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  ケンウッド・ハウス前から見下ろしたハムステッド・ヒース

 

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  ハムステッド・ヒースの池

 

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  ハムステッド・ヒースからロンドンを遠く眺める

 

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  ケンウッド・ハウス横にある屋外カフェ

 

  以下はハムステッドとその隣街ゴールダーズ・グリーンの住宅や街並み

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  これは画家John Linnellが住んでいた家「Old Wyldes」

 

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  「Old Wyldes」に掲げられている詩人ウィリアム・ブレイクの銘板

 

 2011年4月15日(金)
 以前紹介した英文学者・作家の吉田健一(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502038791.html)は、「ハムはハムステッドのに限る」と書いている(★)。

 実際ハムステッド名産のハムは、ソーセージを始めとしてお世辞にも精肉製品が美味しいと言えない英国においては驚くほど洗練されており、日本で食べるハムは言うまでもなく、スペインやフランスなど他の欧州諸国のハムと比較しても決して負けない豊かな香りと癖のない肉の旨みとが丁度良い具合に凝縮された逸品である。
 高級住宅街でも知られるハムステッドであるから値段は決して安いとは言えないが、所詮はハムであるから高くてもキリがあるし、そもそもハムを一時に大量に食べることはないから、肉屋に行って自分の食べる分だけを切り分けてもらえばいい。ハムステッドには駅前のハイ・ストリートに何軒か肉屋があり、以前は洒落た食材品屋だった店もこの前行ってみたら肉屋になっていたから、ハムを買うにはちっとも困らない。
 もしロンドンに来て余り遠くまで行く時間はないが、ロンドンらしい豊かな自然と都会との特色がうまく混ざり合った場所を訪れてみたいのであれば、地下鉄で30~40分で気軽に行けるハムステッド(Hampstead)をお勧めするし、その際はどこの肉屋でも構わないから店員にハムステッド産のハムを何切れか切ってもらい、これまた駅前には幾つもあるパン屋でバゲットを手にいれ、そこら辺のスーパーマーケットや酒屋でお好みの飲み物を買ってから、ぶらぶら歩いてハムステッド・ヒースという広大な公園まで出て、手頃なピクニック気分を味わって欲しいものである。ささやかではあっても、何とも表現できぬような幸福でのんびりとした時間を保証する。むろん季節は春か夏、雲ひとつないような蒼穹が頭上に広がっていることが望ましい。

 などというのは全くの嘘っぱちで、吉田健一というのはこれだからなかなかにあなどることの出来ないオッサンなのである。事情を知らぬ人だったら、吉田の言葉をそのまま信じて、ロンドンのハムステッドではハムが名産なのかと思ってしまいかねない。目黒の秋刀魚ではないが、腹が空いてさえいればハムステッドであれどこであれ、どんなハムでも美味しく感ずることが出来るかも知れないが、少くとも私の知る限りでは、ハムがハムステッドの名物だなどという話は聞いたことがない。そもそもハムステッド(Hampstead)の「ハム」は「家」(Home)を意味するHamであって、食べる方のハムとは全く関係がないのである。

 ロンドン最後の週末、私はこのハムステッドを訪れ、地下鉄駅から閑静な住宅街をゆっくりと抜けてハムステッド・ヒースに出、ナショナル・トラストの所有する「ケンウッド・ハウス」という瀟洒な邸宅跡でレンブラントやフェルメールの絵画を眺めながら、ようやく春めいて来た英国の香りをかすかに嗅ぐことが出来た。私は以前このハムステッドに程近いフラットに住んでいたことがあり、時折これらの場所を訪れては英国の緑豊かで美しい自然を楽しんだものだったが、英国を去る直前になって最後に見ておきたかったのは、やはり最初に住んで慣れ親しんだ土地の風景だったという訳である。
 同じ週末、私は他にもロンドン市内の幾つかの場所を訪ね歩いたが、あいにく今はそれらの場所について書く時間がない。全くの尻切れトンボではあるが、私のロンドン滞在は程なく終り、次にこの日記を書く時には既に日本に戻って慌しい時間を過ごしているはずである。ロンドン日記の締めくくりがフランスの話ではどうかと思ったので、全くの無内容ではあるが、今はハムステッド周辺の写真を何枚か掲げて、一旦この日記を終えることにしたい。

 写真は1枚目から、ケンウッド・ハウス前から見下ろしたハムステッド・ヒース、ヒースにある池、遠くロンドンを眺めおろすことの出来るヒースの高台、ケンウッド・ハウス横にある屋外カフェ、ハムステッドや隣接するゴールダーズ・グリーンの住宅や街並計7葉。このうち最後の2枚は、ジョン・コンスタブルやウィリアム・ブレイクなどと同時代の画家John Linnellが住んでいた家「Old Wyldes」で、青いプレートに記されているようにウィリアム・ブレイクもこの家を訪れたようである。

★「ロンドンの味」より。正確には「ロンドンがここから何千里か、何万里も山や海を越えた向うにある時に、ロンドンのハムはハムステッドのに限るなどと言った所でどれだけ足しになるだろうか」。いくつもの著作に収録されている短いエッセイだが、参照したのは講談社文芸文庫版「ロンドンの味 吉田健一未収録エッセイ」(2007年7月10日初版)。