駅に着くまでの道を注意しながら、でも、急ぎ足で通り過ぎた。道端に美矢と同じ位の女のコが数人ずつで散らばっているが、その中に美矢らしい姿はない。この時間、まだ人は多く、でも飲み屋以外開いていないので、取り敢えずまっすぐ家へと向かう。
(…のヤロ…。怒るぞ、終いには…。)
と思いつつ、自宅の最寄りの駅までがとても長く感じたリョウヤだった。半分、駆け足になりながら、家に向かう。その道中にも、美矢の姿はなかった。
マンションが近づいてくる。その角を曲がれば窓も見えてくる。
(…いるんだったら、いいんだけど…。)
が、角を曲がって少し失望。窓に灯りはなかった。マンションまで走り、ポケットから鍵を取り出しながら、部屋へ向かう。鍵を開けて中へ入るが、玄関に美矢の靴はなく、部屋の中にも人のいる気配はなかった。
(あれ…? いない…。)
部屋の中を一通り見て回るが、何処にも美矢の姿はなかった。トイレからバスルーム、果てはクロゼットの中と全部見て回る。
(ちょっと待て…。まさか…。)
ふと、思いついたように、受話器に手を伸ばす。慣れた手つきでプッシュした相手の受話器が外れる。
「あ、もしもし?」
受話器の向こうから、騒いでいるサトシ達の声が聞こえる。
「悪いけど、そこの金髪の奴、呼んで。」
『あー、ちょっと待って。』
さっきのウエイターの少年かわからないが、すぐにリョウヤだと気付いたようだった。少しして、コウが出る。
『もしもし?』
「あー、俺。そっちに…は戻ってないか、その様子じゃ。」
『え? まだなの?』
「うん。その内、帰ってくると思うから、俺、こっちにいるわ。」
『…そっかー。わかった。まー、しばらくはここにいると思うから、何かあったら電話して。』
「うん。じゃあ。」
心配そうに電話を切るコウに苦笑しながら受話器を置く。そして、湧いてくる苛立ちと焦りを押し殺して、美矢が戻るのを待っていた。
ジリジリと、ただ時間だけが過ぎていく。
(たかが女一人に、何をこんなに焦ってんだ…?)
と、ため息をつく。外から聞こえる音に耳をそばだて、部屋の中が白くなるほど煙草をふかしていたという。
一方、リョウヤと美矢がいなくなった店では・・・。(こっちの様子は後から、タケルとコウに聞いた。話の展開上、付け加えておく。)
「まー、飲めー。」
まだ騒いでいる、サトシを中心とする面々。この中心人物は、今日の主役を完全に喰ってしまっている。その事実に、誰も気付いていない…。
リョウヤが帰って、優に2時間くらいになる。彼らにしてみれば、心配は山々だけど、リョウヤが帰ったんだから大丈夫と思っていたらしい。が、前以上の騒ぎには発展していない。帰っていく仲間も多く、さっきの半分位の人数になっている。
「どーした?」
コウがタケルに言う。リョウヤと別れて店に戻ってから、騒ぎの中心からはずれ、コウとアキラの隣に座っている。
「ん? 別に。何でもないよ。」
グラスを開けるスピードも遅くなっている。それを苦笑しながら見て、
「美矢だろ?」
と、意地悪く言うコウ。
「え? 違うよ。」
慌てふためくタケル、身振りまで加えて否定する。
「いいって、別に照れなくても。俺だって気になってんだから。」
コウの発言に、タケルは一瞬動きを止め、力が抜けたようにため息をつく。その様子を見て、
「お前ほど重症じゃないけどね。」
と、コウが言う。アキラはククッと可笑しそうに笑っている。
「重症かなー?!」
「重症、重症。」
「全治半年くらいじゃないの?」
「そーかなー?」
と、3人が顔を見合わせて苦笑した時、店の電話が鳴った。ギョッと振り向く3人、それに少し遅れて目を向けるサトシとリュウ達。途端、シーンとなる店内。誰の目もカウンターの上の電話機に注がれていた。
