みずえは、そのあと、幾度も、このことを思いだして、そのたびに、暖かいものが、胸の奥から、わきあがってくるのを感じました。それは、金モクセイの花の匂いににています。
(あたし、お姉さんに、会ってみたい。それがだめなら、手紙書いてみたい)
ある日、みずえは、そう思ったのです。でも、その手紙は、いったいどこのポストに入れたらよいのでしょうか。
この世界にいる者で、死んだ人の国へ行けるのは、鳥だけなのだと、誰かから聞きました。鳥は、よみの国[#「よみの国」に傍点]へのおつかいをするのだと。
スダア宝石店の白いおうむを見つけたとき、みずえは、胸が痛くなるほど、ドキッとしたのでした。
鳥は鳥でも、ものを言う鳥でしたから。
そのうえ、大きくて、まっ白の。この鳥なら、まちがいなく、神秘の国を知っていると、みずえは思ったのでした。お姉さんへの手紙を、このおうむに届けてもらおうと、みずえは、本気で考えはじめたのです。
手紙の文は、もうちゃんと、考えています。
お父さんやお母さんのこと、ねこのミーのこと、きらいな先生のこと、そして、赤い指輪のこと。このあいだ、みずえは、ルビーにそっくりの赤い指輪を、ふたつ買いました。それで、もし、お姉さんが、指輪が好きだったら、ひとつあげてもよいのだと、書きそえるつもりでした。あっちの国で、おそろいの指輪をしているお姉さんのことを思うと、みずえの心は、もう、金モクセイのかおりで、いっぱいになるのです。
みずえは、白いおうむの前で、大きく口をあけて、きょうも、
「なつこねえさん」と、教えます。このことばを教えはじめて、もう二週間たちます。が、いくら教えても、おうむは、目を白黒させて、とんきょうな声で、
「こんにちはー」と、さけぶだけでした。
すると、ねこのミーが、とがめるように、ミャーとなきます。ミーでさえ、もうちゃんとおぼえてしまったこのことばを、おうむは、どうして、おぼえられないのでしょうか。
「いい? なつこねえさんって言うの。ほら、なつこねえさん」
みずえが、もう一度大きな声をあげたとき、うしろで、誰かが、まねをしました。
「なつこ、ねえさん」
ひくい声でした。
だれ! どきっとして、ふりむいた、みずえのすぐうしろに、色の黒い、インド人の男が、立っていました。びっくりするほど長い足でした。茶色い彫刻のような顔でした。たぶん、この店の人なのでしょう。そして、このおうむの持ち主なのでしょう。みずえは、思わず、ミーを抱きあげて、あとずさりしました。すると、インド人は、
「この鳥はね、えさをくれる人の言うことしかきかないよ」
と、とてもじょうずな日本語で言いました。
「えさ、何をあげてるの?」
おずおずと、みずえがたずねると、インド人は、指輪をたくさんはめた指をおりながら、
「木の実や、草の種やくだものや、はちみつや……」
と、言いました。
「あーら、はちみつも食べるの」
みずえは、少したのしくなりました。
「はちみつなら、うちにもあるわ。こんど、持ってきたげるわ」
「ありがと」
インド人は、ちっとも笑わずに、お礼を言いました。