Berryz Quest 第参話 ──その2── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

「凄ぉい」

真っ白なクロスの掛かったテーブルに並べられた料理を目の前にし
リサコは思わず声を上げた。

湯気の立つスープに、ほうれん草が添えられたカリカリのベーコン
それにエッグスタンドに立てられたゆで卵。

どれも一度は口にした事のある食材だったが
なぜかまるで違う食べ物のように感じてしまう。

「さっ、食べよ」

チナミに促され向かい合わせに席に着く。
スープをひと口すすり、パンに手を伸ばす。

「なにこれ!」

まず掴んだ感触に驚き、口に含んでそのやわらかさに二度驚く。

「焼きたては、そんななんだよ」

カチカチの固いパンしか食べたことのない

リサコにとっては、衝撃だった。
モチモチした食感に、思わず口元がにやけた。

ほんの少し首を傾け息をつく。

「ホント、凄いね…」

「そーだよねぇ、ウチなんて何年ぶりだろ、こんな料理食べたの」

「違うよ」リサコは上目遣いでチナミを見つめた。

そして手をまっすぐ差し出す。

「料理のことじゃなくて、凄いのはチィさん」


「え!?」

チナミの表情が固まった。すぐに照れたような笑顔になると
揃えた四本の指を口元にあてがった。

「ウチ、凄くなんかないよ…それになに、その変な呼び方」

初めて出会ったときには「チナミさん」と呼んでいたのが
しばらくすると「チナミちゃん」と呼ぶようになっていた。

そして今回の仕事、ふたりでグール退治することが

決まったころには「チィちゃん」になっていた。

呼び名の変遷は、リサコのチナミに対する気持ちが

近くなった証でもあった。

そして今、「チィさん」へと変わった。
これはチナミへの心の距離が離れたからではない。
リサコは尊敬の念を込めて、そう呼ぶのだ。

「ううん、凄いよやっぱ。チィさんは」

謙遜するチナミに、リサコは目を伏せ首を振った。

依頼のあった村に着いてからというもの、リサコはチナミに対し
「凄い」しか言っていないような気がした。




初めて「凄い」と呟いたのは、チナミが魔法陣を創るのを見た時だった。

杖を突き立てできた魔法陣に、砂をまいて定着させる。

それが一般的なやり方だが、チナミの創る魔法陣は

大きくて中心からでは砂をまくことができない。

二人一組で創るんだろうと、リサコは魔法陣に近づいた。
だがそこで信じられないようなことが起こった。

チナミがその場から離れたのだ。

にも関わらず、杖はなんの支えもないまま立っている。
魔法陣の光は絶えることなく、チナミ自身が歩き回り定着させている。
そして完成と同時に、杖は自然に倒れた。

それは、かつてオリーブ畑で見たゴブリンを

捕える罠の魔法陣と同じものだった。

「……凄い」

「えっ、なに?」

リサコの呟きが聞こえなかったらしく

杖を拾い上げながら、チナミは耳に手を当てた。
リサコはチナミの元まで駆け寄り、手を取って飛び跳ねた。

「凄いよ! こんなの見たことない」

全然凄くなんかないよと、チナミは手を振った。
マーサに教えてもらった罠だし

凄いのは彼女だと言って、照れたような笑みを作る。

そんなことはないと、リサコは首を振った。
実は彼女も罠の作り方を教わっていたのだが

一度として成功したことはなかった。

手本を示してくれるマーサにしても、チナミの創る魔法陣の半分
──手を伸ばせば境界線まで届くぐらい──の大きさしか創れない。
それに定着させるまで杖から手を離すなど一度もなかった。


「なんで、そんなことができるの?」

リサコが尋ねると、チナミはなんのことかわからない様子で

きょとんとしていたが、杖から離れたにも関わらず

魔法陣が消えなかったことだと言うと

「あー、あれね」と笑顔を見せた。
「ウチのパパが魔兵団に居たからね、教えてもらったの」

ある程度大きな国なら、必ずといっていいほど魔兵団を組織している。
皇帝の統治が安定している今の世には必要ないのだが
未来永劫、太平の世が続くとは限らない。
優れた技能を継承し有事に備えるためには、日々の鍛錬は欠かせないのだ。

その魔兵団とさっきの技とどう関係があるのか
リサコにはよくわからなかったが、それでも

「そうなんだ、凄いねぇ」

としきりに首を振った。

「凄くなんかないって。あれって、杖に魔力を溜め込んで

 その場所に定着させてんだけど

 マーサに『砂まけば簡単に定着すんだから魔力の無駄遣いだよ』

 って言われちゃった」

そう言ってチナミは苦笑いを浮かべたが

あれだけ大きな魔法陣を定着させるのに
どれほどの魔力が必要か

知識の乏しいリサコでも想像はついた。
マーサの言う「魔力の無駄遣い」とは

まさにそのことを指しているのだ。

「いやいやいやいや、チィちゃん凄いよ」

父親が魔兵団に属していたというだけでも

リサコにとっては雲の上の話だ。
改めてチナミという魔術師の凄さに感嘆の声を漏らした。



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