シーンと静まり返った部屋の中、ケンタの寝息だけが聞こえている。誰もが押し黙っていた。どんなにはしゃいで見せても、やっぱり彼女のことが何処かに残っている。はしゃげばはしゃぐほど、大きく心を占めてしまう。いつもあった姿が、ここにないから…。

 それは、私も同じだった。ユーヤの葬儀の後になって、いきなりこみ上げた想い。もう二度と逢えない。話も出来ない。触れることさえ…。そんな事実にぶちあたって、初めて泣き明かした夜。それに似た感情が彼らを包み、そして、少しずつ剥がれていく。

 「…くしょう。」

 沈黙が流れ、静まり返った部屋の中、それぞれがそれぞれに想いふけっていた空間、缶をグシャッと握りつぶし、吐き出すようにその台詞を吐いたのは、リョウヤだった。ふと皆の目線が集中する。

 「あ、悪い…。」

 視線を感じたのか、リョウヤが顔を上げる。漏れてしまった気持ちを聞かれて、戸惑ったような表情を見せる。

 「何だよ。言っちゃえよ。」

 「言った方が軽くなるよ?」

 タケルとコウが言う。リョウヤはチラッと2人を見て苦笑する。

 「頭ん中、いろんなことが、グルグル回っててさー。」

 淋しそうに言うリョウヤ。その存在自体、ただ淋しそうだった。誰も無口に、うつむいている。私は、悪戯っ子のように笑う、ちょっと冷めた目つきのリョウヤしか知らない。こんなリョウヤ達は、知らない。

 「…いつだったかなー。夜、もう寝るぞって時だったんだけど、あいつが急に、『自殺したら、生まれ変われないんだ』って言うんだよね。あいつが言うには、『自殺すると生まれ変われる資格がなくなっちゃう』んだって。『だから、絶対自殺なんかしちゃいけないんだ』って。……だからってゆーか、…死ねなかった。死にてーって思ったのに、出来なかった。一緒にいたくせに助けることも出来ねーで、あいつ、1人で逝っちまいやがってさ。すげー腹がたって、生きてる価値もねーって、死んでもいいやって思ったのに…。あの言葉がさ、ずーっと残っちゃってて、悔しいぐらい、思ったとおりに、身体が動かなかった。この俺が、だよ?」

 視線を下に向けて、いつまでも顔を上げない。

 「時間が止まればいいって、…あのまんま、あの頃のまま、時間が止まればいいって、本当に本気で思った。他愛ない冗談言って笑い転げて、何でもないことで喧嘩して、あいつのやることに驚かされてって、それが、ずーっと続くと思ってた。」

 ふと、途切れるリョウヤの声。つられるように顔を上げる。

 「…それなのにさー。」

 リョウヤが床をダンッと叩き、本当に悔しそうな顔をする。

 「…何で、俺なんか、突き飛ばすんだよって。その前にてめーのこと、心配しろよって、ぶん殴ってやりてーよ。」

 床を叩いた手をそのままに、力を込める。リョウヤの手がブルブルと震え出す。

 「嫌だったんだよ。全然、動かねーんだもん。道路に転がったまんまでさ。…動かねーんだよ、あいつ。…すげー怖かった。…何でだよ。何処に、あんな力、あったんだよ。」

 悲痛に響くリョウヤの声。思わず、顔を伏せる。

 「俺が、代われば良かった…。」

 顔を上げて見ると、いつの間に起きたのか、ケンタだった。少し赤い目をリョウヤの右手に向けている。

 「ケンタ…。」

 「兄キも、もういないし、何の未練もないし…。美矢の代わりなんて、何処捜したっていないよ。あんな…。」

 「止めろよ。」

 「だけど、俺だったら…。」

 「バカなこと、考えんな!」

 サトシが怒鳴る。反射的に、コウがサトシの腕を掴む。

 「お前の代わりならいるってのかよ。」

 うつむいてしまうケンタを見るサトシは、見てる方がせつないくらいの表情を見せる。

 「おバカ。」

 リュウがしょうがないなというように、ケンタの肩を抱く。ジュンもケンタの傍らに寄り添うように座り、ククッと笑った。そんな彼らを見て、ふと、こみ上げる想い。