平山夢明 著、『独白するユニバーサル横メルカトル』を読みました。
光文社文庫です。







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今回の本のお供も、ダイソーさんで100円で買ったヌイグルミです。
イルカさん。

このイルカさんも、前回、前々回に載せたクジラとペンギンのヌイグルミ同様、今では私のオモチャではなく、我が家の猫族のオモチャです。

何がそんなに気に入ったのかはわかりませんが、猫5号6号が、しょっ中ヌイグルミを咥えては走り回ってます。
…なんか、猫っていうより、犬みたいな遊び方、してますよ。







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平山夢明は、一部、グロ小説が好きな方達(私含む)に大人気の作家です。
彼の書く人体破壊なんかのグロテスクなシーンは、思わず本を閉じてしまいたくなるくらい、痛々しくてエゲツないものであります…褒め言葉です。

平山夢明というと、どうしてもその見事なグロ表現が目立ってしまいますが、実はストリーテラーとしても凄い力を持っています。
とても面白いお話、たくさん書いていますよ…グロテスクですけど。



本書は短編集なのですが、平山夢明のストーリーテラーとしての力量、しっかり発揮されているものになっています。
後味の悪い作品ばかりなのと、まあ何度も言いますがグロテスクな話ばかりなので、受け付けない人には無理かな?と思いますが。

そういうのが許容範囲である方には、ぜひ、読んでもらいたいです。
だって、とっても面白いんですもの。






本書、短編集です。
表題作である『独白するユニバーサル横メルカトル』は日本推理作家協会賞を受賞しています。



収録作品は、

C10H14N2(ニコチン)と少年ーーー乞食と老婆
Ωの聖餐
無垢の祈り
オペラントの肖像
卵男(エッグマン)
すまじき熱帯
独白するユニバーサル横メルカトル
怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男

以上です。




◯C10H14N2(ニコチン)と少年ーーー乞食と老婆

この短編集、どの作品も後味が悪いものばかりなのですが。
私には、この一編が一番嫌な読後感でした。

主人公のたろう少年はなかなかいいところのお坊ちゃんです。
彼の住む街には、優しさがありません。
他人を思いやるような人が誰もいません。
皆が自分のことだけを考えて、弱者を踏みにじる街、人でなししか住んでいない街なのです。

たろう少年は、色々と悩み考えます。
強者の理論だけが通る街で、弱者の身の上を考えます。
それは、いじめられている自分のことについても同じです。

たろう少年はある日、湖のそばにテントを張る、浮浪者のおじいさんと知り合います。
おじいさんは、この街は恐ろしい街だけれども、たろう少年だけは違うと、言ってくれます。
二人は交流を続けます。

…が。
このままハートフルなストーリーで終わりにしたり、寓話的な教訓話に持ってかないのが、平山夢明です。
この後には、後味悪く、希望のないエンディングがまちかまえています。


タイトルの『ニコチン』の理由は、読んでいたらわかります。
これにはちょこっとクスっときました。








◯Ωの聖餐

この短編集、どの作品も面白いものばかりなのですが。
私には、この一編が一番魅力のある作品でした。

ヤクザの裏社会伝説みたいなお話です。

死体処理のために飼っているΩ(オメガ)と呼ばれる巨大な肉の塊の男がいます。
Ωは、死体を食べて排泄し、処理するのです。

たくさんの死体を食べるうち、Ωは食べた死体の脳から、知識を吸収し、まるで神の様な智慧を得ました。

本篇の主人公は、このΩの飼育係を命ぜられた男です。
男は今では落ちぶれていますが、かつては数学をやっていました。

Ωの智慧をもってすれば、数学の大問題、リーマン予想も解決できるはず。
主人公の男は、Ωと取り引きを試みますが…



肉の塊、Ωがとても魅力的です。
…人肉を喰らってその場に排泄しちゃう化け物ですけれど。
話し方は穏やかで理知的で上品だし、何よりその脳に蓄えられた智慧に、魅了されます。

とても怖いけれど、私もΩに会ってみたい!話してみたい!と、思いましたよ。








◯無垢の祈り

家にも学校にも居場所がない、女の子のお話です。
学校ではいじめられ、先生たちは助けてくれず。
家に帰っても母親は新興宗教にのめりこんでいるし、母親の恋人には虐待される。
救われる部分のまったくない、児童虐待のお話。

主人公の少女は、誰も助けてくれる人がいない絶望の底で、連続殺人鬼に救いを求めます。
キツイお話です、タイトルの「無垢の祈り」があまりに切なすぎます。







◯オペラントの肖像

SFです。
近未来、民衆を支配するための手法として使用されたのは、オペラント=条件付け。
洗脳によって、条件反射的に社会に全く適合した反応をする民衆が作られた世界。

