「じゃあ、ウチら行くから。
モモは家で待ってて」
手綱を振ろうとするミヤビを
モモコが「待って!」と制止する。
「もう、今度はなにぃ」
サキが顔をしかめた。
モモコは拗ねた表情を作り、口の中で
ゴニョゴニョとなにやら呟いた。
ふたりから聴こえないと怒鳴られ
今にも泣きそうな顔で声を荒げた。
「だったら、モモも行く!」
「はあ?」ミヤビは顔をゆがめた。
「でも、モモついてきたって、なんにもできないじゃん」
できないどころか、足手まといになりかねない。
それに、万が一城兵に捕まってしまった時を
考えると誰か残っていた方が、なにかと都合がいい。
だが、モモコの決意は固かった。
一緒に行くと言ってきかない。
「だってアイリ、モモの大切な友だちだもん。
モモが行かなきゃ。行って助けなきゃ」
「そんな無理言わないでよ。
ここはキャプテンとアタシに…」
「わかった」
サキがミヤビの言葉を遮る。
すぐさま馬から降り、荷台に向かう。
炎の刃を手に取りモモコに差し出した。
モモコはひとつ頷き、剣を取った。
「えっ、連れてくの!?」
驚くミヤビに、サキは微笑んだ。
「今回はね、モモが行った方がいいと思う。
ううん、行かなきゃダメ」
「ありがとう、キャップ」
囁くように言うモモコに、サキは静かに瞳を閉じ
首を振った。
「そうだ、だったらチェーンメイル
モモが着た方がいいよね」
元々モモのだし、とサキはチェーンメイルを素早く脱いだ。
「ねえ、今日ピクニックに行かなかったのと
関係あるの?」
モモコが着込む間、ミヤビが質問した。
サキは困ったような表情で首を傾げた。
「う~ん、あるっちゃ、あるんだけどねぇ」
「なに、あの子となんかあったの?」
「あったといえばあったし、でも向こうは
なかったことにして、て言ってるし」
「もう、意味わかんない!」
ミヤビは難しいこと考えると頭が痛くなると言って首を振った。
準備が整ったとモモコが告げる。
「その話はまた今度ゆっくりね」
モモコを後ろに乗せ、サキは走りだした。
頭痛が痛いと呟きながら、ミヤビはその後を追った。
「モモ、あれから考えたんだけど」
城に向かう道中、モモコはサキの背中に語りかけた。
「アイリ、きっと寂しかったんだと思う」
錬金術の大家に才能を見出されてからというもの
親元を離れ、ずっと修行に明け暮れていたのだという。
そして、その師匠も数年前に亡くなり
今は独りで生計を立てている。
「モモにはキャップやミヤ、それにみんなが居てくれるけど
アイリには誰も居なかったんだよね」
アイリの側にも、たくさんの人々が集まってくる。
だがそれは、彼女の名声に──名声だけに群がる
魑魅魍魎でしかない。
「モモね、ずっと、ずーっと考えたんだ。
でね、今朝キャップが言ったこと
少しだけ判った気がする」
サキはなにも応えなかった。
だが、それがかえって安心感を与えてくれる。
モモコは喋り続けた。
「だからね、モモ思ったんだ。アイリは独りじゃない。
独りじゃないんだよって。それをわかってもらうには
やっぱり、モモが助けに行かなきゃダメなんだって」
昨日今日、出会ったサキたちではなく
いつも危険と隣合せなハンターという立場にある
ふたりではなく、この自分が、アイリのことを
一番大切に思っているモモコ自身が
命を懸けて救い出さなければ──
「もう着くよ」
サキが口を開いた。
モモコは、小さいけれども大きなサキの背中を、ギュッと抱きしめた。
その23 その25