Berryz Quest 第壱話 ──その7── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。


結局、機能していた罠は約半数の六つだけだった。
その位置とこれまでの目撃証言を踏まえ、今夜の監視場所をミヤビが決める。
選んだのは山の中腹、オリーブ畑がほぼ見渡せる草むらだ。
当然のことながら、罠の生きていた収納庫などは死角になっている。
 
ふたりは並んで座り、畑の監視を始めた。
しばらくして依頼人らしき初老の男が
差し入れだといってブドウ酒とパンを持ってきた。
なにか必要な物はと訊ねる男に、今日はなにもいらないとミヤビが答える。
すると男はそのまま立ち去り、二度と現れなかった。
 
ミヤビが言うには、監視場所が岩場だったり冷え込みそうな夜の場合
毛皮の敷物や毛布などを持ってきてくれるとのことだ。
 
「それ、なに?」
 
リサコはミヤビの手元にある長い棒を指差した。
 
「これ? 昆っていうの。遠い異国の武器」
 
そう言うとミヤビは昆を持って立ち上がった。
長さは彼女の背丈を少し超える程度。
ミヤビはそれを右に左にそして背中にと
器用にくるくる回転させながら振り回した。
最後に一歩踏み出し、えいとばかりに力強く突く。
 
「どう?」と笑いかけるミヤビに、リサコは手を叩きながら感嘆の声を上げた。
 
が、サキから「ミヤは剣の使い手」と教えられたことを思い出し、それを話すと
 
「ゴブリン程度だったらこれで充分。刃物なんて無粋だよ」
 
と言ってミヤビはすとんと腰を落とした。
そうなんだと呟いたリサコだったが

実のところ言ってる意味はよくわからなかった。


「リサコはあそこの小屋から左側ね。ウチは逆っ側を見てるから」
 
ミヤビの指す先を真剣に見つめながらリサコは頷いた。
気持ちを引き締めるように口元をぎゅっと絞る。
 
クロスした脚を抱きかかえ、足元から肩に昆を立てかけて座るミヤビを真似て
リサコはマーサから借りた杖を肩に立てかけ同じ姿勢をとった。
そうすることで、自分も彼女のように強くなったような気がした。
 
あたりはどっぷり暮れていた。見上げれば降ってきそうな星空
眼下には月明かりに照らされ、さわさわと風に揺れるオリーブの木々。
あまりに美しい光景に仕事を忘れ、リサコは思わず目を細め微笑んだ。
 
「リサコ」
 
「なに?」突然、話しかけられリサコは表情を引き締めた。
 
「眠いんじゃないの? だったら先に寝ていいよ」
 
どうやらぼんやりと風景を眺めているさまが、ウトウトしているように映ったらしい。
リサコはかぶりを振った。
 
「平気。ミヤこそ、ずっと寝てないんでしょ」
 
「ウチは大丈夫。マァから貰った薬があるから…」
 
と、そこまで言ってミヤビは「あっ」と声を上げた。どこだったっけと懐を探る。
小さな包みを取り出し、早めに飲んどかないと効かないからと
薬をブドウ酒で流し込んだ。
ごくりと喉を鳴らすミヤビに、リサコは話しかけた。
 
「じゃあさぁ、お話しない?」

 
「いいよ、なに話す?」
 
「ミヤはさぁ、なんでハンターになったの?」
 
「うーん……」
 
ミヤビは唸ったまま黙り込んでしまった。
あまりにも長い沈黙に、リサコが顔を向けた。
すると彼女はリサコを一切見ることなく「監視!」とオリーブ畑を指差した。
リサコは慌てて視線を戻した。
 
「惚れちゃった…のかな、サキちゃんに」
 
「えっ!?」
 
ついさっき注意されたばかりだというのに
リサコは思わず顔をミヤビに振り向けた。
だが、ミヤビは顔を戻せとは言わなかった。
ちらりとリサコに目を向けすぐに戻した。
 
「そんな顔しないでよ。変な意味じゃなくって、人柄とかそういうのにだよ。
 あとチィとかぁ、バックアップしてくれる
 マァやモモやそれとクマイちゃんとか。
 こう、なんて言うの? 一緒にいると楽しいんだよね。
 みんな仲間だなって思ったり」
 
