10年前に不慮の死を遂げた、ホイットニー•ヒューストンのbiopic(伝記映画)である。ホイットニー役はナオミ•アッキーが演じているが、歌はホイットニー•ヒューストン自身の声である。

類稀な声量、音域の豊かさ、表現力は、今聞いても魂を揺さぶられる。”THE VOICE”という彼女に与えられた呼び名は、ズバリ。彼女の在りし日の歌声を心ゆくまで堪能できる。映画では彼女がどのようにして、上り詰めたのか、裏事情も含めて描かれる。彼女には天性の音楽センスがあり、それを伸ばしてくれる良き先生がいた。歌うというよりは、魂の鼓動と言った方がよいかもしれない。


映画の後半は、彼女の苦悩が描かれ、感情移入すると見ていてつらい。事ある毎に批判され、あんなに夢中だった世間も、少しでもパフォーマンスが落ちると冷たくあしらわれる。世間は残酷だ。

若い頃は、気に食わないことは無視して邁進していたが、状態を最高に保ち続けるのは並大抵ではない。プレッシャーに負けまいと薬物に依存してしまうのもどうしようもなかったのかもしれない。父親の横領まがい、夫婦生活の破綻、私生活は問題が多かったようだ。


映画では、相反する彼女の二面が描かれるが、ラストが全盛期の歌声で締めくくられたのは、せめてもの慰みである。彼女の娘も、ドラッグで身を持ち崩し、22歳で母と同じ運命を辿った。やりきれない。