平昌五輪の金メダル争いは激化の一途
羽生結弦は絶対王者になれるか
グランプリファイナルで4連覇を達成した羽生結弦。だが、文字通り「前人未到」の偉業を達成した羽生さえ、わずか1年先の平昌五輪を見通せないのが、いまの男子フィギュアの世界だ。カギを握るのは、「完成度」だ。
■誰からも追随されない羽生結弦に
2018年平昌五輪(韓国)の金メダル争いが激しさを増している。
昨季、世界のトップ争いは、14年にソチ五輪と世界選手権を共に制した羽生結弦(22)と世界選手権2連覇中のハビエル・フェルナンデス(25、スペイン)との間で繰り広げられた。そこに食い込めると思われたのは、11年から13年にかけて世界選手権を3連覇したパトリック・チャン(25、カナダ)くらい。
しかし、16年12月8日から10日にかけてフランス・マルセイユで行われた今季のグランプリ(GP)ファイナルでは、ネーサン・チェン(17、米国)が自分もその争いに加われることを力ずくで証明した。フリースケーティング(FS)で4回転ルッツ-3回転トーループの連続ジャンプを美しく決めるなど、計4度の4回転に成功。FSで、自己ベストの世界歴代4位となる197.55点をたたき出し、ショートプログラム(SP)5位から銀メダルをもぎ取った。
宇野昌磨(19)も割って入る勢いだ。4回転フリップが決まり始め、FSの評価は高い。ファイナルではSP4位をFSで巻き返し、2大会連続の銅メダルを獲得。頂点に手が届くところまでレベルを上げている。試合後には、
「去年は『もうこれ以上無理』という3位だったが、いまは3位に満足していない。そこが去年と違う」
と話し、意欲も高まっている。
翻って、ファイナル4連覇を達成した羽生。完璧に近いSPで首位に立ったがFSではジャンプミスが重なって3位。自分に納得できなかった。試合後は、
「FSの3位という結果は、はっきり言って非常に悔しい」
「このシーズン前半は自分の中では最悪だったと思うくらい、いまめちゃくちゃ悔しい」
と、羽生らしい言葉を次々と口にした。今季は、FSで3種類の4回転ジャンプを計4本。4回転ループを加えて昨季より1種類増やし、本数も1本多くした。とても難しい構成であることは言うまでもない。
スケートカナダではループと後半のサルコウで失敗。NHK杯とファイナルではループを決めたが、後半のサルコウで転倒。
レベルアップ著しい男子の戦いは、いまは荒れ模様だ。それぞれ、難しいジャンプを練習では決められるが、試合ではミスが出る。ファイナルのSPとFSは、総合1位の羽生が1位と3位、同2位のチェンが5位と1位、同3位の宇野が4位と2位、同4位のフェルナンデスが3位と4位、そして同5位のチャンが2位と5位……。早く4回転を安定させて、滑りや振り付けに意識を集中させなければ、羽生といえども安泰とは言えない状況だ。
緊張感の高い試合でもミスなく演技できる確率を高めて、抜け出す者は誰か。FSについて、
「本当は来シーズン完成させられればと思っていた」
という羽生は、ライバルに追い上げられているという危機感からか、
「いまの悔しさ的には、今シーズンの後半には完成させたい」
と計画の前倒しを宣言した。
「悔しいし、点数を上げて、誰からも追随されないような羽生結弦になりたい」
今年はピーキングを大事にしているんです!
今シーズン怪我があってこれだけの成績を残していることを褒めてほしいです
怪我で出遅れているし、
まだまだ、プログラムは完成の途中です。
SPもファイナルでやっとロックになってきました。
そして、ファイナルのSP、FSの順位はいかにSPとFSを揃えることが難しいかを語っています。
つまり、羽生選手がいかに素晴らしい選手か
昨年どんなに凄いことをやってのけたのかを語っているのと思います。
フィギュアスケートの理想だったのかもしれません。
スポーツの面では肝心な時に成績を残せることが大事。
肝心な時、それは世界選手権であり、オリンピックです。
肝心な時に成績を残すにはピーキングが大切だと思っています。
だから、ファイナルはこの成績で良いのではないでしょうか?
世界選手権で完成させてくださいね
昌磨くんも昨年の世界選手権での成績を悔しがっていますね。
結弦くんが世界選手権で、今シーズンの自己ベストが出来ますように
結弦くんの笑顔が見れますように
■浅田真央「不調」でも出場枠3を取れるか
2015年世界国別対抗戦以来のガッツポーズだった。
GPファイナルの女子FSで、ほぼミスのない演技をした宮原知子(18)。「強い女性」を演じきり、握りしめた両拳を頭の上に振り上げた。
「SPで思った以上の点数が出たので、このチャンスを絶対逃したくなかった。きっといい点を出してくれるという思いがあった。いけるという気持ちを持つようにしました」
FSと合計で、浅田真央(26)の日本女子最高記録を超え、実力で銀メダルをつかんだ。
今季前半、課題であるジャンプの回転不足克服に苦心した。練習では高さが出るのに、試合になると縮んでしまう。悩んだことで試合で硬くなり、ますます跳べなくなる。多くの選手が、そんな悪循環で崩れていく。
自信を持つために、出水慎一トレーナーとガッツポーズを練習した。出水トレーナーは、
「これが(集中する)スイッチになる」
と話す。「はい、ガッツポーズ」と言われて手を上げることを繰り返すうち、宮原は演技のいいイメージを持てるようになったという。
平昌五輪で日本の女子が出場枠「3」を確保することを考えると、宮原の成長は大きい。出場枠の多くは、17年3月末から4月にかけてフィンランド・ヘルシンキで行われる世界選手権で決まる。3人が出場する日本は、上位2人の順位の合計が13以内なら3枠。それを超えると2枠以下になる。
昨季の世界選手権では、宮原が5位、浅田が7位だった。頼りの浅田はいま、長く競技を続け、高い負荷をかけ続けてきた影響でひざがすり減り、痛みが走ることもある状態。今季のGPシリーズは、初戦のスケートアメリカで6位、2戦目のフランス杯ではミスを連発して過去最悪の9位。滑りにはスピードがなかった。
世界選手権で表彰台争いができるという「計算」が立つのは、現在のところ宮原のみ。五輪の出場枠取りに向けて、他の選手にかかる重圧を減らすことができるだろうか。(朝日新聞スポーツ部・後藤太輔)
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