関所まではモモコの馬車も兵が操るということで
三人は荷台に押し込められた。
団長を先頭に、数騎の騎馬が馬車を取り囲む。
荷台の中で、ミヤビはマーサの煎じた薬を飲んだ。
しばらくすると、体調が戻り
やっぱり他国の薬は身体に合わない
マーサの薬はよく効くねと、言って笑みを漏らした。
やがて馬車が停まった。
荷台には幌が掛けられており
外の様子はわからないが、関所に到着したのだろう。
そう思っていると、団長が突然、声をあげた。
「よし、ここで一旦、休息を取る!」
モモコの顔色が変わった。
「えっ、休息!?」
城から関所までは、歩いてでも十分、たどり着ける。
少なくとも、馬車が途中で休息を
取らなければならない距離ではない。
──ひょっとして、ウチら殺されるんじゃ。
「お前らも外に出ろ!」
兵の声が聞こえた。
ここは、人の通わぬ山中で、馬車を出た途端
切りつけられるのではないか。
たとえ領主が赦すつもりであったとしても
あの団長は違う考えを持ってるかもしれない。
──口を封じるには、葬るのが手っ取り早い。
そう考えても可笑しくない。
そんな想像が、モモコの頭をぐるぐる巡った。
そのことをサキに耳打ちすると
考えすぎだと即座に一蹴された。
だが、モモコの考えは変らない。
「だってさ、今、武器持ってないんだよ?」
国境を越えたところで返却する約束で
全ての武具を没収されていた。
「ひょっとすると、最初からそのつもりで没収したのかもよ?」
「そんなわけないって」
ウチら罪人なんだから当然でしょとサキは笑う。
だが、モモコにはそうは思えなかった。
「なにをしてる。早く出ぬか!」
兵の求めに応じ、外に出ようとするサキの袖を
モモコは引いた。
モモコは引いた。
「だって可笑しいじゃん。
休憩するだけだったら、馬車に居たっていいじゃん。
なんで、出て来い、出て来いって言うの?」
「う~ん、それはわかんないけど…」
唇を尖らせ眉を寄せる。それでも
「ホントに始末するつもりだったら
外、出ても出なくても一緒でしょ」
と言って、モモコの制止を振り切り顔を外に出した。
「あっ!!」
サキが驚きの声をあげた。
馬車からは降りず、すぐさまモモコの元に戻ってくる。
「ほら、やっぱり!」
モモコは身を硬くした。
そんな彼女の身体を、サキは激しく揺さぶった。
「違うって。いいから、モモも出ておいで」
明るい声で言う。
小刻みに首を振り、嫌がるモモコの身体を引っ張る。
あまりにもしつこく迫られるので
外を見るだけと言って、馬車から顔を出した。
「あっ!!」
モモコもサキと同じように声をあげた。
今度は、彼女がミヤビの元に舞い戻る。
「ミヤ、ちょっと外、行こ」
身体を横たえていたミヤビは
薄目を開けて苦しそうに唸った。
「ウチ、いいよ。ここで待ってる」
「そんなこと言わないで。
外、見たらビックリするよ」
怪我が辛いんだけどと渋るミヤビを
無理やり外に連れ出す。
外の景色を見た途端、ミヤビは驚きの表情を作った。
そこは、人も通わぬ山中なぞではなかった。