前回の続き

松本清張「砂の器」1

http://ameblo.jp/beethoven32/entry-12196529156.html

松本清張「砂の器」2

http://ameblo.jp/beethoven32/entry-12197824125.html

松本清張「砂の器」3

http://ameblo.jp/beethoven32/entry-12198480954.html

松本清張「砂の器」4

http://ameblo.jp/beethoven32/entry-12200011125.html  

松本清張「砂の器」5

http://ameblo.jp/beethoven32/entry-12201253226.html



次に紹介するのは、1977年、フジTV「ゴールデンドラマシリーズ」で6回に渡り放送された(10/1-11/5)ものである。

1985年に再放送、松本清張が亡くなった1992年にも追悼番組として放映されたようだ。


とにかく、今西栄太郎を演じる仲代達矢と、和賀英良演じる田村正和が印象に強いドラマである。原作とは、細かいところで随分と異なっている。


今西栄太郎(仲代達矢)は、子供を連れて街を歩いている時に、逃走中の犯人を追いかけるが、目を離した隙に、子供は自動車にはねられてしまう。妻にも逃げられ、かつて敏腕刑事だった今西は悶々とした日々を送っている。妻の妹である、三原雪子(真野響子)は、今西のことが内心好きで、夫がいるのに、食事や洗濯などの世話を焼く。

今西は情けないと内心思っている。


そんな彼の唯一の楽しみはプロ野球。熱烈な巨人ファン。いつもラジオをイヤホンで聴きながら「あーあ」とか「よっしゃ」とか言っている。


蒲田操車場での惨殺事件が発生したのは昭和49年(1974年)で、読売巨人軍がV9(9年連続日本一)の次の年、優勝を中日ドラゴンズに奪われ、ミスター・ジャイアンツと称えられた長嶋茂雄が現役を引退した年に設定されている。


このTVでは、事件の捜査と並行してプロ野球のペナントレースが進んでいき、プロ野球が大きな要素となっている。


原作の今西は、妻子もいて、野球には、まるで関心がないので、設定は随分違う。勿論、義理の妹・雪と今西の間に特別な感情はない。



蒲田での殺人事件の帳場が蒲田署に立った。捜査一課長(鈴木穂積)の指揮の下、今西は、この所轄署の吉村弘(山本亘)と捜査を進めることになる。


吉村には恋人・花江(水沢アキ)がいて、小料理屋で働いている。これも原作にない。


被害者がその前に連れと2人で飲んでいて、その時に、被害者は酷い東北弁で会話の中に「カメダ」が聞こえたという情報を得る。

「カメダはどうですか?」


早速東北管区に「亀田」姓で東京に出てきている男を問い合わせるのだが、捗々しくない。東北に「羽後亀田」という駅があることに気づき、今西と吉村が主張するが、大きな成果は得られなかった。地元の警察署で挙動不審な男がいたという情報に振りまわされた後、ふらっと入った居酒屋で今西、吉村は異色な男女を見るのだった。


実は、この二人、事件の重要な鍵を握る、宮田邦郎(小川真司)と成瀬リエ(神崎愛)だった。今西は知る由もない。


成瀬リエは、8年も付き合ったのに想い人と添い遂げられず、失意の自殺未遂、その後疾走。


被害者の身許がわからぬまま、捜査も併行線だったが、自分は養子だという、三木彰吉(佐々木剛)が名乗り出て、被害者は三木謙一だと判明する。お伊勢参りから帰るはずだったのに3ヶ月たっても連絡がないから警察に届けたのだ。そして、三木は岡山県江見の人で、東北とはまるで関わりがないことがわかる。「カメダ」も心当たりがない。


諦めきれない今西は、東北以外で、東北弁を使う地域がないか、国語研技官(松村彦次郎)に聞きに行くと、東北弁に似た発音をする地域が、出雲の一地方にあると言う。そして、三木謙一(本郷淳)は亀嵩(かめだけ)で巡査をしていたことが分かった。


ようやく、東北訛、「カメダ」が繋がった。


今西は亀嵩の巡査時代に恨みを買って、三木は殺されたと思い、その原因を探りに揚々と出雲に向かった。


ところが、三木の善行を聞くばかり。怨恨の「え」の字もでてこない。三木をよく知る桐原小十郎(信欣三)も、同じだった。


悄然と東京に帰った今西だが、まだ、解決してない問題があった。

・なぜ、三木はお伊勢参りから岡山に帰らず、急に東京に行ったのか?

・犯人は返り血を浴びたシャツのまま、どう行動したのか?


