帰宅時にアパート10メートル手前で
かばんに手を入れ鍵を取り出そうとした。

しかし、なかなか鍵が見当たらなかった。
鍵のキーホルダーについた鈴の音は
チリンチリンなってるのに、鍵がなかなか
出て来ない。

辺りは暗がりで、明かりも不十分。
ガサゴゾ、ガサゴソ必死に探すが
全く姿を現さない。

そのうちにトイレにも行きたくなってきた。
わー、もれるーっ、もれるーっ。

ちくしょー、このやろうー、と
淑女があまり使わない言葉まで
飛び出し始めた。

その時、向かいに住むおじいさんが、
その乱暴な声を聞き付けて、
懐中電灯を持ってやってきた。

『カギ見つからないのですか?
明かりのある私の家で探したら
いかがですか?』と声をかけられ、
こっちは乱暴な独り言を聞かれたのが
恥ずかしくて仕方ない。

なんだか断り切れず、おじいさんの家に
案内された。門をくぐり、明かりのある
玄関に通される。

どんなに優しいヒトでも、知らないお家に
付いて行くのは・・・。生命の危険を一瞬感じた。
(リンゼイさんだって、気の緩みでああなった?)

しかし、予想に反し家にはおばあさんもいて
よろこんで迎え入れてくれた。もし、
鍵がないなら助けが来るまでいてもよいと言われ、
やたらフレンドリー。

カギは無事に見つかり、お礼を言って
その家を出ようとしたら、帰りもそのおじいさんが
懐中電灯で家の前まで先導してくれた。

舌きりスズメかかぐや姫になった感じがした。
都会のご近所付き合いにも、こんな人情が
残ってるなんて。

なかなか味わえない経験であった。