遠藤徹 著、『弁頭屋』あるいは『壊れた少女を拾ったので』を読みました。

『弁頭屋』は角川書店のハードカバー、『壊れた少女を拾ったので』は角川ホラー文庫です。


ええと、これらの本、短編集なんですが。
実はこの二冊、中身は同じです。
文庫本の方は解説がついてますが。
先に単行本として出たものが、改題されて文庫本になったのですね。


…気付かずに二冊とも買ってしまいました、私。
ちょっとガッカリです。
まあ、仕方ない。
よく調べなかった私が悪いのです。とほほ。









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今回の本のお供は、うふふ、ジェニーちゃんです!
我が家のドールズに、新たにお迎えいたしました。

中古で○百円でしたよ。
とってもお買い得でした。

彼女が着ているお洋服は私の手作りです。
リカちゃん・エリーちゃんサイズで作った服なので、かなり際どいミニ丈になっちゃってますが。
ジェニーちゃん、スタイル抜群ですから全く問題ありませんね。
健康的な色気で、素敵にお似合いだと思います。

クロッシェのお帽子を合わせて、夏の素敵なお嬢さんってイメージです。








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本書の著者、遠藤徹は『姉飼』で、第10回日本ホラー小説大賞を受賞しています。






日本ホラー小説大賞は、けっこう面白い賞でして。
過去の受賞作には、私が読んだものでは、

大賞に、瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』、貴志祐介の『黒い家』、岩井志麻子の『ぼっけえ、きょうてえ』なんかがありますし。

短編部門、長編部門の受賞作には、飴村行の『粘膜人間』、小林泰三の『玩具修理者』、森山東の『お見世出し』などなど。

どれもとても面白いホラー小説でした。

私がまだ読んでいない受賞作の中にも、ホラー小説ファンの間ではかなり話題になっていて、私もそのうち読みたいと思っているタイトルがけっこうあります。





遠藤徹の本を読むのは二冊目です。
私は『姉飼』を先に読んで、そのなんとも背徳的で不安を誘う、奇妙なエログロ世界に魅了されまして。
もう一度遠藤徹の描く世界を覗き見たくて、本書を手に取ったのです。








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ええと、先に警告しておきます。
今回の読書感想文はホラー小説の感想ですから、気持ち悪いのや怖いのが苦手な人は、閲覧をお控えくださいね?
ネタバレもしちゃいますから、それが嫌な方も、ここから先は読まない方が良いです。





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さて、本書はホラー小説の短編集ですから、もちろん一般的にはきっと怖いお話なのですが。

何に恐怖を感じるかは、人によって随分と差があります。
私自身は、生きた人間の恐ろしさやモンスターの恐ろしさよりも、心霊方面に怖さを感じるタチでして。

…要はオバケのお話が、すごく、怖いんです。
なんていうか、人の論理が一見通りそうなのに実はさっぱり通らないもの、信じきっている物理法則に外れるもの、そういうものがもしもあったらどうしよう!?と、怖くなっちゃうのです。
でも、怖いからこそ、大好きなんですけど。

ですが、この『弁頭屋』あるいは『壊れた少女を拾ったので』に描かれているのは、生きた人の怖さでも、モンスターの怖さでも、心霊の怖さでも、ありません。
では一体どんな怖さかと言うと。

不気味な世界の怖さ、とでも言えばいいのでしょうかねぇ。


血や内臓などガンガン飛び交うスプラッタ表現もたくさんあるんですが。
でも、この短編集の怖さの根源は、そういったものではないと思います。
むしろ他のホラー小説のように、血肉は、読者を恐れさすように、言葉で過剰に装飾されて書かれてはいなくて。
なんだか、当たり前のようにサラッと表現されている印象です。


作中に描かれる、血肉が当たり前のように飛び交う、倫理観が現実とはズレまくった、ついでに生物学的にも物理学的にも我々の世界とは法則が違う、よくわからない世界。
それでいて、我々の世界によく似ている、どうにもつかみどころのない世界。
その世界が、怖いのだと思います。
まるで悪夢のような世界です。

しかもその悪夢のような変な世界で官能的に描かれる猟奇的な愛が、また、読者を不安にさせるのです。
いかにも気持ち悪いぞー!っといった感じで猟奇的な愛を描かれたなら、それはそれで自分とは関係ないものとして、うへぇ!っと汚いものでも見るような目で(あるいは好奇心を持って楽しく)見てりゃすみますが。
あまりに当たり前のようにして描かれちゃうと…


なんだか、濃厚なエロスに酔わされて、自分がとんでもないところに連れてかれるのではなかろうかと、不安になります。
描かれた世界を猟奇的で異質な世界だと考えている自分こそが、異質なのかもしれない…と、ちょっとゾワッとしてしまいますよ。




ところで。
ちなみに、私としては、この短編集、全く怖くないんです。
ただただ、ワクワクして、面白いです。
ギクシャクと不安定でつかみどころのない世界は、私にはファンタジーなのです。
ちょっと違いますけど…文学作品で言えば、カフカなんかの描くあの奇妙なズレが生む不安定な世界に感じる不安感、それに近いものがあるのかな?

