──エピローグ──
「キャプテン、帰ってきたんだって?」
「キャプテン、帰ってきたんだって?」
なにをするでもなく、ただぼんやり
外の風景を眺めていたサキの背後から、声が飛んだ。
振り返るとそこに居たのはチナミだった。
おそらく、今回の行き先を
モモコかミヤビから聞いたのだろう。
モモコかミヤビから聞いたのだろう。
サキが「うん」と答えると、チナミは「どうだった?」
と彼女の隣に腰を降ろした。
「街道が開通したって聞いて
どうなってるか心配だったんだけど」
どうなってるか心配だったんだけど」
領民は明るく皆親切で、とても住みやすそうな、いい街だった。
観光客が増え、ごった返していたが
昔、ふたりで水路から城を抜け出し
遊びまわった街並みは、なにひとつ変っていなかった。
遊びまわった街並みは、なにひとつ変っていなかった。
サキはそう言うと、昔を懐かしむように笑みを漏らした。
「そうだ、チナミに教えてもらった
夕日が綺麗に見える丘にも行ってきたよ」
「あれ? キャプテン、行ったことなかったっけ?」
「あるよ、あるけど、いつも昼間だったじゃん」
夕刻までに城に戻ってなければ、大変な騒ぎになる。
夕日なんて見られるはずがない。
そう言って呆れ顔でチナミを突いた。
「あっ、それとチィのお父さんに、すっごくお世話になった」
それを聞き、チナミは自分のことのように
どや顔で胸を張った。
どや顔で胸を張った。
「『ウチの娘はどうしてますかな』って聞かれたから
『相変らずウザイです』つっといた」
すると今度は頬を膨らませ、サキの顔を覗き込んだ。
「ねぇ、なんでそういうコト言うの!」
サキはコロコロと笑い転げた。
顔を近づけるチナミの肩を、押し返す。
「ウソだよ。ちゃんと『いつも助けてもらってます』
って言っといたよ」
チナミの顔に、笑顔が戻った。
「そうだ、トリルって子爵、出世したらしいよ」
「はっ?」
サキは驚きの声をあげた。
アイリが拉致された一件は、表沙汰になっていない。
だから、処分されることはないだろうと思っていた。
──だが、よもや出世するとは。
「なんかね、代官に任命されたんだって」
「…そうなんだ」
「なんの代官だと思う?」
「そんなの、わかんないよ」
サキは表情を曇らせた。
あの一件については、アイリとの別れ際に
四人だけの胸に留め、決して誰にも話さないことを
誓い合った。
誓い合った。
だから、チナミは知らないはずだ。
知らないからこそ、子爵の出世話を笑って話せる。
だが、サキはそんな話、聞きたくなかった。
できるならば、知らずにおきたかった。
サキの思いなぞ構わず、チナミは笑顔で言った。
「鉱山のだよ」
「えっ!?」
唖然とするサキに、チナミは聞こえてなかったのと尋ね
「こ・う・ざ・ん」と一語一語、ゆっくりと発音した。
元々あの地は、良質の鉱石が取れるため、鉱山町ができ
それを求めて鍛冶屋が集まってきた。
その中に、著名な錬金術師が居たため
さらに人が集まり、有能な錬金術師が育った。
だからこそ、小国ながらも優れた武具を生産し
今の聖都が全土を統べるのに一役を担った。
今現在、鉱石は取り付くし鉱山は枯れ果てた。
代官といっても、なにもすることはない。
国を興した象徴として、名誉職として残っているだけだ。
つまり、子爵は閑職に回されたわけだ。
今後、政に関わることもないだろうし
これ以上の出世も見込めないだろう。
「なるほどね」
あの一件を表ざたにせず、子爵を処分する上手い方法だ。
それにしても──とサキは思う。
なぜ、チナミがそのことを知っているのか。
いくら早耳のモモコでも、貴族の人事までは知りようがない。
ミヤビは興味すら抱いていないだろう。
ひょっとすると、チナミはまだあの国と
繋がりを持っているのかもしれない。
サキがあの国に戻っていたことも、モモコやミヤビからではなく
その筋から聞いたのかもしれない。
だが、サキにはそれを責めるつもりはなかった。
もう王女と侍女という、関係ではないのだから。
チナミにはチナミの生き方がある。