」、「エアポート」シリーズなどに加え、角川映画の「人間の証明」や「復活の日」に出演したことから、日本でも比較的よく知られた存在だが、個人的にはロサンゼルス市警の警察官を演じたテレビ・シリーズ「ロス警察25時(The Blue Knight)」がとりわけ懐かしい。
 これは「センチュリアン」や「クワイヤ・ボーイズ」など映画化された作品も多いLA市警出身の作家ジョゼフ・ウォンボーの小説を原作としたドラマで、ガタイが大きく人間味あふれる警察官をケネディが演じていて、中学生の頃(日本での放送は1981年とのこと)、毎週楽しみに見ていたものである。残念ながら本国米国でも未だにDVD化されておらず(VHSは出ていたようだが現在では入手不可である)、私の中では最も見返してみたい米国ドラマである。

 

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 一方のアーノンクールは、昨年末に音楽活動からの引退を報ずるニュースを読んだばかりだと思っていたら、今度は訃報が飛びこんできた(享年満86歳)。
 私が初めてアーノンクールの名前を意識してその音楽を聞いたのは、おそらく古楽器での演奏によるモーツァルトの「レクイエム」だが、専門家の評価はすこぶる高かったものの、個人的には古楽器のスカスカした音やその早いテンポに違和感を覚えて、余りピンと来なかった記憶がある。
 以来、モーツァルトのオペラや、フリードリヒ・グルダとのピアノ協奏曲などはよく聞いたものだが、バッハやベートーベン、ブラームスなどの作品はほとんど聞いたことがなく、決して良い聴き手だったとは言えない。
 このところまったく聞かなくなってしまったのだが、KBSクラシック(ラジオ)の「チョン・マンソプの名演奏・名音盤」という番組では(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502041068.html)、訃報が報じられてすぐの3月6日に、早速追悼特集を組んでいた(参考までに曲目を以下に挙げておく)。

①バッハ「管弦楽組曲第2番 BWV1067」 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
②モーツァルト「交響曲第40番 K550」 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
③ハインリヒ・ビーバー「Sonata Seconda a 8」 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
④モーツァルト「レクイエム K626」 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス


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 以下はYoutubeで聞くことの出来るグルダとのピアノ協奏曲である(上の写真は私も持っているこのCDのカヴァーである)。
 「第23番イ長調 K.488」 https://www.youtube.com/watch?v=x5x9TxxWRbY
 「第26番ニ長調 K.537《戴冠式》」 https://www.youtube.com/watch?v=BCEX-isUZoY

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 このところ翻訳コンテストの準備などでまとまった読書が全く出来ておらず、この間に読み終えた本はなし。

 映画もなかなか見る時間が取れず、以下の3本のみ(ただし「昭和怪盗傳」はテレビ・ドラマである。

・「昭和怪盗傳」(岡本喜八監督) 3.0点(IMDbなどにはデータなし)
 岡本喜八監督のテレビ・ドラマには他にも赤川次郎原作の「幽霊列車」などがあり、この「幽霊列車」の方は昔テレビで見てなかなか面白かった記憶があって、是非また見返してみたいと思っているのだが、いつの間にか出ていたDVDはあっという間に廃盤になってしまって高値がついていて(アマゾンの中古で現在24,800円)、とても手が出ない(当然レンタルもない)。
 「昭和怪盗傅」は実在の泥棒をモデルにした加太こうじの「実録説教強盗 昭和大盗伝」を原作としており、主人公の説教泥棒・津田梅吉を演ずる仲代達矢以下、岸田今日子、田中邦衛、仲代率いる「無名塾」の門下生である神崎愛や隆大介などが出ている。現代版・鼠小僧次郎吉とも言うべき内容で、講談調でユーモアたっぷりの仲代の台詞回しが面白い。

・「赤い靴」(マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー監督) 3.0点(IMDb 8.3)
 やはりこのブログで採り上げたことのある怪作「血を吸うカメラ」(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502039697.html)の監督であるマイケル・パウエルの代表作。数年前にマーティン・スコセッシの推進で元のフィルムを修復した「デジタルリマスター版」が上映され、DVDも出ているが、今回視聴したのは余り映像の綺麗ではない旧盤のDVD(日本語版)である。
 スコセッシが好きな作品ということで大いに期待して見たのだが、劇中のバレエもどこか出来の悪いミュージカルのようで惹かれず、なによりも主演のバレリーナを演ずるモイラ・シアラーやその相手の作曲家役の男優マリウス・ゴーリングのいずれもちっとも魅力的ではなく、最後まで「乗れ」なかった。最も興味深い人物はやはりバレエ団を率いるレルモントフ役のアントン・ウォルブルックであり、自らが追求する芸術的完成のためにバレリーナに恋愛や結婚なども放棄させようとする演出家を見事に演じていて、他の俳優たちを完全に食ってしまっている。最後の悲劇的展開が勧善懲悪じみてしまっているのも凡庸で、いっそ自分が目指すもののためにならば何を犠牲にしても構わないといった悪魔的な人物を描き切って欲しかった気がする。

・「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(J・J・エイブラムス監督) 3.0点(IMDb 8.4)
 これまた例によって、インターネットの違法アップ(劇場で直接撮影したものだと思われる)のものを視聴。
 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」同様に公開直後の評価がやたらと高かったため、この年になって今更スター・ウォーズでもあるまいと思いながらも、大いに期待しつつ見たのだが、一言で言ってしまえば、第1作目(時系列の順では4作目)である「スター・ウォーズ」を38年後にリメイクした「劣化コピー」である。
 この作品によって初めてスター・ウォーズ・シリーズに接する若い世代は、おそらく登場人物の関係もよく分からないだろうし、現代のCGや特撮技術に慣れてしまっていて「古臭い」と思うのではないだろうか。その意味ではこの「新作」は、かつて映画館で初期3部作を見て熱狂した50代前後の古いファンが過去を追懐して楽しむために作られた、「古き懐かしき」作品でしかない。私はまさにこの「古いファン」(もっとも全然熱狂的ではないし、最初の2作の他はほとんど評価していないが)の世代に属するのだが、2時間強の視聴時間の間、既視感満載のこの映画にただただ呆然としていただけである。
 とりわけ今回新たに加わった2人の主演俳優にまったく魅力がなく(おまけに「政治的正しさ」に配慮してか、黒人と女性という組み合わせである)、BB-8というアンドロイドもR2-D2と似たり寄ったりの造型で新鮮味がない。
 内容的にも50近い私のようなオッサンが見て満足できるようなものではなく、ディズニーらしいお子様向けで都合の良いオハナシに過ぎない。点数はかなり甘めで3.0にしたものの、ロトの妻ではないが、やはり過去というものはおぼろげな記憶のなかで大事にしておくべきもので、決して未練がましく後ろを振り返ってみてはならないのかも知れない。