2003-2006の期間にTV放映されたシリーズが16年余りの時を経て映画になった。医療事故を深く反省して、もう一度「医者」をやり直すために、誰もよりつかない離島の診療所に赴任した優秀な外科医•五島健助(吉岡秀隆)が、自らの命を離島医療に捧げた壮絶な生き様が描かれる。多分この映画が完結編なのだろう。山田貴敏氏の漫画原作は、作者の目の病気のため2010年を最後にストップしたままだが、近々再開するらしい。しかし、島に来る前の話の様だ。


タイトルは、島に赴任後最初の船上オペで虫垂炎の子供、たけひろ(原剛洋、演:富岡涼)を救ったことから、子供達にお礼の印として、「ドクター コトー診療所」という旗をもらったことに由来する。五島(ごとう)をコトーと認識したのだ。


愛称となったコトー先生は穏和で弱々しく、その表情には、なにかしら影があるが、目の前にいる患者全てを救うというポリシーは揺るぎない。それまでは碌な医者は来ず、問診とせいぜい薬を与える程度で、それ以上の治療は船で8時間かけて本土に行かなければならなかった。コトー先生は、ある程度の設備も揃え手術も可能にした。患者の一番良い治療法を追求し、島民に慕われた。看護士の星野彩佳(柴咲コウ)と役所事務、和田一範(堤真一)とともに、緊急時対応も24時間体制。このシステムは100%の自己犠牲の上に成り立っていると、指摘されるのも尤もだ。彩佳は、コトー先生を島に連れてきた役場の星野正一(小林薫)の娘である。コトー先生に密かに恋心を抱く。脳梗塞で体の不自由になった母の昌代(朝加真由美)のために、リハビリ指導員の資格を取得するために島を離れる(2006年版)。ほぼ同時に乳がんを発症し、紆余曲折を経て手術を受け回復した。


コトー先生は、自分の影響を受け医者の道を志す、たけひろを応援した。東京の名門私立の中学に合格し、島の期待の星になった。


こんなところが、TVの内容である。


それから16年余り、コトー先生が島に着任して20年が過ぎた。役者さんも歳をとるはずだ。2003年開始時に、若い俳優さんで固めたのが功を奏し、殆ど同じ俳優をキャスティングできた。産婆の内(うち)役の千石規子さんが他界されたので、替わりに藤田弓子さんが、西野美登里役で登場した。コトー先生、いつの間にか彩佳と結婚してお腹に子供がいる。和田とミナは子沢山で、賑やか。加えて新たに、美登里の孫の看護士、那美(生田絵梨花)、新米医師の織田伴斗(高橋海人)が加わる。一般人になった富岡涼が、有休休暇を取って、たけひろを演じた(富岡くん、ちょっと太った)。医師になる道はそう甘くはなかった。たけひろの友達だった邦ちゃん(山下邦夫)を、前田公輝、スナックまりのママ、西山茉莉子(大塚寧々)の、訳ありの一人息子、竜一は神木隆之介が演じた。久しぶりの同窓会に子連れで参加という感じである。


今回のテーマは、勿論、コトー先生の命を懸けた医師としての壮絶な生き様ではあるが、島全体がが次の世代に移ってゆく様子をイメージしてもいる。また、根底に離島医療の問題を提示している。感じるのは、島民の閉鎖的な意識、典型的なグループシンク(一方に傾く)。責めるときは、全員が責め、身内以外に擁護する人がいない。これでは、外から来る医療スタッフも定着しない。島の人間が外に修行に出て、戻って島のために働く、自給自足しかない。


コトー先生の赴任した志木那島は、与那国島で、竜が島に爪をかけ登ってくるという伝説がある。コトー診療所の前の崖がまさに、その跡で、しばしばコトー先生が座ってなにかしら考え事をしながら、海を眺めている。主題歌「銀の龍の背に乗って」も伝説に依っている。コトー先生は龍神だったのか?


コトー先生は、ある意味、医師としての究極の理想の姿かもしれない。下甑島(鹿児島県)で働く瀬戸上健二郎先生がモデルらしい。実際に偉い人がいるんだな。