ジャン・ラシーヌ 作、内藤濯 訳、『フェードル』を読みました。
フランスの戯曲、悲劇です。




この本は岩波文庫。
昭和三十三年第一刷発行、定価四十円。
随分と古い本です、ページも黄色く焼けちゃってます。

こういう古い本は、大好きです。
その古さにワクワクします、本の中に昔の秘密が隠されているような気がして。

ちなみに、写真で、『フェードル』を覗き込んでいる編みぐるみのマトリョーシカ三人娘は、私が編みました。ちょっとお気に入りです。



この『フェードル』、元ネタはギリシャ神話です。
エウリピデスに取材した、と作者が序文で書いています。

エウリピデス…ギリシャの三大悲劇詩人の一人ですね。私はまだ読んだことはありません。




ストーリーは単純です。昔の昼ドラっぽい筋立てです…


アテーナイのテゼ王の妃フェードルが、義理の息子イポリートに道ならぬ恋をします。
フェードルは、その許されぬ想いを消すために、わざとイポリートに辛くあたります。
辛くあたるどころか、国外追放し、けして自分に近づけないように法まで定めちゃいます。
こうやって愛しい人をわざと遠くに押しやってみたものの、そんなことでは恋の炎は消えません。

ある日、フェードルの夫テゼ王が旅先にて崩御されたとの訃報が届きます。
これがきっかけで悲劇は始まります。

テゼ王が亡くなるということは、アテーナイの跡継ぎ争いも始まるということです。
王権はどこへ転がるのでしょう。
王妃フェードルとその子供達か?腹違いのテゼ王の息子イポリートか?はたまたテゼ王に反逆し滅せられた一族の末裔のアリシイ姫か?

ところで、フェードルが道ならぬ恋をよせる義理の息子イポリートは、これまた道ならぬ恋をアリシイ姫に捧げています。
アリシイ姫は自分の父親の憎む姫君なのです。

フェードルとイポリートとアリシイの恋の三角関係、そこに王権をめぐる跡継ぎ争いがからみます。
さらに、自らの主人を盛り立てようとする付き人達が、主人に入れ知恵したり、策略を施したりします。

このゴタゴタの中で、フェードルはこうなりゃバラすしかないとばかりに、自分の恋を想い人に告白してしまいます。恋がうまくいけば、手に手を取って王権確保に向かえますからね。王位をめぐる敵同士だったのが、味方同士になれるわけです。
まぁ、でも、イポリートはアリシイが好きなので、うまくはいきません。

ところが、なんと、そんな折、死んだはずのテゼ王が、無事に帰ってきちゃいます。

…作中、一番かわいそうなのがこのテゼ王なんです。
せっかく生きて帰ってこれたのに、奥さんも息子も、なんだかシドロモドロで王の御前から逃げるようにいなくなっちゃいます。

わけがわからず、うろたえるテゼ王に、フェードルの乳母エノーヌが「あなたの息子のイポリートが、義理の母たるフェードル様に邪なちょっかいをかけてきたもんだから、あなたの奥様のフェードル様はあんなにふさぎこんでいるんですよー。イポリートは色魔な悪者ですよー。」的な、嘘の告げ口をします。

ここからが悲劇の山です。
エノーヌの言を信じたテゼ王は、海の神ネプチューンに頼んでイポリートに呪いをかけちゃいます。

呪いは実現してイポリートは死に、それを知ったフェードルも心を改め罪を告白して自死します。
アリシイ姫とテゼ王は、イポリートの無実の死を嘆き悲しみます。
ちなみに、嘘つきのフェードルの乳母エノーヌも、最後、誇りを取り戻したフェードルに邪険にされて、悲しくて入水しちゃいます。

…以上が、私のまとめたテキトーなあらすじです。



登場人物は全員人間なのですが、神々の血をひいている人達ばかりです。
テゼ王は、クレタのミノタウロスをたおしたテーセウスのことですし、フェードルはそのミノタウロスの姉妹です。

神話と人間の歴史が混在している頃のお話なんですね。
でも『フェードル』は、神々の神々しさは出てこず、完全に人間の悲劇です。…ちょっと昼ドラ的な。




フェードルも恋の病に負けなければ、清廉潔白なよき妃であったでしょうに。

恋は恐ろしいですね。
時には立派な人でも、恋ゆえには、自分で自分をコントロールできなくなるんですから。

自分で意図せずとも、勝手に道ならぬ恋に落ちちゃうこともありえますし。
だいたい、好きになる人って選ぶものでもないですしねぇ。

村上春樹さんの作品だったかな?恋はするものではなくて、落ちるものだと、どこかで読んだ気がします。まったくもってその通りですね。

フェードルは、その邪な恋で周囲の人々を悲劇に巻き込みますが、自身もどうにもできない恋心に苦しみ、不幸のどん底に生きています。自分自身も、邪な恋の犠牲者なわけです。



まぁ、悲劇って言うくらいですからね、登場人物はみんなかわいそうです。





そういえば、『フェードル』はラシーヌの戯曲ですから、原文は韻も美しいらしいです。
邦訳も格調高い文章で、十分に読むに値するものではありますが、韻はなかなか再現できるものではありませんよね。

私は、いつかはラシーヌをフランス語で読めたら素敵なのになぁなんて、ちょっと夢をみています。














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