彼らと初めて逢ったのは、私が19歳、1つ違いの兄、ユーヤの葬儀の日だった。
199X年、秋。
ユーヤは、バンドの練習の後、バイト先に向かう途中で事故に遭った。金髪がかった髪をまだらに赤く染めて、冷たいアスファルトに横たわっていたという。
そっぽを向いてムッとしている父と、ただ泣くだけの母。それを横目で見て、ふと焼香客に目を向ける。ユーヤの仲間だったナル達が、うつむきがちに隅の方に、いたたまれない様子で立っていた。そんな彼らを、親戚連中が驚異の眼差しでジロジロと見ている。
「俺、バンドやるから。」
そう言って、家を飛び出していったのが、高校を卒業した18歳の春。頭の固い父と、大事に育てた息子の思いもかけない反乱に驚き戸惑っている母は、当然のように大反対、ユーヤは家出同然に出て行き、以来、2年間、一度も帰って来なかった。
ユーヤ達のバンドは、メジャーじゃなかったけど、ライブハウスを満杯にしてしまうようなバンドだった。観に行くたびに、ステージの上でギターを抱えて、ユーヤはとても嬉しそうな笑顔を見せていた。内緒で連絡を取り合っていたから、大体のことは知っていたけど、2日食べてないとかいろいろ聞いたけど、とても楽しそうだった。
公にはしなかったにも係わらず、50人くらい、ファンらしい子達が来てくれた。高校時代の、伸ばし始めた前髪をかきあげて笑っているユーヤの遺影。それを見て泣き崩れる女のコや、鼻を真っ赤にした男のコ。その一番最後に、彼らが遺影の前に立った。その長い金色の髪を見て、父がボソッと言った。
「何が、楽しいんだ…。」
視線が集まる中、さらに続けて、
「そんなことをしていて、何が面白いんだ。そんなことをする為に、育てたんじゃないんだ。」
自分本位なことを言う父だった。半分怒ったように、半分詰るように…。
(何、言って…。こんな時に言う台詞じゃないでしょ。)
カッとして、思わず席を立ちかけたその時、ツイッと顔を背けてしまう彼らの中で、ただ1人だけ、
「ユーヤさんの人生でしょ?」
と、毅然とした態度で言うコがいた。長い金髪の下のまだあどけない顔を見せながら、
「誰だって、自分の人生、自分で決めるもんですよ。」
他の1人が腕を押さえて止めるそばで、無表情に言った。騒然となりかけた会場に、線香をあげ一礼して帰ってゆく彼らの背中が、ひどく淋しそうで、目が離せなかった。
バンドはユーヤの死と共に解散し、それぞれがそれぞれの道を見つけて旅立って行った。
「だって、ユーヤがいないんじゃ意味ないじゃん。」
『どーして?』と問い詰める私に、ナル達はそう言って苦笑するだけだった。
それから3年程して、私も家を出、久々にユーヤと一番息が合っていたナルに逢った。
ナルは、今、バンド時代から世話になっているライブハウスの次期店長である。
「よぉ。」
ナルのいるライブハウス『M-BOX』へ初めて顔を出した時も、ナルは前と変わらない挨拶で迎え、変わらない笑顔を見せてくれた。
「ユーキももうOLかー。早いよなー。」
近況報告等、他愛ない話をしていて、ナルがポツリと言った。
「お葬式ん時、何か悪かったなーって思ったんだよ。悪者みたいに見られてたから。」
私がそう言うと、ナルがちょっと嬉しそうな顔をした。
「そう言えるようになったかー。」
意味がわからずナルを見ると、
「ユーヤが死んでから、ここ、来なくなったからさ。昨日の電話ん時も、内心、どうかなーって思ってたんだけど、そんな台詞が出てくるようなら、もう大丈夫だな。」
そう言って笑う、兄のような人だった。ユーヤが死んだ時も、ずっとそばにいて、励ましてくれた。あれから、もう6年が過ぎた。
「何とか、想い出になった。」
苦笑してみせる私を見て、ナルも苦笑を返してよこし、
「そーだよな。俺も、今は一般人だよ、一般人。」
と、自分の頭を指差した。あんなに長くしていた髪をバッサリと切って、スーツでも着てみれば、そこらの会社の営業マンに見える。
「そう言やーさ、葬式ん時、親父さんにタンカ切った、あいつら、覚えてる?」
「え? うん。覚えてる、覚えてる。だって、印象的すぎるもん。」
「あー、『自分の人生は…』ってヤツ?」
「そー。あの後、すっかりしょげちゃってね、『まだ20歳なのに、自分の人生を決められるまでになってたんだなー』って言ってた。反省してたもん、あのコ達にあんなこと言っちゃったこと。」
ナルがククッと苦笑する。
「そいつらがさ、今日、ここでライブすんだよ。」
と、ライブのチラシと彼らが載っている雑誌を見せてくれた。金色の髪を逆立て、キツい化粧であの日の面影はない。
「ここの常連でね。他にもいっぱいライブハウスなんてあるのに、何でか知んないけどここでしか演んないんだよね。」
残念がってる様子もなく、ただ嬉しそうに言う。
バンドの名前は、『α』といった。