その世界では、芸術が敵視されています。
オペラントに反する、人間的なものとして。

主人公は、芸術作品を隠して愛好する反社会的な人々を摘発するのを仕事としていますが。
ある日のターゲットは、芸術を愛する、とても美しい女で…



個々の人間性を絶対的に排した全体主義の中で、抗う個人のお話。
最後にはどんでん返しも用意されていて、面白いです。







◯卵男(エッグマン)

「羊たちの沈黙」ぽい雰囲気のお話です。
エッグマンと呼ばれる連続殺人鬼と、彼を逮捕した美しい女性捜査官の、緊張感あふれるやりとりが読ませます。

女性捜査官は、エッグマンのみが知る情報をなんとか彼から引き出すため、独房のエッグマンと奮闘します。
しかしエッグマンは沈黙を守り、ついには、情報提供の交換条件として、彼の非合法な釈放を手に入れるのですが…


お話の落とし所が、予想外の場所です。
エッグマンと女性捜査官のシリアスなやりとりが魅力的なだけに、まさかラストはそんなところに持っていかれちゃうのか!と、驚きましたよ。








◯すまじき熱帯

ジャングルの奥地に非合法に築かれた王国へ潜入し、その王の命を奪おうと、ある父息子が奮闘するお話ですが…

雰囲気はおどろおどろしく、かなり気持ち悪いです。
父と息子の関係は良好ではないし、熱帯の生き物は襲いかかってくるし、王国の住民は迷信深く都市の常識の通じない相手だし。

作品の雰囲気は、古いB級ホラー『食人族』みたいな、そんな感じです。
作品全体がムシムシジメジメドロドロした、甘ったるい腐臭の漂うような、熱帯の、気持ちの悪い世界なんですが。
地元住民の言葉が、ソラミミで、変な日本語として表現されているユーモアが、息抜き的な笑いをクスっとくれたりします。





◯独白するユニバーサル横メルカトル

表題作です。奇妙な推理小説です。
この作品は、平山夢明にしては、あまりグロテスクな表現もなく、安心して人に勧められる気がします。

主人公は「独白するユニバーサル横メルカトル」、つまり、地図です。

地図が、その持ち主の人間の行動を語ります。
主人公の地図は、持ち主の人間と話すことはもちろんできませんが、地図の能力によって持ち主のサポートをすることはできます。
目的地への最適なルートを提案し、そのルートが目立ち持ち主の目にとまりやすくなるようにしてみたり…そんな感じで。

地図は持ち主を尊敬し、忠誠をもってつかえています。
一人目の持ち主とは関係が上手く行っていた地図ですが、二人目の持ち主=一人目の持ち主の息子との関係は、どうにも上手く行きません。

それでも持ち主に忠誠を違う地図は、持ち主のことを思って、ある行動に出ます…



日本推理作家協会賞を受賞した作品だけあり、読みやすく、展開も面白く、突飛な主人公にも違和感なく。
素直に面白い一編です。







◯怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男

この作品は、この短編集の中で一番、グロテスクですね。
拷問のお話ですから。

読んでいて、思わず本を閉じたくなるような、痛みを想像してしまう恐ろしい表現が目白押しです。
が。
お話の構成はとても面白いです。

現実世界ですさまじい拷問を行う主人公の男は、夢の世界に自分だけのスペースを持っており。
そこで安らぐことによって、正気を保っているのです。

しかし、ある犠牲者を拷問にかけた時。
夢の中の安息が、破られます。
主人公が痛めつけていたその犠牲者とは、実は…











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どの短編も、エンタメ小説として、すごく面白かったです。
読み手の心を掴む設定、スリリングな展開、予想を裏切る結末、全て揃っています。
グロ表現が平気な方には、すごくオススメしますよ。

そして、この『独白するユニバーサル横メルカトル』が面白いと感じた方には、同じ著者の『ダイナー』もぜひとも読んでいただきたいです。
ちょっと過激ですが、私は『ダイナー』は現代の最高のエンターテイメント小説の一つだと思っています。
いつか『ダイナー』についても、再読し感想文を書いてみたいです。

















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☆トミちゃんのダイエット奮闘記☆只今休止中

今朝の体重は、

x+3.0kg

でした。


そろそろ体調も良くなってきたことだし。
ダイエット、再開してもいいかなー?なんて、考えています。
3キロくらいなら、簡単に落とせそうですしね。
近々、お散歩を再開しようかと、思っています。