不安げに辺りを見回しながらしばらく待っていると
木陰からユリナの顔が現れた。
一旦、口元に人差し指を立てた後
「こっち来て」と唇を動かし手招きする。
リサコも同じように口元に指を当て頷いた。
音を立てないよう、ゆっくりと近づく。
「あれ見て」
ユリナの示す先に、大きなフェニックスの巣があった。
クークーと腹の虫が鳴るような音がしたかと思うと
巣の上から棒状のものがひょいと現れた。
「えっ、あれってひょっとして…」
「そう、フェニックスの雛」
ユリナはそう言った後、この時期だと
雛というより若鳥かなと言い直した。
フェニックスの若鳥は頭を右に左にと振り向け
覚束ない足取りで立ち上がった。
そして、大きな翼をはためかせた。
「飛ぶ? 飛ぶのかなぁ」
「さぁ……あっ!」
ユリナが叫び声を上げた。
若鳥がよろめき倒れたのだ。
姿が見えなくなり、ふたりは心配したが
しばらくすると巣の上から頭を現した。
クークーと心細い鳴き声を上げる。
「怪我してるのかな」
「うーん、そうかもしれない」
距離がある上に巣は木の高い位置にある。
頭と時おり羽ばたく翼しか見えず、様子はわからなかったが
群れから取り残されたということは、可能性が高い。
「そうだリサコ、キャプテン呼んで来てくれる?」
とにかく、ふたりだけではなにも判断できない。
ユリナは絵図を広げ、この辺りに居るはずだからと指し示した。
リサコは黙ったまま首を縦に振った。
そして巣に目をやったまま後退り
見えなくなったところで一気に駆け出した。
太陽と頂の位置を確認しながら、野山を走る。
途中、山菜取りを楽しむ親子連れを見かけ、すれ違いざまに
「フェニックス居た!」
と声を掛けたのだが、早口のせいで
聞き取れなかったのか
「そうかい、良かったねぇ!」
と背後から返事が聞こえ
リサコは足を踏み外しそうになった。
どのくらい走り回っただろうか。
二手に分かれてから、それほど経っていないにも関わらず
サキたちの姿は、なかなか見つからなかった。
──もうダメだ、走れない。
そう思ったその時、藪の向こうから聞き覚えのある
豪快な笑い声が聞こえてきた。
マァさん、笑いすぎだって。もうひとりがそう応える。
ようやく見つけた。ママとキャプテンだ。
最後の力を振り絞り、脚に力を込める。
リサコは転がるようにして、藪の中へと突っ込んだ。
「わわわわっ! いったぁ~い!」
藪を抜け獣道に頭から転げ落ちる。
手や足には擦り傷を作り、頭には大きな瘤が出来た。
「びっくりしたぁ」サキが胸に手をやり息をついた。
「リサコ! なにやってんの」マーサが手を差し伸べた。
「出た!」リサコはふたりを睨みつけた。
「なにそれ、こっちの台詞じゃん」
マーサが顔を曇らせながら、手を掴もうとしないリサコの腕を取り
強引に立ち上がらせようとする。
確かに、サキやマーサからすれば
突然出てきたのはリサコの方だ。
「違うんだって、ホントに出たの、フェニックスが!」
「えっ」
サキとマーサは顔を見合わせた。
そして困惑した表情を作る。
大粒の汗をかき、土に汚れ、相当面白くなっているリサコの顔に
サキはにこりともせず顔を寄せ、呟いた。
「マジ?」