点在する緑が、徐々に岩に飲み込まれる。

襟裳岬から始まる日高山脈を通り、北海道の真ん中を走る背骨たる山々は、ここ十勝連峰を経て標高を上げ、大雪山系へと貫かれる。

天気図の等圧線のように山の景色はある場所を境に豹変する。

気温が突然下がり、緑は消える。

立ち上る噴煙とでき始めた雲の区別がつかないまま、それでもその白い煙の切れ目から時々、聳える山の頂きが頭を出しているのが見えた。

なだらかでありつつも、ゴロゴロと転がる石に足を取られ続け、一瞬の急登を経てから、砂の道が続く平坦な稜線に出る。

左手には大正時代の噴火でできた岩屑なだれが川のように山を抉ったあとが見える。

当時、泥流は噴火後25分で富良野原野まで到達し、144名もの犠牲者を出したという。

見渡す限り、荒寥とした景色だ。

ここは、地球ではなく、火星なんじゃないかと思う。

最後の頂上手前の急登の前に後ろを振り返ると、山頂まで緑豊かな美瑛岳が美しく聳えていた。

モノクロの景色を彩る緑が飛び跳ねる。

高山植物もとうに消え失せたこの命の気配が一切ない景色の中でキミは、一体何に導かれてこんな場所までやってきたのだろう。

大きなザックを背負った登山者たちは、みな息を切らすことなく、この先へ分岐する次なる頂へと向かう。

もっと山深く、もっとも文明の気配の薄い場所を求めて、遺伝子の片隅に残る野生の力を試すかのように。

命はこんなにも重くありながら、時にひどく軽々しかった。

登るたびに隆起していく太ももの裏側とふくらはぎは、エントロピーの法則にほんの一瞬だけ抗う命の力だ。

地球の歴史から見れば、一瞬で吹き飛ぶような、些細な命の連続が、この美しい景色の中に含まれている。

それはどれひとつとっても、不要であり、同時に必要なものだ。

どの出来事も物事も、本当は何もかもがかけがえがない。

6:50望岳台登山口

7:40十勝岳避難小屋

10:00山頂（30分休憩）

13:10望岳台登山口

荒寥（夏登山9回目）