「見た目よりガキだったよね。」
「うん。男ってさ、精神年齢が低いって言うじゃん? でも、あいつは俺らよりも絶対に低かったって思う。」
リュウの隣でジュンがうなずく。
「良く言えば素直だった。あのくらいの年齢の女にしては。」
「良く言えばね。はっきり言えば、リュウちゃんが言った通り。ガキ。」
コウが言うと、タケルが茶々を入れる。
「ギター、教えたこともあったよね。」
「あー、あった、あった。でも、『指が届かない』って怒ってさ。」
「それに飽きっぽいもんだから、『やらせてみそ』って、俺んとこ寄ってきて。『こっちの方がいい』って。メチャクチャだったけど。」
サトシが笑いながら言う。
「叩く方が性に合ってたんじゃない?」
「でも、次の日、『肩が痛いー、足が重いー』って泣いてたぜ。」
嬉しそうに、楽しそうに話している。
「何、観客になってんの? 飲んでる?」
タケルがそう言って、私の目の前の缶を取って振る。
「いつの間に飲んだ?」
と、新しい缶を取ってくれる。
「さっき、なくなった。」
「何か、今日はピッチが早いじゃん。」
「そんなことないよ。いつもと同じだよー。」
「実はすごい呑ん兵衛なんじゃないの?」
「違うってばー。」
否定しても、疑いの眼でこっちを見てる。…話題を変えよう。
「あ、そ、そう言えば、喧嘩ばっかして、困らせてたって聞いたけど…。」
「そんなことまで、お前、しゃべったの?」
運良く、サトシが引っ掛かった。サトシに突っ込まれてリョウヤが舌を出して見せる。
「あいつのムッとした顔を見るのが楽しみだったんだよなー。」
ジュンが言う。他の連中もそれぞれ苦笑しつつ、うなずいている。
「嫌だ、意地悪だ。」
「嘘。心配してくれる奴がいるってのが嬉しかったの。」
ジュンがちょっとだけ照れたように言う。
「『あーあ、また喧嘩しちゃった』とかって、嬉しそうにボヤくんだもん、こいつ。」
タケルがリョウヤを指さして言う。リョウヤは照れたように笑い、新しい缶のプルタブを開ける。
「『また喧嘩したのー? 大丈夫―?』って言う奴はいるけど、本気で心配して怒る奴って、あいつだけだったもんね。」
「俺らだったら、『勝った?』とか聞いちゃうかんね。怪我の有無より勝敗の方が気になっちゃって。」
コウとタケルがククッと笑う。
「カーッとしてるとこにもってきて、説教たれられたしね。」
「俺、サトシさんに噛みついていった時は怖かったなぁ。」
ケンタがポソッと言う。
「何でお前が怖がんだよ。」
「えー? だって、俺だって冗談でも出来ないよ。」
「まー、こいつの機嫌が悪い時に、食って掛かっちゃ、いけないよな。」
「怪我するよ、って?」
リョウヤとアキラが顔を見合わせて、ケタケタと笑い出す。
「じゃ、彼女がしたことって、無謀以外の何者でもないんじゃない?」
「俺は何なんだよ。化け物かよ。」
私が言うと、サトシが笑いながら言い返してくる。
「怖いもの知らずって、あーゆーのを言うんだよ、きっと。」
「でも、見てる方が怖かった。あれ、心臓に悪いよ。」
ケンタが言う。
「しょうがないよ。喧嘩、大っ嫌いだったから。」
「あの性格は貴重品だよね。」
リョウヤとコウがそう言って、顔を見合わせ嬉しそうに笑った。
「あいつ、表向き、ケンタの彼女だったから、余計、心臓に悪かったんじゃないの?」
アキラが何処から持ってきたのか、1人だけ洋酒の瓶を片手に笑いながら言う。ケンタが照れくさそうに頭を掻く。
「仲間内以外は、『ケンタの彼女』で通してたもんな。『知らない』って言っても、あいつ、いっつもいたから、変に怪しまれるもんね。」
「リョウヤが言い出しっぺだったよね。」
コウが言うと、リョウヤはニヤッと不敵に笑った。
「ライブん時も、俺らが相手してやれないから、いっつもケンタとジャレてたかんな。意外とバレなかったよね。なかなか策士だよ、こいつ。」
「俺は偶然の一致だと思う。そこまで考えてないよ。」
タケルの台詞に『ちょっと待った』を入れるサトシ、リョウヤがボケッとひっぱたく。
「痛いなー。」
「彼女っていうより、俺より上だったけど、“妹”くらいにしか見えなかった。だって、すっごい子供なんだもん。それに、ちゃんと守ってる人、いたし。」
「お前、一言多いぞ。」
リョウヤがふざけてケンタを睨みつける。
「だって、本当のことだもん。」
「だってさー、嫌だったんだもん。あいつ、『α』と関係ないじゃん。それなのにさー、雑誌とか他の奴とかに知られたくなかったんだもん。」
リョウヤがそう言って、缶を傾ける。ちょっとムッとした表情。
「出たよ、リョウヤのわがまま。」
タケルがククッと笑う。
「でも、何かわかるよ、それ。」
私が口を挿むと、ジュンが缶の中を覗き込みながら、
「大体さー、バンドやってんだから、それだけでいいのにね。売れてなきゃ売れてないで関心ないくせに、人気が出れば、私生活を暴くことに妙に力入れるし。」
「まー、それもわかんないでもないって言っても、限度があるしねー。」
リュウがうなずいて、リョウヤを見る。
「何だよ。」
「え? リョウヤらしいなーって。それとなく、最善策を取ったのかなって思って。」
「さりげなく、ね。」
タケルが言う。リョウヤがタケルをチラッと見る。
「いいの。雑誌とかには、俺らがメインで出てれば。だって、『α』は俺らだもん。」
「美矢じゃねーって?」
サトシの突っ込みに、リョウヤが素直にうなずく。
「あいつも異様に嫌がってたら。他人に知られるの。」
「少なからず俺らも感化されたしなー。」
「されたねー。」
コウも、サトシと顔を見合わせるようにしてうなずいた。