「なんでって…」サキの顔に不快感が表れる。
「自分の家なんだから、居たって可笑しくないじゃん」
「いや、可笑しいでしょ。だって…」
今夜サキは農園の監視に行っているはずだ。
夜明けまで帰ってくるはずがない
ある条件を満たさない限り。
「まさか!」
チナミの瞳や口、鼻の穴から毛穴まで
顔中の孔という孔が大きく開いた。
ほぼ同時に、ミヤビもある結論を導き出していた。
よろけるようにして前に出ながら
ふたり揃って声を発する。
「ゴブリン捕まえたの?」
サキはチナミとミヤビの顔を順に見た後
無表情のまましっかり頷いた。
これで今夜なんの成果も出していないのは
チナミとミヤビだけとなった。
見返してやるどころの騒ぎではない。
ふたりは惚けた表情のまま、その場に膝から崩れ落ちた。
「そんなことよりさ、どうなったの、女の子」
サキが声を荒げる。
どうやら、事のあらましをリサコから聞いたらしい。
自分も探しに行くつもりだったが、リサコの説明では
場所がわからず、案内させるには
あまりにも遅い時間だったので断念したとのことだ。
「マイちゃんなら大丈夫。見つかったよ」
口を開く気力もなくしたふたりに代わってマーサが応えた。
サキは胸に手を当て、よかったと言って息をついた。
モモコが満面の笑みを浮かべ、盛んに自分の顔を指差す。
「モモ。モモが見つけたんだよ」
横目で覚めた視線をモモコに送りながら
サキはマーサの耳元に近づいた。
「そうなの?」
「まさかでしょ。でも、そうなんだよ、これが」
そうなんだと頷きながら、サキは面倒そうに手を叩いた。
しゃがみ込んでいたチナミが、サキの袖を引いた。
「ねえ、ゴブリンってどうやって捕まえた?
罠に掛かったの?」
自分が仕掛けた罠が役に立ったのなら、まだ救われる。
一縷の望みを求めチナミは尋ねた。
が、サキは静かに首を振った。
「いや、矢を射って捕まえた。こうやって、ピュ! って」
そう言いながら弓を構える仕草をする。
チナミはガックリ肩を落とした。
ミヤビと慰めあうように互いの肩を抱く。
「こっちも捕まえたよ、ゴブリン」
マーサはそう言うと、落ち込むふたりの背後に
屈みこみ肩を抱いた。
「ウチら三人でね」
チナミとミヤビは弾かれたように頭を上げた。
驚きの表情でマーサに顔を向ける。
サキが凄いじゃんと言って身体をのけ反らせた。
「えっ、ウチらなんにも…」
困惑気味に呟くミヤビをマーサが遮る。
「みんなで探して捕まえたんだし、それでいいじゃん」
「でもぉ」
「いくらなんでも、それは…」
チナミとミヤビは顔を曇らせた。
ゴブリンを捕まえたのは、マーサひとりでなのだ。
「私たちがやりました」と声高らかに宣言できるはずがない。
だが、マーサはふたりの顔を交互に
覗き込みながら、顔を歪めた。
肩を抱く手に力が入る。
「そんなさぁ、ウチだけ仲間はずれにしないで、入れてよね」
そして片頬を上げて笑みを作った。
「スッペシャルな仲間にさ」
── 完 ──