村上龍 著、『イン ザ・ミソスープ』を読みました。
幻冬舎文庫です。
裏表紙に『97年夏、読売新聞連載中より大反響を引き起こした問題作。』と、書かれています。
2000年よりちょっと前あたりに書かれた小説ですね。
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今回の本のお供は、ちょっと前にダイソーさんで100円で買ってきたクジラのぬいぐるみです。
これ、100円とは思えないくらい出来がいいです。
…縫製は微妙ですけど、値段なりに。
でも、デザインがすごく可愛いです。
お顔の表情もいいし。
最近の私のお気に入りぬいぐるみです。
なぜか、うちの猫たちも気に入っていて、よく咥えて運んだり、抱え込んで猫キックかましたりしています。
そのうちボロボロにされちゃうかもなぁ…
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caution!
この本、内容が少しグロテスクです。
連続殺人鬼が出てきますから。
そういうの苦手な方は、この先の閲覧はお控えくださいね。
ネタバレの嫌な方も、同じくです。
本書、主人公は20歳の若い男の子です。
(…正直、彼からはあんまり20歳っぽい若さを感じられませんけど。
どちらかというと、落ち着き加減が、30代以降の男性ぽいような。もっと20歳くらいの男の子って、騒がしかったり、おどおどしてたり、どちらにせよ不安定で頼りなさそうな感じな気がするんですが。)
主人公の名はケンジ、都内で一人暮らしをし、大学受験のための予備校に通っている…ことになっていますが。
実際は、大学に行く気なんてなく。
外国人向けの性風俗ガイドをして稼いでいます。
お金を貯めてアメリカに行くのが目標だそうです。
私自身もだいたいこの小説の舞台となる年代に、主人公と同じくらいの年齢で、新宿歌舞伎町で水商売のアルバイトをしておりましたので。
当時の歌舞伎町の雰囲気は覚えていますが。
外国人って、その手のお店では嫌われるんですよね。
外国人の入店がNGなお店は多かったです。
…今ではどうか知りませんが、少なくともその当時は。
嫌われる理由は、まあ色々とありますが、ここで挙げる必要もないでしょう。
でも、世の殿方たちはやはりそういうお店が大好きなようで。
外国人でも日本の風俗店で遊びたいという旅行者は多いらしく。
そういった顧客のニーズに応えて、この主人公の男の子は、外国人でも入店できるお店を、自分も一緒に付き従って紹介し、ガイド料としてお金をもらっているわけなのです。
当時(もしくは今も)、実際にそんな職業(外国人向け性風俗ガイド)があったのかどうかは、私は知りませんが。
なかなかリアリティのある描かれ方をしています。
いかにも、そういう仕事でお小遣い稼ぎをやってる人、いそうです。
この辺りの本当っぽさ、村上龍はすごく上手いなぁと思います。
さて、そんなちょっと変わった職業で小金を稼いでいる主人公ですが。
ある年の年末の三日間、とんでもない客、怪物に行き当たってしまいます。
巷を騒がせていた女子高校生バラバラ殺人の犯人、アメリカ人フランクです。
主人公はこの怪物フランクと共に、夜の歓楽街へと地獄めぐりのような旅に出ることになるのです。
フランクの描かれ方が、なかなか不気味で気持ち悪く、秀逸です。
何よりも良いなと思ったところは、肌の質感で、フランクが我々とは異質な存在であることを匂わせたところです。
フランクの肌は作り物めいていて、見ているこちらの不安を煽ります。
それから、フランクの偽物感は肌だけではなく。
その行動や、服装、喋る内容、表情、全てに渡っています。
何もかもが胡散臭く、嘘だらけなのです。
人間味が感じられません。
それを、じわじわと主人公の目や考えを通して、開示していく筆が素晴らしいです。
まさか…と思いつつも、心の底に鳴り響く警戒音は止まない、「この人はヤバい、近づくな」という本能的な直感。
なんの証拠も無いのに、主人公の男の子は行動を共にするにつれて、フランクがテレビや新聞で報道されていた女子高生バラバラ殺人の犯人ではないかとの疑いをほとんど確信にまで深めていくことになるのですが。
その心の動きが、読者としても自然に受け入れられます。
だってフランク、気持ち悪いんだもん。
あらすじとしましては、この後、お見合いパブ(素人の女の子がタダで飲み食いできるかわりに、お金を払った男の人と「出会う」お店です)でフランクはその正体を表し。
店内にいた店員や客を、凄まじい怪力と謎の催眠術でもってして、皆惨殺し、主人公も殺されかけるのですが。
他の人が何も言えずにただ殺されていく中、主人公だけはフランクの指示に対して「No」を答えた為に、自分の意思をちゃんと表したために、命をとりとめることになります。
その後、主人公は自分のガールフレンドを巻き込みながらも、なんとかフランクの満足するようにアテンドをやりとげ、めでたしめでたし…の運びとなります。
サスペンスとして、とても刺激的で面白い一冊です。
主人公の職業設定も変わっていて思わず「なになに?」と引き込まれるし、あの頃の夜の歌舞伎町の怪しい雰囲気も見事に再現されていてワクワクさせてくれるし。
ですが。
この本、それだけ…エンターテイメントだけではなく、(…というか、作者としてはきっとむしろこっちがメインなのでしょうが)社会批判も描かれています。
そもそも、なぜ殺人鬼は日本人ではなくて、アメリカ人でなくてはならなかったのか?
