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 2013年12月20日(金)
 年末、特にクリスマスが近いことから、このところ韓国語講習のクラスなどでもクリスマス・パーティーやスピーチ大会などの催しが続いている。
 性格的にこの種のイヴェントは死ぬほど嫌いなのだが、子供の時や若かった頃ならまだしも、50に近い年齢にもなって周囲が楽しそうにしているすぐそばで、「(こうしたものは)嫌いだから出ない」などと言うのはさすがに大人気ないと思っておとなしくしていると、いつの間にやらクリスマス・パーティでは合唱をすることになり、別の講習でもほぼ強制的にスピーチ大会に出なければならないということになってしまった。
 日本語でも人前で話をするのが大の苦手だというのに、言葉のままならない韓国語で話すことなど到底できないと、スピーチ大会の方は結局なんとか回避することができたのだが、歌をうたう方は、生徒の人数が全部で10人近くになることもあって、歌うふりだけしていればバレはしまいと気楽に考えてそのまま放置していた。すると1ヶ月ほど前に、どんな歌をうたったらいいか各自で考えて持ち寄ろうということになり、歌う気などこれっぽっちもないにもかかわらず、表向きには意欲がある素振りを見せておくにこしたことはないと、クリスマス関連の曲を調べるだけは調べていくことにした。
 クリスマス・ソングと言えば、「きよしこの夜」だの「もろびとこぞりて」、「We Wish You a Merry Christmas」などの所謂キャロルや、「ジングル・ベル」や「赤鼻のトナカイ」といった伝統的な曲に加えて、ポピュラー・ソングでも古くは「ホワイト・クリスマス」やナット・キング・コールの「ザ・クリスマス・ソング」、比較的近いところではジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」やワム!の「ラスト・クリスマス」、マライア・キャリーの「All I Want for Christmas is You」など、有名どころだけでも結構ある。
 しかし韓国語クラスの講師が条件としてあげた「韓国語の歌詞があるもの」という制約にかなうものは子供でも知っているようなキャロルくらいしかなく、幼稚園の学芸会ではないのだからと、「War is over, if you want it」という歌詞の政治臭が気になりはしたものの、ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」と、ビング・クロスビーの「ホワイト・クリスマス」あたりでどうかと思いながら講習に向った。
 結果的には、前者には韓国語の歌詞が存在せず、後者は後者で一般に知られた韓国語の歌詞だと宗教色が強すぎるという理由で却下されてしまい、結局は「きよしこの夜」だの「もろびとこぞりて」だのといった当り障りのないキャロルに落ち着いた。私以外の生徒も余りやる気がなく、練習もろくにせずにいきなり本番に臨んだため、我々のクラスは拍手喝采からは程遠い失笑を買っただけだったが、熱意に満ちたやる気のある講師や生徒のなかでひとり白けているよりはずっとマシだった。

 私自身が知らない曲だったこともあって最初から候補には挙げなかったものの、今回初めて耳にして以来、何度も繰返し聴き続けることになったものに、エルヴィス・プレスリーとマーティナ・マクブライドによる「Blue Christmas」という曲がある(https://www.youtube.com/watch?v=3KK6sMo8NBY)。
 ジョン・レノンなどが大きな影響を受けたというエルヴィス・プレスリーという歌手に、これまで私は全く興味を覚えたことがなかったのだが、この「Blue Christmas」のミュージック・ヴィデオに登場するエルヴィス(などという馴れ馴れしい呼び方をするのは大嫌いなのだが、姓名ともに書くと長いので、やむなくこう書くことにする)は同性である私から見ても実に「格好いい」のである(もっとも如何にもと言ったエルヴィスの格好のつけ方や、それに即座に反応する女性ファンたちの喚声(嬌声?)を聴いていると思わず吹き出しそうになってしまうのだが…)。


 この映像が記録されたのは1968年の暮れのことで、当時エルヴィスは33歳。1950年代後半に20歳そこそこで次々とヒット曲を飛ばして一躍ロック界の大スターに登りつめたものの、60年代に入ってからは立て続けに映画に出演することになり、それまでの華々しい音楽活動からは実質的に遠ざかってしまっていた頃である。そしてそんなエルヴィスが、ふたたびロック歌手として本格的復帰を果す契機となったのが、まさに1968年末にテレビ放映されたこの「NBCテレビスペシャル」という番組なのだった。
 この「Blue Christmas」でエルヴィスと共演しているのは、アメリカ中西部カンザス州出身のカントリー歌手、マーティナ・マクブライドである。日本でこそ余り知られていないものの、エルヴィスより10歳近く年長のヴェテランの歌い手で、その実力を買われて共演を果すことになっただけあってエルヴィスに勝るとも劣らない力強い歌唱を披露している。


 というのは実はまったくの嘘で、彼女は2013年末現在で40代後半の現役カントリー歌手であり、このミュージック・ヴィデオは上記の1968年に撮影されたエルヴィスの映像にあわせて、マクブライドが歌った映像と音声を合成して作られたものである(もっとも私自身、最初はこれが合成によって作られた映像だなとは微塵も思わず、マーティナ・マクブライドもエルヴィスと同時代の歌手だと思い込んでいたのだが…)。もともとエルヴィスの古い音源と、現役歌手たちの歌とを合成した「架空のデュエット」曲を集めて作られたアルバム企画のひとつで、特に「Blue Christmas」の出来が良かったからか、このようなミュージック・ビデオまで別途作られたようである。