一方、新進気鋭の和賀英良(田村正和)は大物政治家・田所重喜(小沢栄太郎)の令嬢・佐知子(小川知子)と婚約し、飛ぶ鳥を落とす勢い。

歯に絹着せぬ辛辣な批評で頭角を現してきた、関川重雄(中尾彬)と共に世の注目を浴びていた。


佐知子は、英良には極秘の女がいることを掴み、英良に釘をさしている。


関川は、極度にスキャンダルを恐れ、三浦恵美子(奈美悦子)をアパートに囲って極秘デートを重ねる。密会を誰かに見られただけで、恵美子に引越しさせる用心深さ。逆に、恵美子は「陰の女で」いることに不安と嫌気がさしていた。


ついに恵美子が「妊娠4ヶ月で今度こそは産みたい」と関川に詰め寄るが、関川は断固として拒否。どうしても聞かないので、結局は殺害することに。関川が匿名で上杉医師(武内亨)に電話して、医師が到着した時には手遅れだった。



これより前後して、成瀬と同じ劇団の宮田邦郎が何かを知っていると見て、今西は詰問する。宮田は「わかった。全て話す」と約束の日時を決めたが、その前に崖から転落死してしまう。今西は「消された」と考えた。



成瀬リエ関連は原作と大きく異なる。


失恋自殺未遂で疾走。寂しくなって和賀に会いたいと電話をかけるが「もう少し待って」としか、言ってくれない。


病気の母・成瀬しず江(月丘千秋)を京都の病人に入院させたことこから居所が知れる。今西はしず江から、事件当時のことを聞く。

「夜の12時前にリエに電話がかかってきて、『友達に渡すものがあるから』というので、ついでに一緒にドライブしましょうと言うので、一緒に行きました。2-3分ほどで用を済ませて家に帰りました。その後、信州旅行に二人で言った時に、リエは沿線から何かを切って紙吹雪を撒いていました。振られた恋人の手紙でも千切って捨てていたのでしょう」


今西は、返り血を浴びたシャツを切り刻んで電車から撒いたのでは?と思い、吉村と二人で炎天下、線路沿いを捜し、ようやく見つける。三木と同じO型の血痕のついた布きれであることがわかった。


結局、成瀬リエは京都署に自主して、何もかも話す。



さて捜査は・・・・


今西は、亀嵩に「三木が巡査をしていた当時の人で現在消息のわからない人は誰か?」と問い合わせると、返事が来た。


「本浦秀夫」。


彼の父親の本浦千代吉(坂本長利)は支那事変から帰ってくると精神を病んで廃人同様になった。妻のマサは秀夫を抱いて崖から飛び降り心中を図るも、秀夫だけ木に引っ掛かり助かり、マサは死んだ。このとき、秀夫の額に傷ができた。千代吉と秀夫は遍路に出て、亀嵩で三木巡査に保護され、千代吉は施設に隔離され、その後死んだ。


千代吉の故郷の石川県に今西が出向き、聞いてきた話だが、原作とはやや違う。


今西は伊勢に向い、三木の足跡を辿る。

なぜ急に東京に行くことになったか?

伊勢旅館の仲居(田坂都)から、映画館に行ってから、次の日も同じ映画を見に行って、それから「思いついたことがあるから」と東京に向かったことを知る。


今西は映画配給会社に無理を言って、やっとのことで上映した2本の映画を見たが何もかわったことがなかった。ハズレだ。


ところが、映画館では映画が始まる前にニュースをやることがわかり、今西はそのニュースをなんとしても見なければと思うのだった。


試写会でニュースが始まる。注意深く見つめる今西と吉村。そこには東京ドームに野球を観戦しに来ていた、和賀英良とフィアンセの佐知子が大きく映し出され、その紹介がされていた。和賀の額には傷がある。


今西は叫んだ「これだ!!三木を東京に向かわせたのは。三木は2日にわたり4回、映画の前にやるニュースを見て、和賀=秀夫であることを確信したのだ」

この辺も、原作にない、プロ野球を絡ませた演出だ。


本浦秀夫は和賀英良。

しかし戸籍が違う。今西は和賀の本籍、大阪に向かう。よくよく聞いてみると空襲で戸籍原簿も何も皆燃えてしまって、戦後は特例として、本人の申し立てによる戸籍再製ができたことを知る。


しかも和賀夫婦をよく知る者に聞くと、「和賀家は楽器修理屋で子供はいない。よく丁稚みたいに出入りしていた少年がいた。」 これは原作にはない。



今西は捜査会議で和賀の逮捕状を要求する。


「和賀=本浦秀夫は、自分の過去を知る三木元巡査と会った。三木は懐かしさから和賀を訪ねてきたのだが、和賀にとっては過去を暴かれる恐怖でしかなかった。三木を殺し、蒲田操者場で身許がわからないように石で顔を殴打した。警察が東北の「カメダ」に注目すると知るや、愛人の成瀬に、宮田を秋田県の羽後亀田で目立つ挙動不審な行動をさせるように指示。宮田が和賀にこの真意を聞きに行ったため、崖から突き落とされた。」


そして、和賀英良と田所佐知子のビアノデュオ演奏会の当日、逮捕状を持って、今西と吉村は会場に向かう。「これからは若い人の時代だ、君が逮捕状を見せて和賀の腕をしっかり掴みなさい」と今西は吉村に言った。


和賀は逮捕された。

ジャイアンツは優勝ならなかった。


エンディングは、長嶋茂雄の最後の後楽園での試合、ホームランを打って、祝福を受け、有名なスピーチ「我が巨人軍は永久に不滅です」のシーン。

三原雪子は今西を離れた。

今西 「おわった、おわった、全部おわった」


(続く)