Pray for "N" -5ページ目

デジタルモンスターネクサス Episode 1 -デジタルモンスターが欲しい!-



制作



RICHT










協力



チン老師









Pray for "N" 計画 第一弾






Pray for "N"






OP



 この作品は非営利のフィクションであり、実在の団体、組織、人物とは関係ありません。また、なんらかの理由で要請された場合は速やかに削除いたします。














なにをしてもうまくいかない小学二年生、「柏木タツト」には今、すごく欲しい物がある。

その名は「デジタルモンスター」

手の平におさまるくらい小型な機械の液晶に、ドットで描かれたモンスター、「デジモン」を育成するゲームだ。育成したモンスター
は、他の「デジタルモンスター」の「デジモン」と戦わせることができる。

タツトは勉強はそれなりだが、スポーツにおいては全くのセンスがなく、かといって大抵のインドア派の子供達のようにテレビゲームや
カードゲームに秀でているわけではない。だいたいのことは上手くいかず、断念してしまうのだ。なのでこれといった趣味はテ
レビに映るヒーローを眺めることくらいで、人見知りな性格も相まって、友達は少なかった。

そんなタツトだが、この「デジタルモンスター」という小型液晶ゲームには並々ならぬ魅力を感じている。すでに運命的ななにかすら感
じているのかもしれない。

その「デジタルモンスター」はおよそ2000円。しかし、タツトの貯金はすでに底をついていて、月に貰えるお小遣は1500円。

「デジタルモンスター」は人気商品のため品薄で、再来月まで待つことはそれすなわち入手不可を意味する。

そこでタツトはお小遣を渡してくれる母に交渉することにした。

「ママ…来月のお小遣を2000にしてくれない?その次の月のお小遣は減らしていいから!」

「なにか欲しいものでもあるの~?」

「うん…『デジタルモンスター』っていうゲームが欲しいんだ…」

「いいよ、条件つきでね。」

「!!」

「次の漢字テスト、合格点まで採れたら、そのゲームはママが買ってあげる。」

タツトにとって、この条件は嬉しいとも辛いともとれる、いや、どちらかと言えば辛い条件だった。

タツトの小学校ではテストの合格点というものが毎回、担任によって設定されるのだが、その合格点は勉強意欲を煽るためか、高く設定
される。次の漢字テストは100点満点で小学校一年、二年生で習う漢字の中から出題される。漢字テストでもいつもケアレス
ミスが多く、合格点を逃すことも少なくないタツトにとって、いつもより範囲が広い漢字テストで合格点を採るのは相当な困難で
る。

 しかし、ここでこの条件を否定すれば、母が機嫌を損ねてデジタルモンスターは絶対に手に入らないものになってしまうかもしれない。

「わかった…次の漢字テストで合格点を採るよ!」

「うん、期待しているからね。」

タツトは自分の部屋に戻ると、早速漢字の勉強を始めた。一年生で習う漢字の一部をど忘れしていたりもするが、なんとなくいける気もした。








次の日、1時間目の授業、国語で漢字テストの合格点が発表された。

「95点………!?」

この小学校における合格点は担任が感覚で、口頭で設定するもので、実質的な意味はあまりない。しかし、今回の漢字テストにおいて、
ツトにとっての合格点はいつもと意味が違った。

「95点はちょっと高いかもしれないが、小学校低学年で習う漢字はいずれ、漢字を覚える上での基礎となり、すべて正確に
書けるのが当たり前になる。そういうことも踏まえて、この合格点を設定した。一問2点で50問、100点満点だ。」

担任はそういって授業を開始した。

タツトは授業に全く集中できなかった。普段は高くても90点の合格点が、まさかの95点と知り、困惑していたのだ。

「デジタルモンスター」を手に入れるためには95点が必要…50問中48問正解しなければならない。3つ間違えた時点で、アウト
だ。

ケアレスミスしがちなタツトにとっては、かなり厳しい条件となった。

タツトの気持ちは沈んだ。帰り道、タツトが落ち込んだ様子でいると、戸張ミチルが話し掛けてきた。彼はタツトと幼稚園からの友達
で、タツトの数少ない友達の一人である。幼稚園に入る以前からサッカーを続け、スポーツ万能、成績優秀、明朗快活で正義感
が強い性格もあってかクラスでは人気者である。気弱でからかわれることも多いタツトをいつも庇っている。

「元気ないな~?今日一日ずっと落ち込んでるよな?」

「落ち込んでなんか…いないよ…。」

「漢字テストの合格点だろ?あれ聞いてからずっとそんなんだよな?」

「……………うん。」

「合格点なんか気にすることないって!先生が勝手に決めてみんなのやる気を出そうとしてるだけだし、あれとれなかったら『がんばり
ましょう』になるわけでもないし。

「…………………うん。」

「ああもうなんだよぉ!こっちだって沈んで来るぜ!なんか他にわけがあるわけ?」

「僕今…すごく欲しいものがあるんだ………」

「え?なになに!なにが欲しいの!?」

「『デジタルモンスター』。」

「あああれか!たしかに、流行ってるよな~。俺は全然知らないけど、先輩は授業中にいじってたりするらしいぜ。先生の注
意もそっちのけで。」

「………そんなに楽しいんだ…………『デジタルモンスター』。」

「でもさ、授業中にやっちゃダメだと思わない?しかもちょっとほっとくとすぐ死んじゃうらしいぜ!」

「『デジタルモンスター』って生きてるの!?