 「Blue Christmas」という曲は題名からも容易に想像されるように、本来は聴く人を楽しい気分にしてくれるはずのクリスマス・ソングとしてはひどく後ろ向きな内容なのだが(歌詞を読めば分る通り、幸福で楽しい「ホワイト」クリスマスとは対極にあるのが「ブルーな」クリスマスという訳である)、それでも昔からこの時期になるとよく歌われる人気曲らしく、今回も様々な歌手が歌っているものをYoutubeなどでエルヴィス&マクブライド版と聴き比べてみることが出来た。
 まずはエルヴィスがデュエットではなくソロで歌っている1968年の「NBCテレビスペシャル」オリジナル版(テイク違いのものが少くとも2種類あり、デュエット版はそのところどころを適当に切り貼りして使っているようである)を筆頭に、同じくエルヴィスが1957年に発表した「クリスマス・アルバム」ヴァージョンがあり、エルヴィス以外の有名な歌手によるものをざっと挙げていくだけでも、Dean Martin、Tammy Wynette(★)、The Platters、John Denver、Cliff Richard(エルヴィスのパロディ版)、The Beach Boys、Lou Reed(とRufus Wainwright)、Bruce Springsteen、Fats Domino、Jerry Lee Lewis、Johnny Cash、Willie Nelson、Rod Stewart、Jon Bon Jovi、Cyndi Lauper、Sheryl Crow、Andrea Bocelli、Celine Dion、Enya、Kelly Clarkson、David Thibault(よく知らない人だが完全にエルヴィスの真似である)、そして日本の山下達郎などなどとまさに枚挙に遑がない(★★)。

《★この人の歌う「Stand By Your Man」(https://www.youtube.com/watch?v=IgWKSdkW1A0)という曲については、この曲が登場する映画「Five East Pieces」や「All or nothing(邦題は「人生は、時々晴れ」)、この歌のなかで用いられているペダル・スティール・ギター(pedal steel guitar)という楽器への言及も含めて、いずれ触れたいと思っている。
★★他にも坂本九や雪村いづみによるものもあるらしいが、今回は実際に聴くことは出来なかった。またこの歌との関連は分らないが、岡本喜八監督(倉本聰脚本)による1978年制作の「ブルー・クリスマス」という映画作品もあるし、全く別の曲ではあるが、日本の松田聖子や大黒摩季にも同じ題名の歌があるらしい。》


 すべて真面目に聴いてみた訳ではないが、エルヴィス・ヴァージョン以外で聴くに値すると個人的に思ったのは、懐かしのRod Stewartによるライヴ版(www.youtube.com/watch?v=IDCmIuJ3Xdg→既にリンク切れ)くらいで、これを聴いてRod Stewartという人は実に雰囲気のある優れた歌手だったのだなと今更ながら認識を新たにした位である。

 上記の通り歌詞のせいもあるが、エルヴィスによる「Blue Christmas」からはクリスマスの祝祭的気分とでもいったものをほとんど感じることは出来ず、しかし実にエルヴィスらしいロック調(あるいはリズム・アンド・ブルース調)の雰囲気が濃厚に漂ってくる。しかも「デュエット」版ではカントリー歌手であるマーティナ・マクブライドが加わっていることで、エルヴィスらしさは出ているものの単調であると言えなくもないオリジナル版よりも音楽的な広がりがあり、マーティナ・マクブライドの熟練した歌声の心地よさも手伝って、個人的にはこのデュエット版の方がより優れた作品に仕上がっていると思われる。
 しかし今回エルヴィスについて採り上げたのは、単にこの曲が気に入ったからというより、むしろ他にもエルヴィスの映像を色々と見ることになった過程で、このヴィデオが撮影されてからわずか9年後の1977年に行われた「最後のコンサート」の様子を目にすることになったためである。「Blue Christmas」の時にはまだまだ若々しく格好も良かったエルヴィスが、死の数週間前に撮られたこの最後の映像においては、薬物の過剰摂取などのためかぶくぶくと太って顔も病的にむくみ、わずか42歳とは思えないほど老けた上、無理をして声を出すと息が切れてしまうような痛々しい様子まで見せつけられることになり、時の経過の残酷さに複雑な感情を抱かざるをえなかったのだ。


 若くしてロック音楽界のみならず同時代の「アイコン」的存在になったことの激しいプレッシャーのためか、あるいはその成功が華々しく急激だったがゆえに反動もまた大きかったためなのか、余りにも早く訪れたエルヴィス「晩年」の凋落ぶりを目の当りにすると、若かった時の姿が自信にあふれ格好いいだけに、却ってはかなくも、物哀しくも思えてならなかった。
 かつて古人(いにしえびと)がうたったように、やはり「娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらはす」ということなのだろうか。「おごれる人も久しからず、只春の夜の夢のごとし。たけき者もついには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」というように…。