サクラマスが、生まれた川に帰ってくる。

3.7mもの高さの滝を飛び越える。

急な流れの抵抗に跳ね返されて、何度も何度も、滝壺に落ちる。

ここで諦める子は一人もいないのだろうか。

狭くなった川を飛び出して、大海を渡り、陸封型よりも大きくなって戻ってきたんだ。

陸封型のヤマメの産卵個数は、100から1000個。

降海型のサクラマスは、1000個から4000個。

田舎派と都会派の遺伝子が混じり合って、彼らはより多様な遺伝子を残す。

魚は、脊椎動物の原始的な祖先だ。

骨を内側に仕舞って、鰭や筋肉を作り出し、流線形の身体になって、海から川へと旅立った。

外骨格から内骨格になることで、身体は大きくなる。

内側を守る殻を柔らかな肉体に仕舞って、脊椎動物は長い旅に出る。

生きることが困難な場所へと旅するのは、弱かったからなのか、それとも強かったからなのか。

生物は進化する。

しかし、どの生物よりも優れた能力を獲得した種はいない。

ヒトはサクラマスよりも進歩した生物に思えるが、この滝越えのような肉体的な力強さをヒトは持っていない。

生きているだけで、こんなにキラキラしている。

脳で作り出した物語が思い浮かぶよりも先に、美しさに心を奪われる。

それは水の煌めきとそこに反射する銀色の鱗、そしてなだらかな曲線を描く流線型の身体だ。

https://www.saltscience.or.jp/images/2023/07/1-imai.pdf（生物はどのようにして海から陸へ適応したか）

旅する背骨