隣町へ向かう道中、モモコとリサコは
一切、口を利かなかった。
夕闇が迫る中、トボトボと足を進める
リサコの背中を目標に、着かず離れず
まるで尾行でもするように、モモコは後を追った。
町外れに差し掛かる。
辺りは一面、麦畑が広がり、隙間を埋めるように
民家がポツリポツリと点在している。
鳥の居なくなった大空にコウモリが一匹
我がもの顔で舞っていた。
モモコは足を止めた。
少しずつ遠ざかるリサコの姿を目で追う。
大きくひとつ頷き、駆け足でリサコを
追い抜くと前に回った。
突然、目の前に現れたモモコに驚き
リサコは立ち止まった。
「リサコ、サーミヤ捕まえよ!」
「……捕まえる?」
怪訝そうにモモコを見つめるリサコに
モモコはそうだよと言って腕を抱いた。
「病気は薬で治るし、あれぐらいの魔力だったら
遠くに離れたら呪いも効かなくなるのね。
だからね、捕まえて遠くに連れてっちゃうの。
誰も居ないような、山奥に逃がすのよ。
そしたら、退治しなくても済むから」
一気にまくし立てるモモコに
リサコは唖然となった。
モモコは「聞いてる?」と言って
リサコの身体を揺さぶった。
「……退治しなくて…いいの?」
「そうだよ、しなくていいの」
「ホントに?」
モモコは真剣な表情でしっかり首を縦に振った。
そこでようやく、リサコの顔に笑みが浮かんだ。
「モモ、凄い!」
「凄いでしょ? こんなの誰も思いつかないよ。
やっぱモモって天才なのかも! ウフフ」
ふたり手を取り、飛び跳ねながらはしゃいだ。
「でも…」リサコがふと視線を落とした。
「そんなことしたら、キャプテンに叱られないかな」
不安そうなリサコの顔を見上げ
モモコは胸に手を置いた。
「大丈夫、モモが責任取るから。
リサコは心配しなくていいよ」
そう言い聞かせると、リサコは
はにかんだような表情で頷いた。
が、今度はモモコが顔を伏せる。
「ただね、ひとつだけ問題があるのね」
「えっ、なに!?」
リサコの表情が曇る。
モモコは唇を尖らせ上目遣いでリサコを見た。
「サーミヤをね、遠くへ連れてこうとしたらね
ほら、やっぱり呪われちゃうでしょ。
そんなのヤじゃん。だからね、どうやったらモモ
呪われずに連れてけるか、わかんなくて」
モジモジしながらモモコが言う。
リサコは腕組みをして冷ややかな視線を送った。
「もう、だらしないなぁ」
「だってぇ…」
「しょうがない、それはアタシが行ったげる」
「ホント?」
「ちゃんと、責任持って逃がしてくるから」
「ありがとう~、リサコ!」
手を叩いて喜ぶモモコに
満面の笑みでリサコは応えた。