その異様なムードの中、弾かれたようにさっきのウエイターの少年が受話器を取る。
「はい、……え? …あ、ちょっと待って。」
と、店内を見回す。タケルが勢いよく立ち上がって少年の方へ近寄る。
「さっきの人、だと思うけど。何か…、様子が変…。」
受話器をタケルに渡す時、少年が首を傾げて言った。
「もしもし?」
『あ、俺…。あいつ、そっちに行った?』
「…まだ、帰んねーの?」
タケルがそう言うのを聞いて、それぞれが顔を見合わせ、サトシがタケルのそばに行く。一瞬の内に酔いが醒めてしまったのは、サトシ一人だけではなかった。
『ん…。もう2時間くらい、経つだろ?』
「とっく。じゃ、こっちの方…。」
『え…、でも、いいよ。その内、帰ってくるかもしんないし。』
「何、言ってんだよ。そしたら、お前から電話が来るかよ。」
少し声を荒げるタケル。サトシがタケルの肩を掴む。
『……あいつ…、金、持ってねーと思うんだ、あんまり。だから、他の飲み屋とか、映画館とかに行けねーと思って…。』
少し沈黙してリョウヤが言う。いつになく弱気な声だったという。
「こっちはまかせとけ。」
『…悪い……。』
「何、言ってんだよ。お前らしくない。」
『見つけたら、一発、ブン殴っていいから。』
「おー、考えとくよ。」
受話器を置くタケル、フーッとため息をつく。
「何て?」
さっきまで騒ぎの中心にいたのが嘘のように、深刻な表情でサトシが言う。
「まだ、帰んないって。」
「まだ?」
ここは不夜城と言われるように真夜中だろうがなんだろうが、人間が多い。中には、とんでもない奴もいる。
「もう2時間は経ってるよね。」
「俺、通りの方、見てくる。」
コウがそういって、ジュンとアキラを伴って出て行った。
「じゃ、俺らは裏の方、捜そうか。」
とんだ飲み会になってしまったが、誰も不満そうな顔をしなかった。全員が一斉に出て行ってしまって、店の中は閑散としてしまったという。
「いた?」
首を振るコウとアキラ。大急ぎで飲み屋街へ戻って来たリョウヤは(勿論、自宅付近の心当たりを探し回った後)、サトシと駅前で落ち合い、少し先の角でコウ達と出くわしたところだった。(ここから、語り手はリョウヤに戻る。)
「店の向こうは、タケル達が散らばってる。」
「無事だったらいいんだけど…。」
「バーカ。縁起でもねーこと言うな。」
「あっち、行こ。」
また二手に分かれて歩き出す。周りに女のコは大勢いるけど、肝心の美矢の姿はない。コンビニを覗いたり、まさかとは思いつつ違う飲み屋に入ってみたり。でも、何処にもいないし、誰も見なかったと言う。
「何処、行ったんだろ…。」
「リョウヤ。」
タケル達が駆け寄ってくる。
「どう?」
「駄目。何処にも、いない。」
息を切らせている。すっかり酔いも醒めてしまったようだ。それは、リョウヤやサトシにしてみても同じで、かなり早いペースで飲んでいたにも係わらず、足元がふらついている奴は1人もいなかった。
「リョウヤさん。」
別の方向から、ケンタとジュンが走ってきた。
「あ、サトシさん達も、一緒だったんだ。」
苦しそうに息をしているケンタ。さっきまで寝ていたのを、ジュンが電話でたたき起こしたらしい。
「どーした?」
リョウヤが言うと、ケンタが思い出したように、
「あ、あっちで、そんな奴、見たって、奴がいて…。」
「何か、男が絡んでた、って。」
ジュンも息を切らしながら、そう言って咳き込んだ。
「野郎かよ。」
サトシが眉を寄せる。
「それ、確かか?」
タケルが言う。ジュンがうなずいて、
「俺のダチだから。情報源。」
「そいつら、どっちに行ったって?」
「あっち。」
ジュンがそう言って、打ち上げ会場だった飲み屋よりも駅に近い方を指さす。リョウヤ達は、また三々五々分かれ、美矢の姿を捜し始めた。