サキはモモコの馬車の近くに繋がれていた
馬に飛び乗った。
ミヤビもその隣の馬に飛び乗る。
ありがたいことに、鞍が取り付けられていた。
「ミヤ、モモ連れて来て」
いち早く道に飛び出したサキが叫ぶ。
「わかった!」
ミヤビは速度を落さず、砂煙に巻かれ立ち尽くす
モモコを抱き上げ、そのまま自分の前に座らせた。
しばらく走らせると、四つ角で立ち往生する
サキの姿があった。
「どっち行った?」
ミヤビが尋ねるとサキは首を振った。
「わかんない、見失った。
モモ、城まで案内して」
「お城?」
「アイツ、貴族なんでしょ。
なんでもいいから、早く!」
直接、自分の領地へ向かうことも
考えられるが、もう日が暮れる。
一旦、城内の屋敷に連れ込む可能性が高い。
「えっと、こっち」
モモコが指差した。
ミヤビは馬を指した方向に向けたが
サキが「ダメ!」と大声をあげた。
「なんで、こっちが近道だよ?」
モモコが金切り声で言うが、サキは首を振った。
「さっきの馬車見たでしょ、この道じゃ
細くて通れないって。
もっと、ちゃんとした馬車道で案内して!」
「そっか…じゃあ、こっち!」
サキが頷くのを確認し、ミヤビはその方向に
馬を走らせた。
激しく揺れる馬上で、モモコは舌を
噛みそうになりながら「こっち…あっち…次、左」
などと指示を出した。
だが、なかなか追いつくことができない。
白い城壁が間近に迫っているにも関わらず
馬車の姿は見えなかった。
焦りと苛立ちの中で、ひょっとすると
城ではなく領地へ向かったのではないか。
そんな考えが頭に浮かぶ。
「あっ、ここ右、右! 右だって!!」
四つ角に差し掛かる直前に言われたため
ミヤビは曲がれずそのまま直進して止まった。
「ねぇ、もっと早くに言ってよね!」
「だってぇ…」
急いで反転し来た道を戻る。
そして四つ角を右に折れた。
「違っ、ミヤ、逆、逆だって!!」
「えっ、右って言ったじゃん」
「通り過ぎたんだから、今度は左でしょ」
「あっ、そっか」
「ちょっとぉ、しっかりして!」
言い争うふたりの背後から
サキの「居た!」という声が飛んだ。
振り返ると馬車が次の四つ角を左に
折れるところだった。
そこは坂道になっており、登りきると城の裏手に出る。
そして、そこには物資を搬入する城門がある。
「ミヤ、急いで!」
「わかってるって」
ミヤビは必死で手綱を振るった。
その20 その22