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 あの騒ぎの中、最初に眠ってしまったのはリョウヤだった。

 「アレ? リョウヤ、寝ちゃった?」

 リョウヤの声が聞こえなくなったなと思って、ふと見ると、クッションを抱えて、クークー寝息をたてていた。リビングと、続きの洋間をブチ抜いた部屋の中、テーブルを真ん中にして、ソファーの置いてある方に私を含む、サトシ、リョウヤ、ジュンの4名、オーディオ類の置いてある方にタケル、リュウ、コウ、アキラ、ケンタの5名が散らばっていて、リョウヤはソファーにもたれかかりながら眠っていた。

 「ありゃ、寝ちゃってる。」

 「言った通りでしょ? 酒が入ると、本当、寝つきがいいんだよ、こいつ。」

 「風邪ひいちゃうよ。リョウヤ?」

 リョウヤの肩を揺すってみる。が、目を開く気配すら見せない。

 「駄目だよ、そんなことしても。1回寝たら起きないよ。」

 サトシが物入れからもう1枚毛布を出して、リョウヤにかけながら言う。

 「そーだよね。でも、2~3ヶ月前までは吐くまで飲んで、つぶれて寝るって感じだったよね。」

 「あ、そーだったんだ…。」

 「あいつの葬式があった日なんか、ちょっとひどかったよな。」

 タケルが言う。ピッチは落ちて、今はちびちびと飲んでいる。

 「そんなに?」

 「…っていうか、変だったよねー。何にもしゃべんないし、飲んでるんだけど酔えない、みたいな。見てるのも辛いくらいで。そのうち、俺ら寝ちゃったんだけど、朝起きてみたら、こいつ、目、真っ赤にして起きてたの。」

 「『寝てない』って言うし。ちょっと、怖かったかなー、あん時。」

 コウに続いてタケルが言う。思わずリョウヤを見るが、今の話が嘘のように眠っている。

 「その後、荒れたんだよね。」

 「そーそー。『俺のせいなんだ』って言って、わざと喧嘩売ってくんだよね。『俺が注意してれば、こんなことにはなんなかった』って。」

 タケルが苦笑する。

 「『お前らもそー思ってんだろ』とかって、ね? 『気持ちはわかるけど、そんなこと思ってない』って言っても、『そーなんだ、そーなんだ』っつってイジけてて。1回だけ、タケルが『あんま、俺らを見縊んな』って、買ったんだよね。」

 サトシがタケルに目を向けながら言う。タケルもチラッとサトシを見て、

 「史上最低の喧嘩だった、あれは。」

 と、苦笑する。

 「皆、精神的に大ダメージ受けてたから、誰も止めない、加勢もしない、目に入ってんだけど見えてない、すげー悲しい殴り合いだったよね。」

 「ケンタが止めたんだもんね。『やめなさい』って言って。『うるさいから静かにしなさい』って。」

 コウに次いで、サトシがそう言ってククッと笑う。

 「それ1回だけで、俺らが相手にしないもんだから、外に出てっちゃって、それっきり帰ってこないし。捜しに行ったら、思いっきり、顔腫らして道端に座り込んでてねー。それからだよね? こいつ、見張りだしたのって。」

 「そうそう。」

 「とにかく、目、離せなかったよなー。」

 「そんだけ、大事だったんだろ? って、誰か、さっき言ってたね。」

 アキラが言う。私だよ、私と自分の鼻を指さしてみせる。あ、そーそーというふうにうなずく彼は、ほろ酔い気分で、朗らかな表情。

 「ケンタも目が離せなかったよね?」

 コウがケンタを見る。ケンタは照れくさそうに笑ってる。てか、顔、真っ赤。

 「初めは寝てたんだけど、だんだん寝なくなったっけなー。」

 「リョウヤと逆パターン。」

 「わかんねーでもないけどね。俺だって、夜中、目、覚ましたことあったもん。」

 タケルが言う。

 「あ、お前も?」

 「何? サトシも?」

 「ん…、時々ねー。」

 苦笑するサトシ。

 「ハッとして起きてねー。もういないってわかってるんだけど、リョウヤの脇で寝てるような気になってみたりした。」

 「そーだね。朝、起きてみて、『夢じゃないんだ』って思ったりね。」

 コウもうつむき加減で言う。

 「タクちゃんとかが言ってたんだけどね。」

 リュウがチラッと連中を見回して言う。

 「そーゆー時、まだいるみたいだなーって思った時って、本当にいるんだって。」

 タケルとサトシがリュウを見る。ジュンも顔を上げ何か言いたそうな表情を見せるが、そのまま何も言わずに、少し悲しげにうつむいた。

 「え? じゃ、今もいるのかな?」

 「タクちゃん達じゃないからわかんない。」

 リュウが首を振って、フッとリョウヤを見る。

 「こいつさ、夢、見ないように、つぶれるまで飲んでたんじゃないかなーって、今になって思うんだ。だって、こいつ、見てんじゃん。現場にいたんだもん。俺だって、話だけ聞いてもすげーキたのに、こいつなんか、どんだけでかかったんだろって思うもん。」

 サトシがチラッとリョウヤを見て、

 「こいつら…、リョウヤと美矢って、何て言うか、逢うべくして逢ったって感じだったよね。勿論、出逢いは偶然だったけどさ。俺らがあのバーに行かなきゃ逢えなかったし、あいつも家出とかでニューヨークに行ってなきゃ逢えなかったんだけど。偶然に逢って勢いでさらっちゃった、みたいな。本当に勢いだけで生きてっかんなー、俺ら。」

 苦笑しながら言う。

 「あ。そー言や、お前も見て…。」

 「タケル。」

 サトシがタケルを遮る。タケルの視線の先にいたのはケンタ、ジュンがこぼしたビールを一緒になってティッシュで拭き取っていて気付いていない様子。リュウはそれを横目で見て笑いをこらえてる表情。…何だろう???

 「言うなよ、それは。」

 「あ…、そっか。」

 小声で話しているサトシとタケル。ケンタのところまで届いていないようだ。

 「思い出させない方がいいよ。」

 サトシに言われて、素直にうなずくタケル。2人、ほぼ同時にフッとケンタを見る。

 「あ、お前ら、何したんだよ。」

 途端、サトシが声をあげる。ジュンとケンタが『しまった』という表情をする。リュウは1人、腹を抱えて大笑い。アキラとコウも苦笑して見ている。

 「あー、ビール、こぼしたなー。ちゃんと拭き取れよー。もー、頼むよ、俺の部屋なんだからー。」

 と、ソファーの後ろの方からタオルを取り出し、2人へ投げるサトシ。

 「何? ケンタ、どーしたの?」

 サトシの様子をククッと笑ってみているタケルに声をかける。

 「ん? あー、ケンタ、現場にいたんだよ。」

 「現場って、…事故の?」

 「ん…。別れた直後だったらしいんだけど、急ブレーキの音で振り向いたら、リョウヤと美矢が道路に転がってたんだって。」

 小声で、私にだけ聞こえるように言う。…悪いことをした。また、こんな表情をさせてしまった…。

 「…ごめ…。」

 「ユーキも言わないでやって。俺もうっかりしてたけど、もう、あんなケンタ、見たくないから。」

 自分の口許で人差し指を1本立てて言うタケルだった。力強くうなずいてみせたのは言うまでもない。