スピルバーグ監督の幼少から青年までの自叙伝をモチーフにした作品。監督は、自分の生い立ちを表現するのをずっと避けてきた。触れられたくない過去だからだろう。それが、本作ではほぼ忠実に赤裸々なまでに描かれていたので正直驚いた。勇気の要る作業だと思う。オーソドックスながら、真実を歪曲することなく、訴えかけてくる名作だ。初めてスピルバーグ監督自身の生い立ちを知った。

映画制作は両親が他界したことが影響しているのかもしれない。事実、この映画は両親に捧げられている。母が、2017年97歳、父が2020年103歳、お二人とも長寿である。


サム•フェイブルマン(ガブリエル•ラベル)は、スピルバーグ監督自身、幼い時に両親に無理やり連れて行かれた映画「史上最大のショー」(The Greatest Show on Earth)の列車脱線の迫力に魅了されたのが、映画にのめり込む契機になった。タイトルが示す通り、フェイブルマン一家の物語でもある。


映画作りを応援した母ミッツィ(ミッシェル•ウィリアムズ)は、家庭に入るので音楽家の道を諦めたが、奥底に満たされないものを抱えている。友達のベニー(セス•ローゲン)が唯一の癒しだったのかもしれない。監督の母リアのモデルであるとともに、結婚により夢を諦めざるを得なかった女性の象徴として描かれる。ハミルカットのミッシェル•ウィリアムズが、なかなか良い。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたのも納得。ケイト•ブランシェット、ミシェル•ヨーがいるので、受賞は難しいか。


父パート(ポール•ダノ)は技術者で、RCAから、GE、そしてIBMにキャリア•アップしてゆく転勤族。自分の仕事を優先して家族の気持ちはあまり考えない。サムの映画作りも道楽としか捉えない。


ハイスクールでは、ユダヤ人であるがために、暴力的なイジメにあった。本格的に映画の仕事を目指す影響を受けた、変なボリス叔父さん(ジャド•ハーシュ)も登場する。西部劇で名高いフォード監督にもお目通が叶うが、なんとデイビッド•リンチが。印象に残る、味のある演技を見せてくれる。