【オリジナル小説】古高俊太郎誕生日☆第二幕 | 古高仁乃の艶が~る☆

古高仁乃の艶が~る☆

『世に潜む日々の中、あんさんはわての天女やった』
古高俊太郎さまが大好きな仁乃のブログです。
艶が~るの攻略や感想などぼちぼち書いていきます。

*艶が~るオリジナル小説です*




【備考】
・主人公の名前は『艶子』

・名前表記は、俊→俊太郎サマ、艶→艶子










☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



シーン:揚屋




艶(………)

(窓も襖も締め切ったお座敷で、私は揺れる行灯の灯りを見ていた。
あれからどの位経ったのだろう。
物凄く長い時間が過ぎたような気もするし、まだ三十分も経っていないような気もする。
あたりはとても静かだった。
…私がずっと、両手で耳を塞いでいるからだ。)


(俊太郎さまの提案は、用向きが終わるまでこのお座敷で待っていてほしい、というものだった。
どのくらい時間がかかるか分からないから、今夜はその前に少し会うだけのつもりだったようだ。
けれど、私が彼の誕生日を祝おうとしていたことを知って…、)

艶(待っていてくれないか、って言ってくれたんだよね)

(願ってもない提案に、もちろん私は快諾した。
そして、ひとつだけ約束を交わす。
自分がまたこのお座敷を訪れる時までずっと、耳を塞いでいてほしい、と。)


艶(“どうしても今日会わなければならない人”との会合場所が、この隣のお座敷だなんて)

(偶然のようだけど、その会合はこの隣のお座敷で行われている。
俊太郎さまは何も言わなかったけれど、会合の内容は私が聞かない方がいいものなのだろう。
だから私は耳を塞いで、彼が来るのを待っていた。)

艶(“どうしても今日会わなければならない人”って、どんな人なんだろう?)

(俊太郎さまの様子からして、とても重要な人なのだろう。
俊太郎さまの仲間の方には、何人かお会いしたことがある。
今日会っているのは、その方々ではないのだろうか。)

艶(……なんだか、女の人の声も聞こえる気がするんだよね)

(ここは揚屋だから、どのお座敷からも女の人の声がしている筈だ。
隣から聞こえたのは、気のせいかもしれない。)

艶(………)

(心がざわりと揺らぐ。
ほんの少しだけなら、聞いてもいいんじゃないか。
またすぐに耳を塞げば、きっと大丈夫だろう。
聞いたとしても、そもそも私にはわからない話なのだから、耳を塞ぐ必要はないのかもしれない。
都合の良い理由をいくつも考えて、私は耳に添えた手を外そうとした。)

艶(少しだけ、ほんの少しだけだから)

(だけどその度に、耳を塞いでいてほしいと約束した彼の声が蘇る。)

艶(ううん、駄目だよ。約束したんだから)

(知りたい気持ちと、約束を守りたい気持ちの間を幾度も行き来する。
…そうして、どの位の時間が過ぎたのだろう。
痺れて感覚を失った私の手が、一回り大きな手のひらに覆われた。)

艶『あ…』

(優しく握られた手は、ゆっくりと下に降ろされる。
暫くぶりに自由になった耳が、背後に微かな衣擦れの音を感じ取った。
肩が温もりに包み込まれて、そのままぎゅっと抱き寄せられる。)

俊『艶子』

(甘い囁きが耳をくすぐる。
長い時間、無音の中にいたからだろうか。
彼の声が、深奥にまで響き渡る。)

俊『こない待たせてしもて堪忍。寂しかったやろうに』

艶『…っ』

(柔らかな感触が外耳を掠めて、体がぴくりと震えてしまう。
そんな私を吐息だけで笑い、彼は言葉を続けた。)

俊『耳が真っ赤や。わてとの約束、守ってくれはったんやね』

艶『はい』

俊『おおきに』

艶『あ…』

(再び耳元に口付けられる。
労るように優しく唇で触れられて、じわりと温度が高まっていく。)

艶『俊太郎さま』

俊『へえ』

艶『あ…っ』

(耳たぶをやんわりと食まれると、呼応するように声が溢れてしまう。
乱れる呼吸が恥ずかしくて、私は彼の着物をぎゅっと握りしめた。)

俊『かいらしい』

(耳のすぐそばで囁かれる低い声は、芯から私を溶かしていく。
耳元から降りた温もりが首筋を辿り、愛でるようにうなじを這った。
ぞくりと背筋が震えて、私は握りしめた彼の着物を無意識に強く引き寄せていた。)

俊『…堪忍。悪戯が過ぎましたね』

(その言葉と共に、温もりが離れていく。
すっかり力の抜けた私は、逞しい胸元にしなだれる。
閉じ込めるように腕を回されると、甘い香りに包み込まれた。
優しく頭を撫でられながら、私はうっとりと目を閉じる。)

俊『すんまへん。我儘を言うてしもて』

(余韻を残したままの私は、小さく首を振る。)

艶『そんなこと…』

俊『誕生日の祝いなど、考えたこともあらへんかったさかい。せやけど、随分前からあんさんと約束しとったんやから、気付くべきやった』

艶『いえ……あっ!』

(はっとした。
今日は俊太郎さまの誕生日のお祝いをしようとしていたのだ。
そんな大事なことを忘れかけていただなんて、とんでもないことだ。
私は慌てて体を起こす。)

