時空が歪む駅前洋食。下丸子『喜楽亭』(洋食/東急多摩川線下丸子) | ご近所の魔境《ここは店主さんの王国》

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料理のサンプルが並ぶ飲食店のウィンドウ。そこはサンプル以外に人形ガラクタ、店主さんの自慢のコレクション。時には理解しがたいものが飾られている。あなたの近所にもあるかもしれない、店主さんの王国をご紹介しよう。

 
       駅の隣だ(隣の水色の屋根が下丸子駅)。
       下丸子の商店街を駅方向に進んでいくと正面に、
       異様な存在感を放つ建物が見えてきた。

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       『喜楽亭』と店名が黒地に白く染めぬかれた暖簾がかかる。
       店頭のショーケースをのぞくとオムライスやポークソテー、
       カツ定食などが並ぶ。ラーメンなどの麺類も並ぶが基本は洋食店だ。

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      建物の見た感じはかなりの年代物。ショーケースの正面は
      分厚い一枚ガラス、入り口寄りのガラスは優雅にアールを描く
      曲面ガラス。お店の建物ができた当時は職人技による
      かなりの高価ものではなかったかと推測する。

イメージ 3ショーケースに映り込む駅前通りを
挟んで向かい側のマクドナルド。
ここは駅の改札口から歩いて10秒ほど。
言うまでもなく駅前の超々一等地だ。


その一等地であるのだが、
このお店『喜楽亭』の前だけ
時空が微妙に歪んでいる。
どこかの古い時代に連れていかれそうな
独特のオーラを放っているのだ。



     ここを毎日通る地元の人は、もう日常風景でその蠱惑パワーに
     気づかないかもしれない。
     外部からの訪問者だけが感じるその力の源を紹介していこう。
     建物全体が放つ力と、店頭ショーケースから湧き立つ霧のように放たれる
     妖怪化したサンプルのパワーだ。まずはオムライスから。

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     洋食メニューの代表ともいえるオムライス。白いお皿の上を薄っすらと
     グレーに染める細かなチリ。ケチャップの赤い色がいい感じを出している。

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     ポークソテー、ライス付きで1400円。ビーフステーキではない、ポークだ。
     関東で肉といえば牛ではなく、絶対に豚なのだ。

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     かなり変色しお皿にチリがつもっているがナポリタン、700円。
     昔はスパゲテイーといえばナポリタンとミート
ソースしかなかった。
     パスタなどという呼び方は、ないのである。

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     ロースとんかつ定食、1100円。ご飯は麦飯ではない。
     白いご飯がチリでグレーに変色しているのだ。

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     お品書きがなければ何の料理かよく分からない。
     化石化しかけている焼肉定食、850円。

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     洋食屋といえども、お客の要望にはできるだけ答えねばならぬ。
     ラーメン550円、五目そば850円。ショーケースの中には
     チャーハンのサンプルもあった。洋食の技術がラーメンのスープに
     いかされたのだろうか。

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      サンプルだけでなく建物自体もいい感じで妖怪化している『喜楽亭』。
      創業は1923年というから、あと7年で100年食堂だ。
      もともとのお店の位置は、現在の下丸子駅のホームの位置にあったと聞く。
      駅の開業で場所をゆずり今の場所に店をかまえた。現在は高齢のご主人一人で
      お店を営んでいるが、往時は近くに三菱の工場などがあり昼夜ともに
      賑わっていたのだろう。

      駅前に秘境あり!このお店の前だけ時間がフリーズしている。
      その入り口の暖簾をくぐるには怖いもの見たさの多少の勇気が必要だろう。
      なに、中に入ってさえしまえば
      ワープはわりと簡単。イメージ 12入り口わきの       貼り紙にあるとおり、弁当にして
      持ち帰りもできるのだ。

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            ショーケースの最上段になんの説明もなく、お銚子とウィスキーと
      ビールの瓶が飾られるでもなく謎のように置かれていた。
      お店を外から見て二階は座敷のようだ。
      昔は宴会もあったという、記憶のようなものなのかもしれない。
      あと7年で100年。うーん、本物のゴーストになる、ならない。
      今はいつまでも続かないけど、ご主人がんばれとだけいっておこう。