遠藤徹の書くホラー小説は、私にとってはただのファンタジー小説です。

最近、しかし、この手の私的にはホラーではなくファンタジーカテゴリーあるいは幻想文学カテゴリーに入れたいようなホラー小説、増えてますね。例えば、飴村行の粘膜シリーズとか。
好きなジャンルなので、嬉しいです。

…ただ、ちょっと人には薦めにくいですねぇ。
同好の士には安心して話せますけれど。
こういうの嫌いな人には、なんだか自分の人間性を疑われそうなので、あまり言いたくない感じです。
ある意味、マニアックなポルノに感じるような、楽しんで読んでることは秘密にしておきたいような、そんな後ろめたい感覚をちょっと持ってしまいます。




それから、ホラー映画ファンの方ならよくわかると思うのですが。
ホラーとユーモアって、実はすごく相性が良いんです。

有名タイトルのホラー映画にも、けっこうギャグシーンが折り込まれていますし、これがB級ホラーになったらますますたくさんのしょうもないギャクが散りばめられます。
破壊された人体で遊ぶようなシーンには、不謹慎さも手伝って、笑いが堪えられません。

そういうユーモアを持った短編も、本書には収められておりますよ。












本書に収められた短編は、
『弁頭屋』
『赤ヒ月』
『カデンツァ』
『壊れた少女を拾ったので』
『桃色遊戯』
です。



以下、各短編について、簡単なあらすじと感想を書こうと思います。








『弁頭屋』

タイトル通り、おべんとうやさんのお話ですが。
弁当屋ではなく弁頭屋となっているのは、お弁当の容器に生首から脳をえぐり出したものを使用しているからです。
もしも戦争が始まってしまったら…の、架空の現代日本が作品の舞台なのですが。
その世界では、何故か生首を容器にしたお弁当が普通に売られていて、普通に受け入れられているのが???すぎて謎です。
でも、この???すぎるギクシャクした世界が、この作品の楽しみどころでしょう。

あらすじとしては、バンで移動弁頭屋を営む美人双子の片方に恋をした主人公が、破滅と言う名の悦楽パラダイスで幸せに暮らすことになるお話です。

それなりにグロテスクな表現が多くあり。
弁頭の容器に使われる生首のシャンプーのいい香りと、中に詰められたおかずのニンニクの香りが混ざる表現なんかは、生理的嫌悪感を呼び起こされ非常に不快な気持ちにさせてくれます。
おええ。

この作品を書いた文体は、なんだか、稚拙な印象を与えるのですが。これは作者の狙いだと思います。
なんだか下手くそな文章が、ギクシャクした世界の演出に一役買っていて、なかなか見事です。







『赤ヒ月』

人を食べたい人と、人に食べられたい人の猟奇的な官能のお話です。
主人公を含む捕食者グループが、被食者グループを襲い血肉を食らうお話なんですが。
被食者グループが食べられて喜んでいるのが、ちょっと変わっているところ。
捕食者グループと被食者グループの間には、愛があります。
捕食関係は、この作品ではご主人様と奴隷のSM関係と同じような感じです。悲壮感はありません。あるのは官能だけ。

それから、これ、読んでいくとわかるのですが。
ありえない展開がいきなりぶち込まれてくるタイプの小説で。
作中、ちょっとしたミステリーなんかもあるのですが、その真相はなんと…!
油断していたところで、二度見してしまうような、「え?え?マジで?」的な笑いを誘われます。







『カデンツァ』

家電製品に恋をして、破綻してしまう夫婦関係が描かれます。
妻も夫もお互いに炊飯器とホットプレートと、不謹慎な関係を結びつつも、奇妙な共犯関係から夫婦と家電たちの暮らしは一時はうまくいくのですが。
やがて…。

この作品にはホラー要素はないですね。
星新一あたりの不思議なSFみたいな感じです。
お話の展開はなかなかにスリリングで、読ませます。






『壊れた少女を拾ったので』

この短編集の中では、この作品が私は一番好きです。
江戸川乱歩や夢野久作、漫画家の丸尾末広あたりが好きな人にはオススメします。

舞台はちょっと昔の…そうですね、明治あたりかな?の日本に似せた世界です。
主人公は自分を醜いと思っている(実際に醜いらしい)少女。
主人公にはかつてとても美しく、そして怖ろしい姉がいたようです。

主人公には被虐嗜好があり、姉に対して同性愛的な執着ももっています。お姉さまを恋し崇拝し、虐げられることに喜びを感じているようです。

物語は少女の一人称で、お姉さまに向かって語られます。
大好きなお姉さまが隣町のお大尽様に見染められ嫁いでしまって、主人公一人になってしまってからの生活を語っていくのです。

ある日主人公は、夢の中に侵入してくる、ねば虫から逃げるうち、死にかけた動物の捨てられる場所にたどり着きます。そして、そこで壊れた少女を拾います。

少女を持ち帰り、お姉さまのように美しく修理します。
足りないパーツは自分の内臓を用いることで補って。

蘇った少女はかつてのお姉さまのように、美しく傍若無人なサディストです。
その少女が今度は逆に主人公を一旦殺し、修理して…

醜かった主人公は気がつけばお姉さまになり、壊れていた少女は醜い主人公になり。
お姉さまは隣町のお大尽様のところへ、迎えの馬車に乗って、帰っていくのです。


乱歩的な、官能と猟奇と同性愛とサディズムマゾヒズムのドロドロ混ざり合った世界が描かれた短編です。
加虐者と被虐者、醜女と美女が夢幻の世界で溶け合うように入れ替わっていきます。

好きな人にはたまらないけれど、嫌いな人は気持ち悪くて吐き気を催すような一編だと思います。







『桃色遊戯』

ピンク色のダニに侵食された、終末の世界のお話です。
人類滅亡の数日前の世界でしょうかね。


ホラー小説として、これは短く、よくまとまっていると思います。
グロテスクな表現で勝負している感じではありません。
静かに寄ってくる滅びを、淡々と描いた一編です。

希望はありませんが、ピンク色のダニの靄につつまれて、死に絶えていく人々の姿は、何故か不思議と読者を安堵感で包んでくれます。
諦念の先にある幸福、とでも言いましょうか。
なんとも言えない、読後感です。












耽美的なエログロ世界がお好きな方には是非ともオススメしたいけれど、そうでない人にはやめておけと止めたくなる、そんな一冊でしたよ。








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