仕事帰りで地下鉄に乗った。
下車してプラットフォームに
おり立った時、同じ電車から
下りて来た強面の男と危うく
ぶつかりそうになった。

その男の眉毛は限りなく太く、
目は限りなく細く、髪を極端に
短くして、反りをいれていた。
(おっかねーっ)
ヘルメットを小脇にかかえて、
太いズボンを穿いたいかにも
現場から帰ってきたという
出で立ちだった。

ギロッと睨まれたので、「スッ、
すいません」とすぐに誤った。
(俺が悪かったのかどうかは
疑問だが、この際、謝らないと
殺されちゃうんじゃないかと
びくついてしまった。)

その男とは出来るだけ距離を
おきたいのだが何故か歩調が
一緒で困った。

「靴の紐を結びなおさなくちゃ」と
止まって靴を見ると、今日は運悪く
紐無しの革靴を履いていた。
「ええっと、今何時かな」と腕時計を
のぞいたが、今日は腕時計をしていない。

仕様がないのでそのままエスカレーターの
ところまで行った。「もう、いいや、
さあ、殺せ」という覚悟でその男の
後ろからエスカレーターに乗った。

そっとその男の後ろをみると、短い
髪が後頭部だけ何故かふさふさしていた。
よくよく見ると、そのフサフサ部分は
綺麗なハート型に刈りそろえてあった。
何でそんな髪型にしたのか考えてみたが
どうも分からない。多分、合コンで
女の子にもてようと思ったくらいだろう。

いずれにしても、ホッとした。
「何だ、この人、良い人なんだ。
そーなんだ」。
改札口を出る時にその人にそっと
微笑んだら、また睨まれた。
(やっぱり、おっかねーっ)