羽生結弦と「バラード第1番」。

ピアニスト福間洸太朗が絶賛の理由。

http://number.bunshun.jp/articles/-/829157

 

 

《抜粋》

「彼は本当に“音”を捉えるのが上手な選手です」
 

 '15年に行われたアイスショー『Fantasy on Ice』の『バラード第1番』で共演。フィギュアファンの間でも知られるようになったピアニストの福間洸太朗は羽生を絶賛する。

 「フィギュアスケートで使用する場合は、どうしても原曲の大部分が削られてしまう。どうしても音楽家の視点で見てしまうので、最初の頃は少しもどかしさも感じたりしました。羽生選手自身もそう感じる部分があったようなのですが、2分40秒と限られた時間のプログラムの中で見事にエレメンツを凝縮している。あと、これはいつも見ていて感じるのですが、彼は本当に“音”を捉えるのが上手な選手ですよね」

 また、ピアノを弾く上では、楽曲が持つ世界観から離れずに、その曲をいかに自分らしく表現するかも重要だと話す。

 

 

ショパンの真髄に迫らなければならないからこそ。
 
 

 「『バラード第1番』も、何百万人という人が弾くわけですが、それぞれの人が感じる楽曲の世界を表現することも必要ですし、作曲者であるショパンの真髄に迫らなければなりません。ピアノを弾くときはいつも、作曲家の心に一歩でも近づきたいと思っています。その曲がどういう経緯で作られたか、作曲された時代背景などを学び、その曲に秘められたストーリーを理解することは意識しています」

 こうした音楽への理解や解釈は、フィギュアスケートに通じるところがある。

 プロトコル(採点)のプログラムコンポーネンツ(演技構成)に、音楽に合った身のこなしやスピードの変化、演技をこなしているかを評価する「PE(パフォーマンス)」や、音楽を理解し、それに合った動きや表現がされているかを評価する「IN(インタープリテーション・オブ・ザ・ミュージック)」という項目があることがそれを表しているだろう。

 

共演したアイスショーで求められたアドバイス。
 

 福間は共演したアイスショーで、羽生から「3拍子の音の取り方が難しいのでどうしたらいいか」とアドバイスを求められることもあった。

 「羽生選手は、曲(バラード第1番)を気に入っているんだけど、まだまだ演技に納得していないんだなと感じました。具体的に言うと、4分の6拍子(3拍子2回で1小節)だから、3拍子を1つに大きく拍として捉えてみたら、と」

 それがきっかけになっているかどうかは分からないが、福間は2015-16シーズンのプログラムを見て、「すごく滑りやすそうになった」という印象を抱いたという。

 「彼は本当に現状に満足しない努力家。少しずつ技を磨いてあのような素晴らしい滑りができるようになったんですね。今季、再びSPに『バラード第1番』を選んだと聞いて驚きました。しかし、それだけこの曲に思い入れがあるということでしょうし、自信のあるプログラムなんでしょうね」

 

スケーターはアスリートであり、アーティストだ。
 

 常に現状に満足せず、失敗を恐れずチャレンジする姿勢を貫く羽生や、多くのスケーターの競技に取り組む真摯な姿から、福間自身も大きな刺激を受けている。

 「彼らはアスリートであり、アーティストでもあります。自分自身にどんどん挑戦して、理想を越えて、限界に挑戦する。その姿勢を目の当たりにして、自分自身もガラッと変わりましたね。たとえば時期によっては、私たちも演奏会が続いてハードスケジュールになることがあります。さらにはまったく異なるプログラムを1カ月間で、3つ4つ準備しなければなりません。そうなると1つのプログラムにかける練習時間も限られ、気持ちを切り替えるのも実は大変なんです。

 羽生選手の不屈の精神といいますか、妥協しない姿を目の当たりにしてからは、そういった状況に直面しても“これは自分が成長するチャンスを与えてくれているんだ”、“そういう試練をいただいているんだな”と、前向きに捉え、何においても挑戦できるようになりました」

 

命がけでリンクに上がっている姿に心を打たれて。

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