サンプルには味がある。中延『キッチンなかよし』(洋食) | ご近所の魔境《ここは店主さんの王国》

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料理のサンプルが並ぶ飲食店のウィンドウ。そこはサンプル以外に人形ガラクタ、店主さんの自慢のコレクション。時には理解しがたいものが飾られている。あなたの近所にもあるかもしれない、店主さんの王国をご紹介しよう。

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歴史のある商店街には必ず一軒はある、普段使いの洋食屋さん。
東急大井町線の中延駅から歩いて3分ほどの場所にある『キッチンなかよし』も、
いつでも気軽に利用できる、そういうお店の一軒だ。
店頭のショーケースをのぞくと、日本の洋食を代表するカキフライや海老フライ。
そしてハンバーグ、ポークソテーなどのお肉系。
飾られているサンプルの中で、ひときわ目を引くのはハンバーグだ。

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貫禄がある。長年ショーケースの中に鎮座して、横に並べられたカキフライや
エビフライにはない、時間がかたちづくった風格のようなものを感じる。
ハンバーグに添えられ経年の変化をともにした目玉焼きは、風格をこえて
半ば妖怪のような、独特の存在感をもっている。

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この風格といおうか、妖怪っぽさの度合いはすなわち、そのサンプルの味。
お店の時間の蓄積によってつくらた、独特の味なのである。
昨日今日、開店したお店がいくらがんばろうとこのサンプルの味は
絶対にだすことが出来ない。
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『キッチンなかよし』は開業が1960年。昭和35年だ。
前の東京オリンピックが開かれたのが1964年なのだから、日本が戦後の復興期から立ち直って、経済的に発展し始めた時期の創業だ。
このハンバーグが開店当初から飾られていたかどうかは不明だが、横に飾られているカキフライやエビフライと較べて、より古いことは見た目のとおり確かだろう。


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ショーケースの片すみに色あせた写真が飾られていた。テレビ東京の『もやもやサマーズ』という番組での取材らしい。変色の程度から、かなり時間は前。写真も色あせた分だけ、幽境の世界に近づき妖怪化しているかもしれない。


その写真に隠されて多少存在感を失ってはいるが、ショーケースで御決まりの付属アイテムたる招き猫ほか、ダルマなどが鎮座している。でも、その上の段で
ハンバーグがハン
               バーグと書かれているのが
                        とても気になる。これも妖怪のなせる業                         と解釈しておこう。

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小さな招き猫の前側、写真の横に正体不明のサンプルあり。
ラップに包まれた怪しき物体は、ポークソテーと品書きされている。
何がナンだかよく分からないから、異次元世界。これには触れないこととする。

話をかえて、招き猫がショーケースの中にもう一匹。
左の写真でカキフライの下。赤い座布団に座って可愛らしい。
コレダ↓。
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ショーケースに飾られてはいないが、お店の名物メニューは
ハヤシライスだそうだ。生クリームのかわりに、添えられてコーヒーフレッシュの
を自分でかけるののが、ここの流儀だとか。

イメージ 9お店のドアの真上に、テレビが置かれているので、テレビを見る客はドア方向の上を眺める。それを知らずに入ってきた客は、みなの視線をわが身に受けて一瞬たじろぐのだそうだ。

時間の蓄積を重ねてきた多くのお店が「都合により……」と閉店する。後継者がいないお店のラストシーンは、この一枚の貼紙でおわる。最後はお母さん一人で調理接客していた『キッチンなかよし』もこの例にもれず、店を閉じた。

洋食の象徴たるフライパンにお店の名前をあしらった『キッチンなかよし』の食器である。
お店の名前に"なかよし”なんて、今の時代では考えられない。不思議な名前だ。
お客さんも、お店も、みんな"なかよし”という願いなのだろうか。
多分、仲良しとかフレンドという言葉がとても輝いていた時代が、開業の
1960年。昭和35年という年だったのだろう。そういう時代があったのだと、思う今年は2016年なのである。

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