「これ、なんなの?」
しかめっ面でサキが石を指差した。
ミヤビも腕を組み、不信そうな視線を送っている。
モモコはふたりの顔を見回し、たっぷりためた後
披露するように両手を大きく広げた。
「これねぇ、実は、オリハルコンの結晶なんです!
しかも、純度七六パーセントだよ」
ふたりの目つきが変わった。
顔を近づけ、石をまじまじと見つめる。
不純物が二四パーセント「しか含まれていない」のか
「も含まれている」のか、その辺りの凄さは
わからないが、本当にオリハルコンの結晶なら
確かに珍しい。
サキが指先で石を擦ったり
その指先を見つめたりしている。
ミヤビは持ち上げようと手を添えたが
しばらく戸惑った後、思い直して手を引っ込めた。
オリハルコンと告げられると、ただの石ころが
急に崇高な物に見えてくるから不思議だ。
「これ、どうしたの?」
「ん? 買ったんだよ」
高かったんじゃないかとサキが尋ねると
モモコは真剣な表情で頷いた。
「こんな掘り出し物、滅多に出ないよ。
かなり安く譲ってもらったんだけど
それでもけっこうしたよ」
そんな大金、よく持っていたねと言うサキに
モモコは視線をそらし、瞬きを繰り返した。
そして、なんでもないような口調でさらりと言う。
「あのね、ファイティン城で貰った、氷の刃あったでしょ。
あれをね、売ったの」
「えーっ!!」
サキが大声をあげた。
驚いたミヤビが顔を向ける。
彼女も遅れて絶叫した。
「売っちゃったのぉ!?」
気まずそうにそっぽを向き、モモコは曖昧に頷いた。
サキが肩を落とし抗議の声を漏らす。
確かに、あの剣はモモコが貰った物だ。
だが、魔物を退治した報酬の一部という
考え方もある。
所有権は彼女にあるだろうが、それを勝手に転売するとは。
同じように杖を貰ったマーサが、リサコのために
大切に保管していたことを考えると、雲泥の差だ。
せめて、安値で買い叩いておけばよかったと
サキはその場に崩れ落ちた。
「まあまあ。そんなに落ち込まないで、キャップ。
どうせあの剣じゃ、トクさんしか使えないでしょ」
魔法の剣は、魔力がなければ使うことができない。
リサコも魔力、それも水の魔力が強かったが
彼女では剣を使いこなすことなど無理だろう。
「そこで、このオリハルコンですよ」
モモコは笑顔で石に両手を置いた。
小指が立っていたことはいうまでもない。
ブルースピネルと合わせ
新たな剣を創るというのだ。
オリハルコンは、魔力をため込むことで
魔力のない者でも、魔術を使うことができる。
難点は、ためるのに時間が掛かることだ。
炎の矢や氷の矢などの魔法の矢じりは
微量のオリハルコンが含まれているが
一度使うと半年から一年経たなければ
効力は戻らない。
純度の高いオリハルコンで創られた剣でも
魔力をため込むまで、最低半日は掛かる。
また、かなり重く使い勝手が悪い。
かつて、勇者が振るった剣として名を馳せた
オリハルコンだが、今では祭事など
儀礼的な場でしか使われなくなった。
それを、ブルースピネルと混合することで
誰でも扱いやすい氷の刃を創ろうというのだ。
「キャップやミヤでもブリザードが使えるんだよ。
ねっ、いいでしょ?」
「でも一回使ったら、しばらく使えなくなるんでしょ。
どれくらい掛かんの?」
サキの問いに、それは錬金術師の
腕次第だと答える。
ただし、伝説の錬金術師を
知っているのだと付け加えた。
その2 その4