ミヤビは言葉を選ぶように、ゆったりとした口調で続けた。
 
「ウチさぁ、別にハンターになりたかったわけじゃないんだよね。
 たまたまサキちゃんに一緒にやんないって誘われたからなっただけで
 もしマァに誘われてたら、今のリサコみたいに店手伝ってたかもしれない」
 
「お薬屋さんの?」
 
「自分で商売始めてたかも知れないけど。とにかく、居心地がいいんだよね
 みんなといると。だからハンターになった…っていうよりここにいる、みたいな」


「仲いいんだね」リサコが言うと
 
「ウチがこんなこと言ってたなんて、みんなには言わないでよ」
 
とミヤビは照れたような笑顔をリサコに向けた。
が、すぐに不機嫌な表情になり、ぷいと顔を背けた。
 
「もう! ニヤニヤしてないで、ちゃんと監視してよね!!
 遊びに来たんじゃないんだから、まったく…」
 
リサコは舌を出して首をすくめた。正面に目を戻す。
どうやら、ミヤビには馬鹿にしたような顔に映ったらしい。
 
──そうじゃないのに。ワタシもその仲間に入れるかなって思っただけなのに──
 
訊きたかったがリサコは訊かなかった。
本当の仲間なら、そんなことは口に出さなくてもわかるようになるはずだから。
 
月明かりに照らされたオリーブ畑は、変わらず静かだった。
 
「そういえば訊いたことなかったけどさ、リサコはなんで魔女になりたいの?」
 
「ワタシ!? ……ワタシはねぇ」
 
右に左にと頭をくねらせながら、体を前後に揺らす。
改めて身の上話を聞かせるのは、なんだか気恥ずかしかった。


「ちっちゃい時にね、あの、ホントにちっちゃい時に…あれどこだったかなぁ
 山だったかな、迷子になったの。その、そんなに大きな山じゃないんだけど
 やっぱりほら、ちっちゃかったから……」
 
記憶の糸を手繰りながら懸命に喋るが、どうも話がまとまらない。
 
「それで暗い森の中を歩いているとね、なんか泣きそうになって。
 でもね、泣かなかったんだよ! ガマンしたの。でもね……」
 
「ふわぁ~」
 
間の抜けた声が聞こえてきた。
 
「もう、ちゃんと聞いてよ!」リサコが睨みつける。
 
「ゴメン、ゴメン。ちゃんと聞いてる…よ」
 
言いながらミヤビは目をこすった。リサコは這うようにして体をよせた。
 
「眠いの?」
 
「う~ん…もうちょっと早めに薬飲んどけばよかったね」
 
と笑顔を見せるものの、そうとう辛そうな様子だ。
リサコが寝てもいいよと言うと、一旦は大丈夫と首を振ったミヤビだったが
 
「じゃ、ちょっとだけ横になってもいい?」
 
「うん、ちゃんと見てるから」


「あの…」と言いながら畑の中でもひときわ背の高いオリーブの木を指す。
「木の上に月がきたら起こして。交代するから」
 
リサコが首を縦に振ると、ミヤビは体を重そうにゆっくりと横たえた。
が、すぐさま起き上がると、鼻がくっつきそうなぐらいリサコに顔を近づけた。
 
「でも、それまでにリサコが眠くなったら、遠慮しないで起こすんだよ」
 
その真剣な眼差しに、リサコは思わず身を引いた。何度もうんうんと頷く。
可笑しいわけでもないのに、なぜか口元に笑みが浮かんだ。
 
「ムリは絶対にダメだからね。ふたりとも眠り込んじゃって、気づいたら朝でした
 は最悪だから。その上、畑荒らされたりでもしたら、信用問題に関わるんだから。
 わかった?」
 
わかったとリサコが答えると、ミヤビはゆっくりと瞳を閉じた。
そしてそのまま落ちるようにして倒れこんだ。
 
「ミヤ?」
 
名前を呼ぶリサコに、ミヤビは寝息で応えた。



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