皆が殺されたのに、主人公だけが「No」を唱えることで命を助けられた理由は?
そして、この本のタイトルの意味は?
インザミソスープ、直訳すると、味噌汁の中。
味噌汁は(本が書かれた当時としての)現代日本社会を表しています。
『まるで人間の汗のような匂い』がして、『何かわけのわからないものが混じっていた、野菜の切れ端とかそんなもの』が茶色いスープの中に沈んでいて、『そのくせこう、見た感じが、どこか妙に洗練されていて上品』な、味噌汁。
安全な社会で飼いならされてしまい本気で生きることのない人たち、なんとなくぼんやり過ごしている人たち、寂しさをごまかす餌のためにしか生きていない人たち、そんな人たちが作りあげる、一見上品な社会。
これがミソスープってことなんでしょうね。
そんなぬるいミソスープの中に浸かる日本人を、外国人フランクが強大な暴力でもってして目覚めさせ、生きるということを考えさせる。
殺された他の日本人達が、圧倒的な暴力の前にヘラヘラ笑うのみで自分の意思を全く示さなかった中で、主人公だけは「No」としっかり意思表示した。
主人公だってミソスープの中に浸かる人間ではあるけれど、でも彼だけは自分がミソスープの中にいることを自覚している。
だから、フランクは彼をゆるした。
…そんな感じかな?
ちょっと、こういう部分に関しては。
辛口で感想を述べさせてもらうと、正直、古い、かなと。思います、私は。
なんだろ、いかにもおっさんの考えそうなことだなぁ…と、すでにおばさんである私が思ってしまうわけでありまして。
若い人にとっては、もう昔話的なちょっとした歴史的遺物的な思想というか社会批判、なんじゃないでしょうかね。
そういう時代もあったのか、みたいな。
何でもかんでも、寂しさに還元してしまうのもどうかと思いますし。
弁証法的な、進化、進化!より良く、より良く!みたいな、そんな単純な考え方ではどこにもたどり着けないというか。
少なくとも資本主義ベースの…欧米的な世界とでも言えばいいのかな?、が、どこまでも良くなっていくことが無理なのは、限界があることは、すでに昨今の世界情勢を見てもあまりに明らかだと思うんです。
…じゃあどうすりゃいいのか?って尋かれても私にはわかりませんが。
それでも、この本に書かれているような考え方では、立ち行かないだろうな、くらいのことはわかります。
この本が書かれたのはもう随分前ですし、その後の村上龍の考え方がどう変わっているのかは知りません。
ただ、少なくとも、この本に書かれている社会批判に関しては、私は作者に対して「No」を唱えます。
なんだか感想文の後半、この本をディスってるみたいになっちゃいましたが。
そんな気はありません。
ただの一読者たる私の、ただの感想です。
とにかくこの本、エンターテイメント小説としては、レベルの高い面白い本です。
サスペンス好きな方、ノワール小説の好きな方には、そういった意味でオススメしますよ。
私はすごくワクワクしながら最後まで読めました。
一気に読める一冊です。
面白いですよー!
イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫) 576円 Amazon |
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☆トミちゃんのダイエット奮闘記☆只今休止中
今朝の体重は、
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でした。
特に問題は無し。
いい感じです。