「ゲームの中のモンスターの話だよ。あれモンスター、『デジモン』を育てるゲームでしょ?っていうかそんなことも知らずに欲しがっ
てんの!?」

「うん………でも話を聞いてますます欲しくなったよ………『デジタルモンスター』。僕も…早く会いたいな、デジモンに…………」

「……で、デジタルモンスターとタツトが落ち込んでるのにどういう関係があんの?」

「今度の漢字テストで、合格点をとったら『デジタルモンスター』を買ってくれるってママと約束したんだ………」

「なんだよ!ゲームが買ってもらえないかもしれないってことで落ち込んのか!?」

「僕、なんか『デジタルモンスター』は本当に欲しいんだ…………

「…………だったら落ち込んでる場合じゃないだろ!」

「!?」

「漢字の勉強をしろよ!全部覚えればいい話なんだからさ!デジタルモンスター欲しいんだろ!?なにかがしたかったり欲しかったりす
るときは、全力で努力すれば大抵どうにかなるんだよ!」

「………………努力………………………うん!そうだね!ミチル君がそういうならきっとそうだ。勉強して合格点とるぞ!」

「おう!じゃ、明日な!頑張れよ!」

「うん、ありがとう!じゃあね!」

二人は別れ道で別々になった。タツトが歩いてると、後ろからミチルが追い掛けてきた。

「なにか落ち込んだり、悩み事があったりしたら、すぐ俺に相談しろよ!」

「…うん!!」

「じゃ、今度こそ、じゃあな!」

「ばいばい!」

ミチルは走り去っていった。タツトも急いで帰って漢字の勉強をしようと思ったが、走るのは疲れるのでやめた。

それからタツトは漢字の勉強を全力でし続けた。大好きなヒーロー番組を見るときも漢字の教科書を手から離さず、コマーシャルの間に
は漢字の勉強をしていた。

その甲斐あってか、教科書の演習問題はほとんど正解し、心なしか字も綺麗になった気がした。しかしやはりタツトにのしかかる試練が
あった。ケアレスミスだ。

 1ページに1回はケアレスミスをしてしまう。これでは50問のテストでは確実にケアレスミスをする。

 本番のテストでは少しのミスが命取りになる。

ただ、タツトは思った。ケアレスミスは本番に気をつけること。今の自分にできるのは漢字を確実に覚えることだけだ、と。

タツトはそれからもやはり漢字の勉強をし続けた。算数の宿題も、漢字の勉強をするために急いで終わらせた。







 そして迎えたテスト本番。

タツトは、たぎっていた。合格点をとるために漢字の勉強をし続けた。

 テストは、簡単だった。すらすらと解き終わったタツトは見直しをしていた。

 するとやはり、ケアレスミスをしているところを発見した。「犬」の点を忘れて「大」で終わっていたのだ。見直しもすぐに終わり、満足
感と共にテスト終了を迎えた。

「タツト、どうだった?」

ミチルが聞いてくる。おそらくは、満足げなタツトの表情を窺ってからの質問だろう。

「できた!多分、満点だ!」

「やったな!これでデジモンが手に入るじゃん!」

「うん!勉強し続けた甲斐があったよ!」

タツトの言葉に、女子の間宮レナが反応した。彼女はタツトとは小学校からの友達だ。すでに小学校で習う勉強を体育など以外全て修了
しており、休み時間もいつも勉強している。静かで、自分から人に話し掛けることは滅多にない。容姿や、普通の女子とは違っ
た雰囲気から、男子からの人気は密かに高いが、女子からは話し掛けづらい存在として少々煙たがられる傾向にあった。友達は
少ないというか皆無に等しかった。ただ、そんな彼女だが、タツトには去年から度々話し掛けてくる。

