3月は、意外にわかりにくい題材で始めようと思う。
極力やさしく解説するので、これで理解が深まればいいんだが・・・
「ホール効果」は実はお馴染みの現象。これを利用した素子がいたるところに使われている。簡単に言うと、磁気を測定する素子。
ちなみに、ホールはこれを発見した人の名前。Hall
上の図は、「ホール効果」を示したものだ。
長方形のものが素子で、「正孔」というのは電子と同じ電荷でプラス(+)のもの。電界Eを掛けると、電界の方向に力を受けて、vの速度で動く。
vは、Eの大きさに比例し、その係数を μ(易動度または移動度)と呼ぶ。
電界をかけたときに、どのぐらい動きやすいかという意味の係数である。
このμは、物質によりほぼ決まった値を取るので研究に役立つ。
たとえば、μ=100(cm2/V・s)と言ったら、
この物質の1cm厚さの平板の上下に1(V)の電圧を掛けると、正孔が、
100(cm/s)の速さで動くことを表している。
この素子に磁界をかける。向きは、紙面の裏側から表側に向けて。B(単位は磁束密度)は、磁力線がどれだけ密かを表す。
Bがかかると、水平方向に動いていた正孔は、図の向きに力を受ける(難しい言葉では「ローレンツ力」と言う)。
その大きさは evB (eは正孔の電荷)
その結果、正孔は下図のように、下側に正の電荷が蓄積してゆく。
蓄積した電荷が、evBの力とは逆の方向の力を及ぼすので、しだいに、正孔はまっすぐ進むようになる。
十分時間が経つと、
evBと、蓄積電荷が作る電界Eyから受ける力が完全に釣り合い、
正孔は真っ直ぐ進み続ける。(下図)
要するに、磁場をかけると、垂直方向にEyの電界が発生し、
上下両端に発生した電圧を測れば、それが磁束密度Bの大きさに比例する
次に、電子の場合を考えると、電界により正孔と逆向きに動く。磁場から受ける力は、正孔と同じ下向きになり、今度は下向きにマイナス(ー)電荷が蓄積する。したがって、Eyの向きは正孔と逆になる。
電子が動く場合は、上下方向に発生する電圧は正孔と逆向きになる。
電気伝導に寄与しているのが、電子か、正孔かで電圧の向きが逆になるわけで、電圧の±の判定から、電子、正孔のいずれかが伝導に寄与しているかがわかるのである。
半導体の世界では、電子が寄与するのは「N型半導体」(ネガティブのN)、
正孔が寄与するのは「P型半導体」(ポジティブのP)と呼ぶ。
すなわち、ホール効果は、P,N型の判定ができる、非常に便利な方法なのだ。
ちなみに、
ホール係数を
RH≡Ey/(JxBz)
で定義する。Jxは電界E方向の単位面積あたりの電流密度、Bzは垂直方向の磁束密度だから今はB
E方向の電流、加えた磁束密度に対し、どれだけのEyが発生するかということで、どれだけ効率よく垂直方向のEy、または電圧を発生できるかという指標だ。
電界Eyや単位面積に流れる電流密度Jxを用いるのは、素子の大きさに依存しないようにするためだ。
Jxは電界Eに比例し、その比例係数をσ(伝導度または電導度)で表す。μと同じように、物質に特有な値を示す。
正孔の場合は,正孔の密度をp、正孔の速度をvとすると、
Jx=epv=ep(μp・E)=(e・p・μp)E
σ=e・p・μpとなる
(正孔の易動度をμpとする。)
eEy=evBだから、Ey=vB
すなわち、RH=Ey/(Jx・B)=vB/epvB=1/ep
電子の場合も、(電子の易動度μnとすると)
σ=e・n・μn
RH=(-1/en) (Eyの符号が逆のためマイナスがつく)
一般には、電子、正孔のどちらかが優勢で、それも圧倒的に優勢なため、電子、正孔両方が存在する場合はあまり考えなくても良いが、純度が高くなってくると、電子と正孔の密度が近づいてくる。
その場合は、両方考慮に入れないといけなくなる。
この場合を図に書くと、下図のようになる。記号は前と同じ、違うのは、
正孔の速度はv1、電子の速度はv2としたところだ。
電子、または正孔のみのときは両方とも直進するまで電荷が蓄積されたが、
両方存在するときは、電子と正孔が打ち消すように働き、必ずしも電界Eの方向には進まない。
Eyを求めてみる。
まず、y方向の電流を正孔、電子毎に求める。
図ではイメージがわきやすいように、電界の向きが書いてあるが、計算するときは、上向きがy軸+方向。
正孔:Jyp=σp(Eyーv1B)
( σpは正孔の伝導度、Ey-v1Bは、y(上向き+)方向電界)
電子:Jyn=-σn(-Ey-v2B)
(σnは電子の伝導度、ーEyーv1Bはy方向電界)
合計電流はJyp+Jyn で、これが0
σp(Eyーv1B)+σn(Ey+v2B)=0
Ey=(σp・v1ーσn・v2)B/(σp+σn)
=(σpμpーσnμn)EB/(σp+σn)
(v1=μp・E、v2=μn・E)
Jx=(σp+σn)E
これより、正孔、電子両方存在するときは、
伝導度σ=σp+σn
ホール係数
RH=Ey/(Jx・B)=(σpμpーσnμp)/[(σp+σn)^2]
(σp=e・p・μp、σn=e・n・μn)
殆どの場合は電子の易動度の方が大きいので、RHは負のケースが多い。
(続く)