艶『俊太郎さま』

俊『へえ』

艶『…もう一度、初めからやり直してもいいですか?』

俊『やり直し?』

艶『はい。俊太郎さまのお誕生日を、もう一度初めからお祝いしたいんです』

(計画通りにはならなかったけど、それでも出来るだけのことはしたい。
俊太郎さまの誕生日は、もう間もなく終わってしまうだろう。
残されている僅かな時間で、精一杯お祝いしたい。
俊太郎さまは緩やかに目を細め、喜んで、と答えてくれた。)


(ふたりきりのお座敷に鳴り響くのは、三味線の音色。
お座敷では日常的な光景だ。
けれどこの曲は、この時代にはあり得ないものだ。
“ハッピーバースデイ”
以前、私の誕生日に彼が贈ってくれたこの曲を、今度は私が三味線で奏でる。
演奏で精一杯で歌は歌えないけれど、一音一音丁寧に弦を弾いた。
どうにか間違えずに、最後まで弾き終える。)

艶『お粗末さまでした』

(緊張しながら顔を上げると、俊太郎さまは和やかな笑みを浮かべていた。
ほっとしながら三味線を置いて、私は彼の傍へと歩み寄る。)

俊『おおきに。あんさんの真心がよう伝わってきました。稽古が大変やったろうに』

艶『いえ、そんなことないですよ。あと…もうひとつ、渡したいものがあって』

(近くに置いていた風呂敷を開けて、その中にある包みを取り出す。)

艶『誕生日の贈り物なんです。大したものじゃなくて申し訳ないんですが』

(そう言って差し出した薄い包みを、彼は大事そうに受け取ってくれる。)

俊『おおきに。開けてもええ?』

艶『はい、もちろんです』

(俊太郎さまは丁寧に包み紙を開いていく。
中からでてきたものを見て、彼は優しく口元を綻ばせた。)

俊『美しい色や』

(彼が手にしているのは、藤色の絵半切。
上品で、綺麗で…妖艶な魅力を纏う彼に似合う色だ。
いざこうして手にして貰っても、よく似合っていた。)

俊『それに、ええ香りやね』

艶(……!)

(私は顔をひきつらせた。)

艶(気付かれちゃった…!?)

(鼓動がばくばくと暴れだす。)

俊『艶子?』

艶『は、はい?』

俊『この文香は、あんさんが纏ってはるもんと同じやありまへんか?』

艶『……!!』

(かあっと顔が熱くなる。
密かな企みがこんなにあっさりと見抜かれてしまうとは予期しておらず、私は思わず俯いてしまう。
彼の言う通り、絵半切りには香が焚きしめてある。
けれど、鼻先まで近付けなければわからない程度の、仄かなものだ。
受け取った人でさえきっと気付かないだろう。
…この文香は、絵半切に文字を書いた人の指先に纏わせる為のものだから。)

艶(こっそり、俊太郎さま自身にもわからない位に微かな香りを…って思っていたのに)

(彼はきっと、この絵半切を私の為に使ってくれるだろう。
逢状でも、手紙でも。
そうしたらその指先には、この香りが纏うのだ。)

俊『艶子?』

(彼は俯く私に手を伸ばして、そっと顔を持ち上げる。
頬を真っ赤に染めた姿を見て、僅かに目を見開いた。)

俊『どないしました』

艶『あの…私』

艶(やっぱり恥ずかしい…。こんな卑しいこと、伝えられないよ)

(眉を下げる私の頭をそっと撫でて、俊太郎さまは私の言葉を待っている。
けれど、目を合わせたままではとても言えそうにない。
私は彼の胸元に顔を埋めて、掠れた声で話し始めた。)


艶『…それで、香を纏わせたんです』

(恐る恐る、全てを打ち明けた。)

艶(どうしよう、ひかれちゃったかもしれない)

(そんな不安を雲散霧消するように、彼は強い力で私を抱き締めた。)

艶『…っ!』

俊『艶子』

(更にぎゅっと抱き寄せられる。
強い力に驚きながら彼を見上げると、そのまま唇が重なった。)

艶『ん…』

(迷わず舌先が差し込まれて、甘く絡まる口付けに、もう何も考えられなくなる。
彼らしくない強引な口付けが、私の胸を焦がしていく。)

俊『…いつの間にこないことを言うようになったんやろか』

(口付けの合間に落ちる囁き。
またすぐに唇を塞がれてしまうから、私は何も言葉に出来ない。)

俊『悪い子や。こないにわてを惑わせて、誘いはる』

艶『そんな』

(また唇を奪われて、私の心ごと捉われてしまう。)

俊『…悪い子や』

(掠れた言葉に伴う、深い吐息が艶めかしい。
高鳴る鼓動が苦しくて、縋るように手を伸ばす。
広い背中を抱き締めると、俊太郎さまは切ない色を瞳に宿し、再び唇を重ねた。
そのままゆっくりと押し倒される。)

俊『わてはあんさんのものやさかい』

(いつもの余裕を失くした彼が、私の唇を指先でなぞる。)

俊『指先だけやのうて、全部、あんさんのものや。…教えてあげまひょ』

(私の唇を撫でた指先に、愛し気に自らの唇を押し当てる。
その光景に見惚れる刹那、唇が塞がれる。
息継ぐことさえ許されない、深く絡まる口付け。
甘い目眩に浸されながら、私の温度は高まっていく。
その熱に身を委ね、私はゆっくりと体から力を抜いた。)




      第二幕END