「柏木君、そんなに勉強したの?」

「うん!合格点をとったらデジタルモンスターを買ってもらうって約束してたからね!」

「デジタルモンスター?」

 勉強以外の事には興味がないであろうレナがデジタルモンスターを知っているわけがなかった。ミチルが答える。

「デジモンを育てるゲームだよ!男子の中ではすげぇ流行ってるよ。」

「…。よかったね。」

「うん。でも間宮さんはいつもテストが満点だよね?テストで満点をとるって大変だってすごくわかったよ。間宮さんはすごいよ。」

「すごくない…。全て覚えればいいだけ。それ以上でも、それ以下でもないの。」

「それがすごいんじゃん!!」

 ミチルが割って入ってくる。レナはそこから立ち去ろうとした。

「結果はまだわからないからね……。柏木君、いつもケアレスするでしょ?」

「うん、見直したつもりだけど、そこは心配だな……………。」

「頑張ったからいいじゃんか、タツト!なあ間宮もそう思うだろ?」

 再びタツトが割って入る。

「…………………………結果がすべて。」

 そう言い残してレナは行ってしまった。

「………。あんなんだからクラスの女子からも煙たがられるんだな~」

 「え?間宮さんって嫌われてるの!?」

 「いやあ嫌われてるって訳でもないけどさ、なんかやけにいう事いう事お硬いじゃん?やりにくいっつーかさー。もっと気楽に行こうぜって感じ。だからちょっと距離置かれてんだよ。ま、そんなとこも含めて惚れてしまうやつらもいるみたいだけど!」

 「僕は間宮さん、嫌いじゃないけどな・・・。こんな僕にも話しかけてくれるし・・・。」

 誰かが誰かを嫌う、そういう話は自分の知らないところだと平然と行われるのだろうか、そういう不安がタツトの中でよぎる。

 「また出たよ『こんな僕』!それやめようぜっつってんじゃん!!ってかなに、お前も間宮に惚れてんの!?」

「そ、そんなんじゃないよ!!僕はただ、間宮さんが煙たがられるのが納得いかないだけで!」

 タツトは赤面した。しかしこれはミチルの口から自分とは無縁そうな言葉が飛び出してきた事への焦りと照れ隠しからであり、自分のそういう感情は感じた事が無かったし、考えた事も無かった。

 「顔が真っ赤だぞ~~~。ま、いいけどさ。タツト、今日掃除当番だろ?俺、サッカーで早く帰んなきゃならないから先帰るな!」

 ミチルはほとんど毎日サッカーの練習がある。そのためミチルは一足早く帰る訳だが、タツトはいつでもそれに合わせて一緒に下校している。

 「うん、じゃあね・・・」

 「じゃ!!」

 ミチルが颯爽と教室から飛び出して帰る。多くの女子の目がそれを追う。

 ミチルも掃除当番を済まして足早に帰った。意識してみるとレナはいつも一人で下校している事に気付く。

 母親と一緒に見たドラマの中の様に、誰かが誰かを好きとか、誰かが誰かを嫌いとか、そういう話は自分の知らないところで行われ始めているのだろうかと思うと、なんとも言えない違和感というか、なにかに取り残されたような感覚がタツトの中にはあった。

 漢字テストという重荷が肩からおりたのに、また新しい不安要素がタツトを襲う。

 しかしそういうところとは、自分は無縁でも良い気がした。少し怖いのだ。

 そんな事を考えていても、いつの間にかタツトの頭の中は漢字テストの勉強でちゃんと見ていなかったヒーロー番組を見直す事でいっぱいになっていた。家の中に入り、手を洗い、うがいし、DVDレコーダーのリモコンを持つと、リビングのテーブルに見慣れない包装された直方体の何かが置かれていることに気がついた。

 「それ、頑張ったタツトへのママからのプレゼント。」

 「え・・・?」

 タツトはおそるおそる包装をあけていく。






 その中にあったのは、まぎれも無く、「デジタルモンスター」っだった。







 「これ・・・」

 「 ママね、最初はタツトを物で釣って悪い事をしたかなと思ったの。でも頑張るタツトを見て、すごく嬉しかった。頑張る事はね、誰かの心に響くんだよ!今回の漢字テストへのタツトの頑張りは、ママの心に響いたの!だから、凄くほしがってたゲームを買ってあげよって思ったの!結果はどうであれ、タツトが心から頑張ったのも一つの結果だし。」

 「ありがとう、ママ!ありがとう!!」

 タツトは嬉しかった。ずっと頑張って追いかけていた物が手に入ったのだ。早速自室に駆け込み、開封する。

 他の玩具で絶縁体を抜けば起動する事を知っていたタツトは、躊躇なく絶縁体を引っこ抜いた。

 ピロリロ という風な音とともに画面に移されるドットで描かれた卵の様な物体。グニュグニュと波打つそれは、タツトの鼓動のそれと一致していた。

 画面を食い入るようにみていたタツト。これから自分はどんなデジタルモンスター、デジモンと出会い、育成していくのだろう、そんな期待で胸がいっぱいだった。

 説明書の存在に気付き、少し読もうとしたが、色々と難しそうな事が書かれていたのであとで読もうと思った。

 そして再び画面を見つめた時、ピロリロという様な音とともにドットの卵を突き抜けて何かが出てきた。







 これが、タツトとデジモンとの、最初の出会いだった。