寝室の窓から、西日が差し込んできた。
今日一日、ずっとベッドで横たわっていた
ミヤビは、眩しそうに目を細めた。
わずかだが、家のどこからか気配を感じる。
アイリが工房から戻ったに違いない。
モモコの話だと、昨日はサキと共に
日暮れに戻ると、すでにアイリが
夕食の準備をしていたということだ。
工房の外で居眠りしてしまい
やすやすとアイリに逃げられてしまったが
あれは彼女が上手く気配を消していたからだ。
だが料理を作るために歩き回れば
さすがに気配を消し去ることは難しい。
──アタシだってハンターの端くれ。
少しでも気配を見せれば、眠ってたってわかるんだ。
ミヤビは声を押し殺して笑った。
そっとベッドを抜け出す。
身体の節々が痛い。
声をあげそうになるが、相手に
気取られては元も子もない。
ぐっと堪える。
棍を杖代わりにして廊下を進む。
どうやら気配は食堂辺りから感じるようだ。
きっと厨房と食堂を行き来してるに違いない。
動くたびに悲鳴をあげそうになる痛みと
戦いながら、ミヤビは食堂にたどり着いた。
息を殺し、扉をそっと開ける。
中の様子を探ろうと隙間から
盗み見たミヤビだったが
次の瞬間、大きく扉を押し開いた。
「えっ、もう戻ってたの?」
食堂に居たのは、サキとモモコのふたりだった。
ふたりは一旦、ミヤビに顔を向けたが
浮かない表情でため息をつくと
すぐにうつむいた。
「行かなかったの」
低いトーンでモモコが言う。
「なんで? モモ、今朝はあんなに
はしゃいでたじゃん」
サキが疲れた顔を上げた。
「まあ、色々あって…」
あまりの落ち込みように、ミヤビは
ふたりが心配になった。
いったい、なにが起こったのか。
詳しく尋ねようと思ったのだが
そこでひとつの疑問が頭に浮かんだ。
「えっ! てことは、ふたりともずっと
家に居たってこと?」
ずっとこんな調子だけどねと言いながら
ふたりは力なく頷いた。
ミヤビはガックリうな垂れた。
ふたりとも終始おとなしくしていたとはいえ
完全に気配を消していたわけではなかった。
そもそも、安全な家の中で気配を消す理由などない。
にも関わらず、ミヤビは気づかなかった。
ベッドの中でスヤスヤ眠り込んでいたのだ。
己の迂闊さに、全身の力が抜けた。
「どうしたミヤ。まだ痛む?」
サキが立ち上がり心配そうに身を
乗り出したが、ミヤビは首を振った。
「なんでもない。
ウチのことはほっといて」
その18 その20