長谷川宣以(鬼平の本名)個人、池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」両方のファンである私にとっては、楽しみな新作である。十分に楽しめた。作者の池波正太郎、生誕100年企画らしい。新シリーズが時代劇チャンネルでしか見られないのが残念である。


密偵•おまさの誕生秘話である血闘(小説も同じ)は、そう長い話でもないので、どうやって延ばすのだろうと思っていたが映画は、おまさと関係ない、TVの兇賊(鷺原の九平、網切の甚五郎の話、小説では、「凶賊」)を混ぜた構成になっていた。寧ろ、兇賊の方がメインである。兇賊はシリーズの中でも有名だ。


配役もがらりと変わった。鬼平が中村幸四郎。味があってなかなか良かった。かなり研究したあとが伺える。奥方の久栄は仙道敦子、典型的な武家の嫁という感じ。気品の中に、華やかさと茶目っ気のあった、多岐川裕美には敵わないか。京極備前守は、中井貴一、ちょっとユーモラス。おまさは中村ゆり。梶芽衣子の印象が強烈だったが、中村ゆりも、新たな「おまさ」像として受け入れられる。調子の良い遊び人役人、木村忠吾は浅利陽介、ちょっと真面目すぎるか。強面の高橋悦史が演じた、忠義同心•佐嶋は本宮泰風にバトンタッチ。鬼平の腐れ縁のとっつぁん、相模の彦十は火野正平、なるほどという感じ。


兇賊のあらすじを、さっと述べると、若き鬼平がぐれていた頃、ヤクザ相手に喧嘩して土壇場の勘兵衛を撲殺、その息子、網切の甚五郎(北村有起哉)が、鬼平に復讐を企てる。網切の甚五郎は優しい顔の下に凶悪な本性を秘めている。彼らが江戸に出てくる旅の途中、その計画を偶々聞いてしまった者がいる。泥棒、鷺原の九平(柄本明)だ。九平は江戸で芋酒屋を営み、そこへ鬼平が立ち寄る。その帰り、鬼平が刺客に襲われ、鬼平の正体を知らない九平が跡をつけると、なんと鬼平だった。こうして話が始まる。詳しくは書かない方が良いだろう。


原作にない登場人物も多く、俳優陣は豪華である。北村有起哉が、なかなか良かった。よっぽどのファンでない限り見ないかな。時代劇は昔ほど人気なさそうだし。