マイが襲われ、服を奪われたのではなかったようだ。
一斉に皆の口から安堵の息が漏れた。
だが、他にも魔物がいないともかぎらないし
夜の森には様々な危険がある。
「よし、捜索を再開しよう」
男のひとりがそう言って手を叩いた。
彼女らとしては、魔物を捕えるという本来の仕事は果たした。
マイの捜索は、応援を頼んであるから
アンタらは帰っていいよと言われたが
チナミらにそのつもりはなかった。
そもそも、あの四つ角で出会ったときに
マイを引き止めなかったことが事の発端だ。
責任を感じずにはいられない。
「ん? 誰か来てんじゃない」
マーサが指差した。チナミが光の玉を向ける。
暗い道をトボトボとこちらに向かってくる影があった。
強い光に照らされ、下を向いていた顔が上がった。
ミヤビが声をあげた。
「モモじゃん! えっ、なんでモモが居んの!?」
「あーっ、忘れてた!」
チナミが叫んだ。
小屋にモモコを押し込んだことを
すっかり忘れていたのだ。
こちらに気づいたモモコが駆け出した。
だが、いつものなら肘を腰につけ
小指を立てながら前後に揺らす腕が見えない。
走り方もなんだか重々しい。
近づいたモモコをよく見ると、背中になにか背負っていた。
「マイちゃん!」
ミヤビが手を口元に当て声をあげた。
モモコの背中には、寝息を立てるマイの姿があった。
杖を突きながらウメばあさんが近づいた。
モモコの背中からマイを受け取る。
愛おしそうに、マイの頬を撫でた。
「もう、怖かったんだから!」
モモコが涙目で訴えるように言った。
「いつまで待ってもトクさん来ないし
光の玉は暗くなっちゃうし…」
べそをかくモモコの身体を、ミヤビが揺すった。
「そんなことより、マイちゃんどうしたの?」
「どこで見つけた?」
「どうやってここまで来たの?」
次々に質問を浴びせ掛けられ、モモコは困惑した。
「もう、みんな一旦、落ち着いて!」
モモコがマイを見つけたのは
あの小屋の洋服タンスの中だった。
「なんかね、タンスん中から音がしたのね。
ゴブリンだったら捕えないといけないじゃん。
ここは、モモがガンバんないとって思ってさ」
提げた剣をスッと抜いて構え、鋭い視線を左右に巡らせる。
勇ましい武勇伝を再現したいのだろうが
腰が引けていて様になっていないのは、ご愛嬌だ。
「バッって開けて、ガッって切り込もうとしたら…」
頭上高く剣を振り上げる。
が次の瞬間、力なく剣を下ろした。
「この子が居たの」
そう言って剣を握ったまま、小指でマイを指した。
その後、気持ちよさそうに眠るマイを膝に抱えて座り
チナミが戻るのを待っていたのだが
いっこうに戻ってくる気配はないし
光の玉は魔力を失い暗くなっていくわで
小屋を出る決心をしたのだという。
「ホントは来た道、戻るつもりだったんだけどさ…」
間違って逆に進んでしまったらしく
いつまで経っても森を抜けない。
弱り果てているところに光が射し、慌てて駆け寄ったのだ。
「ウチ、あの小屋覗いたんだけどなぁ…
そっか、タンスの中かぁ」
そう呟いてミヤビは大きなため息をついた。